睡眠不足が生み出すリスク
1、太りやすくなる
睡眠不足が太る主な理由は、2つ
①摂取カロリーの増加を招く
②消費カロリーが低下する
なぜ摂取カロリーや消費カロリーに変化が起きるのか?
1、睡眠不足により食欲をコントロールするホルモンの分泌異常が起こるため
人の食欲や代謝を司るホルモンには、「レプチン」と「グレリン」があります。
レプチンは脂肪細胞が体内に増えると脳に働きかけて食欲を抑え、エネルギー消費を増やす働きをし、一方のグレリンは脳の視床下部に食欲増進と血糖値上昇の指令を出します。つまりグレリンの分泌量が増えるほどカロリー摂取量が増え、肥満につながりやすくなるということなのです。
スタンフォード大学の研究によると、1日の睡眠時間が5時間の人は、睡眠時間が8時間の人に比べて、血中の食欲増進ホルモン、グレリンがなんと14.9パーセントも多く、逆に食欲抑制ホルモン、レプチンの量は15.5パーセントも少ないことがわかりました。
つまり、睡眠不足になると食欲を抑えるホルモンが減って、食欲を増進させるホルモンを増加するということです。食欲を抑えるホルモンが減れば当然、お腹が空きます。さらに食欲を増進させるホルモンが増加すればさらにお腹が空きます。
つまり、寝不足になるとバランスの崩れた2つのホルモンが原因でとてもお腹が空く状態になってしまうということです。
2、体の危機管理システムが働く
睡眠不足というのは、いわば体が危険にさらされている状態です。このような状態になると、私たちの脳が“生命の危機”を感じて体に脂肪を蓄えようと働きます。ダイエットをしていて、急激に体重を落とすとリバウンドしやすくなりますが、これも体の危機管理システムが働いた影響です。
これと同じように、少ない食事から過剰にカロリーを摂取したり、消費エネルギーを節約して、生命を少しでも存続させるように体が働くのです。そのため太りやすくなってしまうのです。
3、代謝率が落ちる
睡眠不足が太る理由として、体の基礎代謝が下がります。
睡眠不足の人は、十分な睡眠を取った人と比べて、筋肉量が減るということがわかっています。これは、体がエネルギーを消費する際に、脂肪を蓄積して筋肉を優先的にエネルギーに変換しているからです。
筋肉の量が落ちれば、自然と基礎代謝も落ちてしまいます。カロリーが消費されずらくなるので、運動しても思うように痩せられなくなります。
4、インスリンの働きが変化する
インスリンは、別名「肥満ホルモン」と呼ばれ、糖を脂肪に変える働きをします。
睡眠不足の人は血液中にインスリンが残りやすくなるので、それだけ脂肪が作られることになるのです。
2、作業能率が悪くなる
睡眠不足の日が何日か続くと、明らかに記憶力や認知能力が衰えます。記憶力や認知能力は仕事や勉強には必要な能力です。その能力が睡眠不足によって低下すれば必然的に作業能率も低下します。
睡眠不足が事故率を高める
アメリカで起こった5千件以上の交通事故を分析すると、不眠症患者さんは健常者に比べて交通事故を起こす確率が、3.5~4.5倍も高くなることが明らかになっています。睡眠不足による記憶力、認知能力、判断能力などの低下が交通事故の原因のひとつと考えられています。
睡眠時間を削ると、目覚めているつもりでも運転が下手になる
睡眠時間を削ると、目覚めているつもりでも運転が下手になります。運転シュミレーターを用いて行われたある実験では、徹夜明けに車を運転すると、一定の速度で運転しているつもりでも、スピードにばらつきが大きいことが分かりました。これは、車間距離を一定に保つことが難しいことを示し、追突事故の増加につながる危険な兆候です。
一晩の睡眠時間を5時間に制限したところ、眠気が強くなり車線を外れやすくなることが明らかになりました。これは、走行車線をはみ出して対向車との正面衝突する危険が高まることを示しています。
睡眠不足が蓄積していくと、本人が睡眠不足であることすら自覚できなくなる
一晩でも徹夜すると、本人が居眠り運転を起こす危険性を十分に理解しているので運転が慎重になります。しかし、毎日少しずつ睡眠不足が蓄積していくと、本人が睡眠不足であることすら自覚できずに、交通事故を起こしてしまう危険が高まります。
睡眠不足は飲酒運転と同じくらい危険
睡眠を制限したグループとアルコールを飲んだグループで、居眠り運転の危険性を比べた実験があります。それによると、通常8時間睡っている人が睡眠を2時間削るだけで、体重1キログラムあたり0.54グラムのアルコールを飲んだのと同じ眠気が起きることがわかりました。
このアルコール量は「ほろ酔い状態」にあたり、日本の道路交通法では「酒気帯び運転」で25点、「酒酔い運転」と認められれば35点の違反点数を科せられます。
3、免疫力が低下する
睡眠不足が続いた時、風邪をひいてしまうことがないだろうか?これは免疫力の低下によって引き起こされるものだ。免疫力の低下は、風邪だけでなく、様々な病気をもたらす危険性があります。
睡眠不足が続くとどんな病気になるリスクがあるのか?
