(写真:花ざかりの森)
「科学的根拠に基づく(本当に体に良い)食事」に関して多くの反響がありました。その中で一番多かったご質問が今回のブログのテーマである「白米は体に悪いって本当ですか?」というものでした。今回はそれに関してご説明いたしますが、その前に3つほどこれらの記事を読むにあたって理解しておいて頂きたい注意点を述べさせて頂きます。
1.「科学的根拠に基づく食事」に関する注意点
(1)私の書いている「科学的根拠に基づく食事」は健康な成人を想定しています。そのため、高血圧や糖尿病などのいわゆる一般的な生活習慣病を持っている人たちの多くには当てはまるものの、小児、食欲の落ちている虚弱体質の高齢者、妊婦、透析患者さん(もしくは透析手前の慢性腎臓病患者さん)など「特別な食事」が必要とされる人たちには当てはまりません。よってメタボなどの軽い生活習慣病を持っている人たちは自分に当てはまると思って読んで頂いて良いのですが、重い病気を持っている人や特殊な事情がある方は、主治医に相談して頂くかコメント欄よりご相談ください。
(2)私は加工肉、赤肉、糖質(炭水化物を含む)等は「体によくない」と説明しているのであって、「食べない方が良い」と主張しているのではありません。全ての人はその食事によって得られるメリットとデメリットを十分理解した上で(Informed decision making)、何を食べるか選択するべきだと考えています。甘いものが好きな人にとっては甘いものを食べることで生活の質(QOL)が上がるかもしれません。甘いものをゼロにすることで健康にはなるけれども人生が楽しくなくなってしまうかもしれません。そのような場合には、QOLと健康を天秤にかけて、毎日少量の甘いものを食べるという食事を選択するのも合理的な判断であると思います。しかし、そのような食事を正当化するために、「甘いものも少量であれば健康に悪影響は無い」と解釈することはお勧めしていません。そのように科学的根拠を曲解することは他の人にも間違った情報を与えてしまうリスクもあるためです。
(3)どれだけ運動しているかで摂取して良い食事内容も変わります。つまり、普段からマラソンなどの運動しているアスリートで健康診断で何一つ問題を指摘されていない人と、仕事が忙しくてほとんど運動していない人とでは、適切な食事内容も変わってきます。例えば、炭水化物に関して言えば、良く運動している人は少量であれば摂取して良いかもしれませんが、ほとんど運動ゼロの人であれば摂取量を最小限にとどめた方が良いと考えられます。
2.「白米は健康に悪いって本当ですか?」
前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。結論から言うと、白米は体に悪いと考えられます。以前のブログにもお書きした通り何をもって「体に悪い」とするかによりますが、ここでは前回同様に「病気になりやすくなる」ことをもって体に悪いとすることにします。そして、科学的根拠(エビデンス)によると白米の食べる量と糖尿病のリスクとの間には正の相関があるため、白米は「体に悪い」と考えられます。
2012年に世界的にも権威のあるBMJ(英国医師会雑誌)に、白米と糖尿病の関係に関する4つのコホート研究(ランダム化比較試験ではありません)の結果をまとめたメタアナリシス研究の結果が発表されました。白米の摂取量が1杯(158g)増えるごとに糖尿病になるリスクが11%(1.11倍;95%信頼区間:1.08~1.14)増えることが明らかになりました。(もちろんコホート研究は観察研究なので因果関係を決定付けるものではありませんが、ここでは因果関係があると仮定しています)
こういう話をするとしばしば「日本人では違うはずだ」という話になります。では日本人のエビデンスを見てみましょう。上記のBMJの論文でもデータとして用いられていますが、アメリカ栄養学会の学会誌であり栄養疫学の分野ではトップジャーナルであるAmerican Journal of Clinical Nutrition(AJCN)という雑誌に、2010年に日本人のデータを用いた研究が掲載されました。この研究によると、日本人においても白米の摂取量が多ければ多いほど糖尿病になる可能性が高くなることが明らかになりました。
表1に主な結果をまとめました。ごはん茶碗1杯で約160gであることを考慮してイメージしてみて下さい。男性では、白米を(およそ)1日2杯ほど食べるグループと比べて、1日3杯食べるグループでは5年以内に糖尿病になるリスクが24%高いことが分かります。95%信頼区間が1.00を含むので統計学的に有意かどうかは微妙ですが、もしもう少しサンプルサイズが大きければ統計学的に有意になったと予想されます。1日3杯食べるグループと、それ以上食べるグループではほとんど差はありませんでした。ひょっとしたら1日2~3杯が糖尿病のリスクが上がりはじめる境界なのかもしれません。
女性ではもっとシンプルな線形の関係が見られます。白米を1日1杯しか食べないグループに比べて(最も少ないグループの白米摂取量が男女で違うので注意が必要です)、1日2杯食べるグループでは15%、3杯食べるグループでは48%、4杯食べるグループでは65%も糖尿病になるリスクが高くなることが分かりました。
