[PR]

 誰でもそうだと思うのですが、自分の体形、気になりますね。そして「太りすぎは健康によくない」というのは、ほとんどの方にとって異論はないと考えられます。では、「やせ」についてはいかがでしょうか?

 肥満しているかどうかを計る指標は体格指数とよばれ、「BMI」(ビーエムアイ)がその代表格となります。「Body Mass Index」の略称で、体重(kg)を身長(m)の二乗で割った数値のことです。医学の世界では広く使用されています。

 日本では、BMIが25を超えると「肥満」としています。身長160 cmの人ですと体重は64kg、170 cmだと72.3kg、180cmなら81kgが肥満の始まりにあたります。欧米では、BMI 25以上30未満は「過体重」と呼び、30以上を肥満としています。BMI30というのは身長160cmで76.8 kg、170 cmで86.7kg、180 cmで97.2kgです。日本独自の基準は厳しいような印象もありますが、170 cmで90kg近くないと肥満と言わない欧米の感覚も、私たちのものとはずれていると思います。

 この過体重・肥満の基準は、疫学データに基づいて決められています。下図は論文から引用された、年齢階級別のBMIと総死亡との関連を示したもので、20歳代から70歳代までわけて、BMIの値と総死亡との関連を示しています。これを見ると20、30歳代はBMIが増加するほど死亡リスクも高くなる関係にあることがわかります。

 40歳代以降も過体重、肥満となるにつれ死亡リスクが高まる傾向は変わりません。一方で、「低体重(やせ)」とよばれるBMIが18.5未満でも、死亡リスクが高くなることがわかります。では、やせている中高年以降の人は、太った方がよいのでしょうか?

 疫学研究でBMIと死亡リスクとの関連でU字状のカーブを示すのは、古くからよく知られた事実です。そして、BMIが18.5未満の低体重の集団で高リスクを示す現象は、「低体重によって死亡リスクが増加した」のではなく、「病気にかかった人々は一般的に低体重になることが多く(例えば、がん)、そのような(死期が近い)低体重の人たちでより多くの死亡が観察される」という解釈が定着しています。

 BMIが低いから死亡したのではなく、慢性疾患を抱えて死期が近いためにBMIが低下した――。このような現象は「因果の逆転」と呼ばれています。因果の逆転は、疫学研究の結果を誤って解釈する危険をはらんでいます。

 有名な例として、飲酒習慣と死亡との関連を調べた研究における「禁酒者」の話があります。こうした研究では一般的に、死亡リスクは飲酒量が多い人ほど高くなります。が、禁酒者の死亡リスクが「適量飲酒者」よりも高くなることがあります。これは「現在お酒を飲んでいる人が禁酒すると死亡リスクが上がる(だから禁酒しない方がよい)」のではなくて、「禁酒するほど体調が悪い(虚弱)ために、こうした人たちでは死亡リスクが高い」と解釈されています。

 では、こうした因果の逆転の影響を除外する方法はあるのでしょうか?

 今まで考えられた方法として、集団の中から慢性疾患を抱え体調が悪い(虚弱な)人たちを取り除いたうえで解析するというものがあります。下の図はアメリカの大規模疫学研究データから2型糖尿病患者さんのBMIと総死亡との関連を検討した結果ですが、「A=全対象者」、「B=早期死亡した人を除外」、「C=非喫煙者に限定」、「D=非喫煙者に限定したうえで早期死亡した人を除外」というふうに、AからDに進むにつれ病気で虚弱な人々が除外されるよう、対象者が限定されています。

 BMIと総死亡との関連をみると、AではU字傾向でBMIが低いカテゴリーで高いリスクが見られていますが、DではBMIのカテゴリーが上昇するに従ってリスクが増加する傾向に変わっています。このように対象者から虚弱と思われる人々を除くことにより、「健康な人ではBMIが増加するほど死亡リスクが高まる」という傾向を明らかにすることができました。

 なおBMIは身長、体重のみで決定されるので、BMIの数値がいっしょでも様々な体格の人々が存在します。下のURLはニューヨーク・タイムズ電子版が載せているいずれもBMI:25.4の男性6人の3D画像です。よく見るとかなり違いますので興味のある人はどうぞ。

http://www.nytimes.com/interactive/projects/cp/summer-of-science-2015/latest/bmi別ウインドウで開きます

 BMIは間接的な体格指標であるのに対し、肥満をはかるものとしてウエスト周囲長や内臓脂肪などがあります。ウエスト周囲長などは腹部の肥満と密接な関連があり、これら指標と死亡との関連はU字状の傾向でなくまっすぐ増加する傾向を示しています。簡単に測定できるBMIはメリットがある一方、肥満測定には限界があるという専門家もいて、その活用法については様々な意見があります。

 U字状のグラフ結果をもとに、「やせている人は太れば死亡リスクが低くなる」と単純に解釈されることがあります。しかし「因果の逆転」がU字の原因であるならば、病気の患者さんがただ単に(高カロリーの食事を大量にとって運動はしないといった方法で)太ったとしても、必ずしも死亡リスクを下げることにはならないでしょう。

 BMIが低い健康なご年配の方々は、栄養や筋肉量の維持に留意されつつ適正体重を保っていかれるのが現実的だと思います。U字グラフの線は一本につながっているとしても、左側(やせ)と右側(肥満)のリスク増加の原因は異なることがあり、その違いをしっかりと解明することも疫学の使命だと思っています。

 これまでの記事を通じて、テレビのニュースや新聞記事、インターネットなどで広く知られている健康情報について、「疫学的に考えるとこうなる」ということを中心にお伝えしてきました。連載はとりあえず今回で終わりとなりますが、これからも研究などを通じて、疫学について社会に発信していきたいと思っています。本連載におつきあいくださり、ありがとうございました。 (終わり)

<アピタル:疫学でヘルシーチェック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/ekigaku/(アピタル・村上義孝)

アピタル・村上義孝

アピタル・村上義孝(むらかみ・よしたか) 東邦大学教授

東京大学大学院医学系研究科保健学専攻博士課程修了(保健学博士)。大分県立看護科学大学、国立環境研究所、滋賀医科大学を経て、2014年東邦大学医学部教授(社会医学講座医療統計学分野)。専門は疫学、保健統計学、大規模データベース研究(循環器疾患)や政府統計の高次利用の研究などに携わっている。