「ヤクルトスワローズの運営会社が食品メーカーのヤクルトだってヤクルトレディになって初めて知ったよ」と彼女は言った。僕も知らなかったので「えっまじで⁈」と思わず叫んでしまった。電車内の乗客が振り向く。
「ちょっと声が大きすぎ」と腕をぐっとつかまれた。赤面症の僕はあわててうつむき視線を逸らした。オレンジ色のビーズをあしらったトングサンダルをはいた彼女の群青色のペディキュアに光る星に見とれていると、
「でもノルマがきつくてさぁ、一日中、ママチャリ漕いでも月に5万なんだよ」と溜息。
「えっまじで⁈」
「だーかーらー、声がデカイっつーの!」
電車内の乗客がまた振り向く。今度は思いきり腕をつねられた。痛い痛い痛い痛い!開いた口を手で塞がれた。なんか生臭い。マキシワンピが臭うのかと思ってくんくん嗅いだら、ぺちんと頬を叩かれた。その細い手首を思わずにぎる。指に沢山の切り傷。
「どうしたんだよこれ」僕は小声で言う。
「切った」彼女は初めて目をそらす「あたし、ぶきっちょだからさ」
あれほどやめろと言ったのに全く。僕は電車がホームに滑り込み扉が開くと同時に彼女の手を引いて言った。確かに僕は魚が好きだがヤクルトレディをしながら料理教室に通うまでもない。だって僕は板前だから。
「魚がダメならウチに来い!」思わず叫ぶ。
おー!と周りの乗客から拍手がおこり、今度は彼女が赤面した。初めて見るカオだ。
翌年6月、挙式、魚のケーキ入刀。June bride