表1.日本人における白米摂取量と5年以内に糖尿病になるリスクとの関係
| 最も少ないグループ | 少ないグループ | 多いグループ | 最も多いグループ | ||
| 男性 | 白米摂取量(g/日) | 280 (0-315) | 420 (>315-420) | 560 (>420-560) | 700 (>560-4100) |
| 糖尿病の相対リスク | 1.00(参照カテゴリー) | 1.24 (1.00, 1.55) | 1.25 (0.93, 1.67) | 1.19 (0.85, 1.68) | |
| 女性 | 白米摂取量(g/日) | 165 (0-278) | 315 (280-417) | 420 (420-420) | 560 (≥437) |
| 糖尿病の相対リスク | 1.00(参照カテゴリー) | 1.15 (0.85, 1.55) | 1.48 (1.08, 2.02) | 1.65 (1.06, 2.57) |
※白米の摂取量は各グループの中間値(最小値、最大値)を示す。糖尿病のリスクに関しては論文中ではオッズ比で示されているが、糖尿病の発生率が1.9%と低いためリスク比に近似すると考えられる。糖尿病のリスクは年齢、総カロリー摂取量、運動量、その他の食事、BMI等で補正されている。
(出典:Nanri et al., 2010)
ただこうした解釈は、1杯2杯といった摂取量の推定が正しいことを前提としたものです。この研究は保健所を通じて参加した健常者に食事調査を行って、5年間追跡したものです。白米の摂取の調査自体に誤差を含み、さらに追跡中の食生活の変化も考えられます。従って、「1日2杯の白米」とは本当にきちんと1日2杯分の量を食べていたのか、ということは実は正確には分かりません。このことを踏まえると、白米を食べる量が多い人ほど、糖尿病に罹る確率が高くなっている傾向が確認できた、という理解に留めるのが無難でしょう。
3.「白米の食べすぎは良くないけど普通に食べている分には大丈夫なのではないでしょうか?」
次に出てくる質問は、白米の食べすぎは良くないけど、普通に食べている分には問題なのではないでしょうか?というものです。この「食べすぎ」という曖昧な表現が曲者なのですが、まず考えないといけないのはどれくらいが「食べすぎ」なのだろうか?と言うことだと思います。「食べすぎ」によってイメージする白米の量は人によって全然違うのであまりお勧めしません。上記の研究でも示したように、2杯/日の白米でも糖尿病のリスクは上がり始めていますが、昼ごはんで1杯+夕ごはんで1杯の白米は多くの人にとってそれほど「食べすぎ」ではないと感じられるのではないでしょうか?
ちなみに日本人の研究では一番少ないグループでも白米を男性で2杯/日、女性で1杯/日食べていました(図1)。よって今これくらい食べている人が、これ以上減らしたら糖尿病のリスクが下がるのでしょうか?それともこれが下限でこれ以下の量では糖尿病のリスクは一定なのでしょうか?この質問に答えるため、はじめのBMJの論文を見てみましょう。実は西洋人の白米の摂取量はアジア人よりもかなり低いため、この摂取量の少ない部分のデータも見ることができます。
図1. 白米の摂取量と糖尿病の発生率の関係
※白抜きの丸はアジア人のデータを示し、グレーの丸は西洋人のデータを示す。X軸は白米の摂取量(1日あたり)、Y軸は糖尿病の発生率(100,000人年あたり)を表す。
(出典:Hu et al., 2012)
この図を見て頂ければ、アジア人の方が西洋人よりもはるかに白米を食べていることが分かると思います。白米の摂取量が1日150g以下のところは西洋人のデータしかないのですが、この部分を見ると150g以下でも白米を食べる量が多くなるほど糖尿病のリスクが上がることが分かって頂けると思います。西洋人のデータだけで白米と糖尿病の関係を見ると、リスク比は1.12(95%信頼区間:0.94~1.33)であり、統計学的に有意な関係ではありません。それでもなお白米の摂取量が多いほど糖尿病のリスクが上がる「傾向にある」と言うことができます。
個人的には白米の摂取量と糖尿病のリスクとの間には正の相関があるので、減らせるのだったらできるだけ少ない摂取量に方が良いと考えます。さらには糖尿病の家族歴があると糖尿病になる確率はプラスαで高いので、少しでもリスクを下げるためにもできるだけ白米を含む炭水化物、糖質は減らした方が良いでしょう。
4.白米とがんとの関係
つい先日、BMJに報告されたメタアナリシス研究があります。メインの研究では雑穀類の摂取量と心筋梗塞やがんとの関係を見ていたのですが、その中でサブ解析として白米の摂取量とがんとの関係が検証されています。その論文からの図を下に示します(図2)。お米の摂取量とがんとの間には特筆すべき有意な関係は認められませんでした。
図2.白米とがんの関係
※白米の摂取量が100g/日増えるごとに相対リスクがどれくらい増えるかを示している。
(出典:Aune D et al., 2016)
5.でも米の摂取量を減らしたらお腹が空いてしまうのです。どうしたら良いのでしょうか?
