弘法筆を選ばず、なんて言葉があるものの、作家は、これじゃないとむり、という道具をだいたいお持ちであると思う。
たとえば小説書きとしての私は、「Word」ではなく、「一太郎」でないと書く気がしない。ダサい、といわれることがあり、そのたびに憤慨するのだが。
先日、漫画描きとしての私は、ある作家さんからの情報でちょっとした衝撃を受けた。すぐにサイトに行って確認した。
文房具メーカー「Pilot」が販売している筆ペンなのだが、赤字表記の文言が問題なのである。「この製品は在庫が無くなり次第、販売中止となります」とある。
えーっ!
じゃあ、これからツヤベタはなにで描けばいいの? とショックを受けている漫画家が、少なからずいるはずである。
ニッチな定番商品
ツヤベタとはなにかを説明しておくために、自前のキャラ、ロラン氏を描いてみた。
彼の髪を、まっ黒(完ベタ)にするのではなく、光があたってつやを帯びているように見せるテクが、「ツヤベタ」である。
(上手な作家さんの見本で示したいのだが、著作権を考慮しているのでご勘弁願いたい)
完ベタでぺたっとした平面的な印象になるのを避ける意味合いと、キャラを華やかな印象にする意味合いがある。髪だけでなく、レザーや黒革といった衣服の質感をだすためにも多用される。
これがなかなか難しく、スタッフの多い仕事場には、ツヤベタ専門のアシスタントがいたりする。私も何本もの筆ペンを費やして練習を重ねたが、納得のいく技術を身につけることはできなかった。
技術の研鑽だけでなく、道具も選ばざるをえない。そして私の経験上、ツヤベタにもっとも適しているとされたのが、Pilot「筆ペン 小筆軟筆」だ。
まもなく手に入らなくなるということで、すでに買いだめした作家もいらっしゃるだろう。情報を聞き逃して手に入れられず、これを機に画材を変える作家もいるはずだ。
道具が変われば、画風にも少なからず影響がでる。思うように絵が描けないときの苦しさやいら立ちは、筆舌に尽くしがたいものがある。作家によっては、髪型の変更すらするはめになるかもしれない。
近日中にあなたの好きなキャラの印象が変わったら、この商品の生産中止が原因の可能性もなきにしもあらず。
かりに名作『スラムダンク』の連載中に生産中止になっていたなら、坊主頭になっていたのは、リーゼントの桜木花道ではなく、ツヤベタヘアーの流川楓だったかもしれない……!
Before↓
(タッチを見るかぎり、井上先生はこの筆ペンの利用者ではないです)
アナログ漫画家御用達の道具はいろいろあるが、漫画家という職に就いている人数があまりにかぎられるため、漫画家御用達、くらいでは、メーカーは採算が取れないだろうことは容易に察せられる。
これからもどんどん定番商品が消えていくのだろう。漫画家の命であるペン先の商品クオリティが下がってきているなんて話も耳にする。
手書きの小説家などほぼいなくなったように、アナログ漫画家が過去の存在となる日は、思っている以上に早いかもしれない。
なぜか顔にもインクがついていたり、風呂に入ったらトーンのカスが浮かんだり、なんてことが、なくなるんだなあ。
手描きですよ!
日刊ゆる四コマ『ペットボトルくん』
その28
内容だけでなく絵柄もゆるゆるな『ペットボトルくん』だが、執筆にあたっては、「ぺんてる」の「ぺんてる筆(中字)」がないと書く気がしない。こんな感じでも、それなりのこだわりがあるのである。
おまけ
な、なんと!
『ペットボトルくん』普及のため、あの名作漫画とのコラボが実現しました!
雑誌の広告ページなどですでにご覧になった方もいらっしゃるでしょう。
こちらです!
(ジャンプ裏表紙より)
まさか子どものころに読んでいたキャラクターと共演できる日が来るとは、人生はなにが起きるかわからぬものだ。
……はい、雑コラ(コラージュ&コラボ)、失礼しましたっ!