1、高血圧になる
血 圧は自律神経と関係しています。睡眠をちゃんと取っている人は、日中は血圧が高くなり、睡眠中には低くなります。睡眠不足になってしまうとこのバランスが崩れてしまいます。脳がいつでも覚醒状態になるため、昼も夜も血圧が高くなってしまうのです。
2、糖尿病になるリスクが高まる
す い臓から分泌されるインスリンは血中の糖分をコントロールしてくれます。睡眠不足になると、このインスリンの効果が弱まり、血糖のコントロールが難しくな り、血糖値が上昇してしまいます。寝不足によってインスリンの効果が弱まる時間が長くなると、必然的に糖尿病になるリスクも高まります。
3、肌の老化を早める
睡眠不足が続くと、ストレスホルモンのコルチゾールが過剰に分泌されるようになります。一方では、成長ホルモンの分泌が減るので、肌の老化が早まります。睡眠は、肌細胞の修復に大きく関わってもいる。睡眠不足になると、肌の修復が十分には行われなくなってしまいます。
4、鬱になりやすくなる
睡眠不足の状態が続くと精神的に不安定になり、元気がなくなって落ち込みやすくなったり、自信がなくなったりします。特に慢性的な睡眠不足は、うつになりやすいことが明らかになっています。
5、ガンのリスクが高まる
睡眠が不規則になると、前立腺がんや乳がんのリスクが高まることが知られています。世界保険機構(WHO)の調査によると、昼夜交代制の勤務を行っている男性を調査したところ、日勤の職場に比べて前立腺がんにかかるリスクが3.5倍も高いことが明らかになりました。その理由は不規則な勤務時間により、体内時計が乱れ、がん細胞の発生を抑える「メラトニン」と呼ばれるホルモンの分泌量が低下するためとも言われています。
6、寿命が短くなる
イギリスで約10,000人を17年ほど調査した結果、平均の睡眠時間が5時間以下の人は死亡率が高くなる、ということが判明しました。特に、心筋梗塞や狭心症など、心臓や血管にかかわる病気による死亡率は、睡眠不足によって約2倍ほどに高まると言われています。
4、感情的になりやすくなる・感情のコントロールが難しくなる
睡眠が不足すると、感情のコントロールが難しくなります。例えば、他人に思わずキツいことを言ってしまったり、八つ当たりをしてしまったりする場合があります。普段なら言わないような酷い言葉を言ってしまい、人間関係を悪くしてしまったりもしてしまう場合もあります。
自分の感情のコントロールだけでなく、他人の感情を読み取ることも難しくなります。睡眠不足による思考能力の低下が原因です。冷静な思考ができない状態では間違った判断をしてしまうリスクが高まります。
たとえばある男性が上司に注意を受けたとします。上司はその男性のことを思って注意しました。普段の男性なら上司が自分のために注意してくれていると判断することができます。でも、この男性はこのとき寝不足でした。そのせいで思考能力が低下していました。おまけに寝不足でイライラしていました。そのせいで冷静な判断を下すことができず、「この上司はいつも俺ばかり注意する。俺のことが嫌いなんだ」と判断してしまいました。その判断のせいでこの男性は一日中、不愉快な思いを抱えることになりました。
その不愉快な思いの中には上司への怒りも含まれています。上司は彼のために注意したのに、彼は間違った判断をしてしまったため上司に怒りを抱いてしまったのです。
もし、この男性がその怒りを上司にぶつけてしまったら、上司との関係は悪くなってしまっていたかもしれません。男性の間違った判断のせいで上司との関係が悪くなってしまったかもしれないのです。睡眠不足には人間関係すら悪くするリスクがあるということです。
5、成長ホルモンが不足する
充分な睡眠を取らないと成長ホルモンの量が減る
充分な睡眠を取らないと成長ホルモンの量が減ってしまいます。成長ホルモンが主に分泌されるのが、運動後や睡眠中だからです。
成長ホルモンは、成人にとっても体の様々な機能の維持に必要不可欠なホルモン
成長ホルモンは幼児期から成長期に多く分泌され、成長期を過ぎると急激に分泌量が減少します。