前回のブログでもご説明したとおり、ただ単に食事の量を減らすことはお勧めできません。多くのダイエットが成功しないのと同様に、お腹が空いていてもがまんしているのは拷問に近く、理性によってコントロールすることが不可能に近いからです。ですので、私は食料の種類を「置き換える」ことを推奨しています。一つの方法は白米を玄米やその他の雑穀類に置き換える方法です。そうすればごはんをお腹いっぱい食べられますし、食事内容を大きく変える必要はありません。
もう一つの方法は、白米が「主食」であるというマインドセットを変えるという方法です。お米は主食だと思うからどうしても量を食べてしまいますが、必ずしもお米が主食でなければいけないというルールはありません。お米の代わりに、大皿一杯のサラダが主食だとイメージしたらどうでしょうか?魚や肉(たんぱく質)がおかず、サラダが主食、そしてもしどうしても白米が食べたければおかずの一品として白米やそれを含んだ食事を摂取する。この食事スタイルだと白米の摂取量をコントロールすることがだいぶ楽になると思います。
※この記事を書くにあたって栄養疫学者である今村文昭先生(英国ケンブリッジ大学)に多くのアドバイスを頂きました。ありがとうございました。
いつも興味深く拝見しています。今回の記事も面白かったです。
こうしたエビデンスは、以前から指摘されていたところですが、日本人にとっては非常に悩ましいものがありますね。農水省でも「米を食べて糖尿病を予防しましょう」というキャンペーンを行っていたことがありましたし、推進されている食事バランスガイドとの齟齬もあります。
記事の内容に一つ疑問があります。
前回記事、今回記事に共通するところなのですが、「白米を減らしたうえ、良いとされる食べ物をお腹一杯食べるとよい」とすると、今度はそれらの食物について「多ければ多いほどよいのか?」「(仮に食物のベストバランスがあるとして)バランスが崩れるほど体によくない可能性は?」といった疑問が生じます。
前提として、「我慢せずお腹一杯食べるという価値を満たしたうえで」という条件付きであれば理解できるのですが、実際に「バランスはあまり考慮する必要はなく、多ければ多いほどよい」といった研究結果はあるのでしょうか?
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高橋様、コメントありがとうございます。バランスの良い食事が体に良い(病気の予防に有効である)というエビデンスは無いと思います。最も近いのが食事ガイドラインに沿った食事をした方が体に良いというこの論文(http://goo.gl/u9tWTY)ですが、ガイドラインの中のどの部分の影響を見ているのかはっきりしないと思います(バランスが良いのが良いのではなく、ガイドラインの中のいくつかが体に良いのだと思います)。ほとんどの疫学研究では容量依存性が認められるので、(もちろん極端な量を摂取すれば有害になってしまう可能性も無いわけではありませんが)常識的な範囲内であれば多ければ多いほど良いと個人的には考えています。野菜や果物など私が代わりに摂取した方が良いとご説明している食品は「お腹を一杯にする」というだけでなく、動脈硬化やがんを予防するメリットもあるので、単純に白米の摂取量を減らすよりも、玄米や野菜・果物で置き換えた方が(満腹になるだけでなく)体にとっても良いと思われます。
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返信有難うございます。
津川様のスタンスが理解できました。食事バランスガイドの論文についても踏まえた上でのご意見だったのですね。私自身の見解とは異なるところではありますが。
私には、ガンと食物との関連についての研究成果としての「どうも単純ではないようだ」との考え方がベースにあるようです。まだクリアに確定できる段階ではないと考えています。
そういった意見の相違はさておき、今回、前回の論考はとてもよかったと思います。エビデンスを踏まえること、リテラシーを高めるべきであるとのメッセージを強く感じました。
今後のブログについても、楽しみにしています。
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白米はあくまで炭水化物摂取量の目安となるマーカーの可能性はないでしょうか?1日2杯で糖尿病のリスクが上がるというのは、どうも違和感があります。それより、白米をより多く食べる人は、より炭水化物摂取量が多い(つまり他の甘いものやパスタ、パンなどから摂取している)という解釈にならないのでしょうか。実臨床や実体験から、ご飯を含め炭水化物・甘いものはどうも依存性があるように感じます。糖尿病の人などは、あれほどダメだと繰り返し指導をしても、ご飯や甘いものを食べ続けてしまいます。このことから、個人的には糖分・炭水化物には依存性があるのではないかと思っています。
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コメントありがとうございます。例えばNanri et al.の日本人の疫学研究では、パン、麺類などの他の炭水化物の量は補正した上で、白米の摂取量の影響を見ています。もちろん100%完璧に補正されているわけではないと思いますが、「炭水化物摂取量の目安となるマーカー」では説明できないと思います。詳しくはAJCNの論文をご覧ください。
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