「夫が都知事選に出馬した日、私は離婚した」エッセイスト・紫原明子さんが語る「家族無計画」という生き方

はみ出したなりに楽しい生き方

紫原明子さんが離婚を決意したのは2年前。元夫の家入一真氏が都知事選に出馬するタイミングだった。出馬表明の前日、深夜まで説得を試みたが、かなわなかった。

「翌日、家を出た夫はその足で会場に赴き、都知事選出馬表明の記者会見に臨んだ。同日、私は区役所に離婚届を取りに行き、その翌々日に、私たちは晴れて離婚した」

紫原さんの初のエッセイ集「家族無計画」はこんな書き出しで始まった――。

家族無計画 / Via amazon.co.jp

無計画なくらいで、ちょうどいい

「シングルマザーの子育て」「ママ友問題」「セックスレス」。家族にまつわるデリケートな問題に切り込む。いったい何が「無計画」なのかといえば、「ほとんどすべて」かもしれない。

ネットで知り合った男性と18歳で結婚、19歳で出産。夫は脱サラして起業し、株式上場を果たすなど大成功を収めるものの、生活はどんどん派手になっていく。結果的に、離婚した。

紫原さんは31歳にして、シングルマザーとして社会人デビューを迫られることになる。

まさにジェットコースターのような展開。だが、「恥ずかしながら我が家は無計画にやってきて、最終的に離婚はしたものの、今はそれぞれがけっこう楽しくやっています」と明るく話す。

むしろ従来の家族観に縛られるほうがキツい時代なのかもしれない。

「家族って何かと責任を伴う共同体です。こうじゃなきゃいけないっていう保守的なあり方が、長い間幅を利かせてきたようにも思います」

だからこそ紫原さんは心配している。「ガッチリした形に縛られ過ぎたせいで不幸になったり、家族を持つことを過剰に負担に感じたりする人も少なくないのでは」と。

この「家族無計画」というタイトルに込められたのは、紫原さん家族のリアルな姿であり、いまこそ求められている「ちょっと柔軟な組織」としての家族像の提案だ。

紫原明子さん 撮影/黒坂明美

31歳で初めての仕事。そしてエッセイストに

紫原さんの初めての就職は知人の伝手で見つけた、イベントスペースの運営補助の仕事。それと同時に2013年から個人でブログも始めた。

このブログが瞬く間に人気となる。手作りパンについて語っているかと思えば、夫婦生活のきわどい話やキャバクラ潜入ルポがいきなり差し込まれる。絶妙なバランスの楽しさが読者を惹きつけ、他媒体での寄稿や連載の仕事を受けるようになった。

最速でプロのエッセイストになったブロガーではないだろうか。その秘訣についてはこう話す。

「ある時期から急に、ブログの記事をたくさんの人に読んでもらえるようになりました。秘訣というとおこがましいですが、文章をより多くの人に読んでもらうためには、個人で語れる特殊な体験と、世間の人たちの関心ごとが、一番大きな面積で重なる話題を探すといいのかなと思います」

2児の母として、忙しい日々

現在はエッセイの連載を複数抱えるほか、ニュースアプリを提供するIT企業に週2日ほど勤めている。柔軟な働き方を実践しており、単発的に別の企業からウェブメディア運営の相談を受けたり、広報代行業を請け負ったりもしている。

しかし、プライベートでは2児の母。毎日のスケジュールは多忙を極める。

早朝に起きたら、まず洗濯乾燥機を回し、犬のトイレシーツを交換する。主に目玉焼きとトーストの朝ごはんを作り、子供たちに食べさせ、学校に送り出す。

自分の準備をして出勤し、夕方まで仕事。長女を塾に迎えに行った後、スーパーやデパ地下でお惣菜を買って帰宅、主菜や副菜を作って夕飯となる。

塾から帰ってきた長男に遅めの夕飯をとらせると、ようやく原稿を書いたり、本を読んだりする時間。そのままソファで寝てしまうことも、たまにある。

長雨なら、諦めてその場所を離れるのも1つ

18歳で結婚して以来、31歳まで専業主婦だった。初めての就職は、想像以上に困難だったはず。どんな心持ちだったのだろうか。

「変な言い方ですが、苦しい状況が自分に負担をかけている、と自覚すると気楽になれるんです」

紫原さんは淡々と続ける。

「止まない雨はない、とよく言われるように、どうしようもないときに雨が止むまでじっと待つのも1つの手ですが、あまりにも長雨なら、諦めてその場所を離れた方が早いときもあります」

気楽に生きる方法は、探せばどこかにある。「苦しいことに慣れてしまわないのがコツ」と紫原さん。必ずしも逆境をそのまま受け止めることはない。

「今こんな特殊なスタイルで仕事が成り立っているのはとてもラッキーなことですが、いいことも辛かったことも、過去の何が欠けてもこうはなっていなかったと思っています」

決め事は全て(仮)でいい

自分を型にはめず、あえて「無計画」でいることは、この世の中を軽やかに生きていく1つの方法論だという。

「本の中で、『決め事は全て(仮)でいい』という提言をしているんですが、これは具体的に言うと、物事を決めるときに、半分くらいは考えをもって挑む、あとの半分は状況に委ねる余白を残しておく、ということなんです。だから厳密に言うと、半分くらい無計画でいいんじゃないか、と思います」

大人はあらゆるリスクを予測し、より安全な道を選ぶもの。そう考えるのがこれまでの当たり前だったかもしれないが、いまや誰にも予測できないことだってたくさん起きている。

「思いがけず既存のレールからはみ出してしまったら、今度は、はみ出したなりに楽しい生き方があると思うんです。それを、なるべく許容できる心持ちでいた方が、より楽に生きられます」

子供には「この本をネタにしてほしい」

じつは元夫の家入一真氏も昨年、ITベンチャーの起業で成功するまでの道のりと、その後の転落を描く自伝「我が逃走」を出版したばかり。

我が逃走 / Amazon / Via amazon.co.jp

「パパに次いでママまでも、うちの恥ずかしい話を本にしてしまったね」。紫原さんが長女に投げかけたところ、返ってきた答えは「私も将来、“薄い本”(同人誌)を出してコミケで売る」。

立派に育ってくれてありがとう、という気持ちになった。

「いろいろあったので、子供たちも、少なからず大変な経験をしたかと思いますが、将来はどんどんこの境遇を話のネタにして、笑いをとっていってほしいと思います。これが、親として我が子に与えられる唯一のものだなと…」

ところでこの本、家入一真さんには送りましたか?

「あ、忘れていました。ただ、ウェブで連載が始まったときに、『僕が言うのも何だけど、すごくいい連載だと思う』とメッセージをくれたので、きっとすでに10冊くらい買ってくれていると信じてます」

そして、こう付け加えた。

「そういう器の大きさのある人なんですよ」




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