成人後の成長ホルモンの減少は自然なことですが、 成長ホルモンは、成人にとっても体の様々な機能の維持に必要不可欠なホルモンで、分泌量が減ることで、記憶力、肌のハリ、髪の艶などが減ります。また、筋肉が減少し代謝量も減るので、肥満体質やメタボにもなりやすくなり、肥満や乱れた生活習慣が相まると、様々な生活習慣病(動脈硬化、心筋梗塞、糖尿病など)にもかかりやすくなります。
成長ホルモンが最も分泌される時間帯は、眠りに落ちた直後
成長ホルモンの分泌は絶えず行われているわけでは無く、特定の条件下や時間帯で分泌されます。一日の中で成長ホルモンが最も分泌されるチャンスは、夜の睡眠中、しかも『眠りに落ちた直後』です。
入眠後の30分後~1時間後以降に現れる、一番最初の徐波睡眠中(ノンレム睡眠の中でも特に深い眠り)に多くの成長ホルモンが分泌されます。
よくダイエットやアンチエイジングの記事などで、睡眠のゴールデンタイムとか、睡眠最初の4時間が重要、とか言われるのは、脂肪の分解やアンチエイジングの効果を持つ、成長ホルモンの分泌が入眠後の時間に集中しているためです。
その後、睡眠中はレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返し、ノンレム睡眠を迎えるたびに徐々に量を減らしながら分泌され、起床時には成長ホルモンの分泌はほぼ止まります。深いノンレム睡眠の発生は、睡眠の質とも深い関わりがあり、睡眠の質が悪いと、眠りが浅くなるため、成長ホルモンが分泌されにくくなってしまいます。
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睡眠には脳の老廃物を除去する働きがある
「Glymphaticシステム」という脳細胞から老廃物が排出されるメカニズム
脳細胞内の老廃物を洗い流し排出するという脳内機能が、深い眠りにある間に最も活発に働くことを発見!
ロチェスター医療大学の共同センター長であるメイケン・ネダーガード博士とその研究チームは、脳の持つ脳細胞内の老廃物を洗い流し排出するという機能が、深い眠りにある間に最も活発に働くことを発見しました。この研究は、10月18日付けでサイエンス誌で発表されています。
これまでにもネダーガード博士によって、「Glymphaticシステム」という脳細胞から老廃物が排出されるメカニズムが発見されていましたが、今回の研究は、このGlymphaticシステムの応用研究として実施されました。Glymphaticシステムは、脳細胞内に脳脊髄液(CSF)が流入することで、トキシンなどのタンパク質が洗い流され排出されるというもの。
一般的なリンパ系システムは脳の老廃物を処理してくれない
一般的に体内の老廃物を処理する仕組みとしてリンパ系システムが機能していますが、脳はそれ自体が閉じた一種の"生態系"を維持しており、脳に何を入れ脳から何を出すかを独自にコントロールする複合システム(blood-brain barrier)を備え持つため、一般的なリンパ系システムは脳にまで及ばないことが分かっていました。しかし、脳の老廃物処理プロセスは、生きた脳の観察ができなかったため、長年研究者には避けられ続けた研究テーマでした。
しかし、「2光子励起顕微鏡」と呼ばれる新しい技術の登場により、脳の血流量や大脳のCSF流量を、被写体である動物が生きた状態で観察できるようになり、脳のシステムの研究が大きく進展しました。
睡眠中にGlymphaticシステムが活性化することが発見された
今回の研究では、人間の脳に似た脳を持つハツカネズミの脳血流量と大脳のCSFを観察したところ、睡眠中にGlymphaticシステムが活性化することが発見され、その量は起きているときに比べ10倍も活発であることが判明しました。また、脳細胞(神経細胞を活動的にするグリア細胞であると推測されています)は、睡眠時に60%収縮することでより多くのCSFが流入できるよう大きな空間を作り出し、脳の"洗浄"を効率的に行うことも発見されています。