今回の対談企画「僕らのビジネス」のお相手は、ネットワークセキュリティの専門家であり、ハッカーとしても有名な石川英治(いしかわ・ひではる)さんです。石川さん、よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
石川 英治(いしかわ・ひではる)
株式会社マグニファイ・所属。ネットワークセキュリティ専門家。
1997年まで日本を代表するハッカーグループのひとつである「ugtop」の主宰者として活動。不正アクセス禁止法の施行(2000年2月13日)を見越してハッカー活動を休止。それまでのスキルを活かして実業家へ転身。1998年に日本初のネットセキュリティ専門会社「株式会社アルテミス」を起業。売上17億円の規模にまで成長させた。現在は、官公庁へのハイテク犯罪対策の指導、コンピュータ関連書籍、TV出演など多方面で活躍中。
今回、レディオブックが「iPhoneのデータ復元・消去」や「修理作業用のネジボード製作」などでお世話になったイースターモバイル株式会社にもCTOとして協力している。
現在『週刊プレイボーイ』誌上で「石川英治のホワイトハッカーなんでも相談室」を連載中。イースターモバイル株式会社:
http://easter.co.jp/
株式会社マグニファイ(個人プロフィール):
http://www.magnify.co.jp/html/profile/ishikawa/ishikawa.html
板垣 雄吾(いたがき・ゆうご)
レディオブック株式会社・代表取締役社長。
個人事業主としてiPhone修理サービスを開業。TSUTAYAやブックオフコーポレーションなどと契約し、事業を拡大(TSUTAYAと契約した初の個人事業主)。2014年に法人化し、同事業をフランチャイズプログラム「i+Remaker」として全国に展開。業界最安値の修理費を実現した保証プログラム「super50」など、独自のサービスを強みに事業を拡大。合わせて法人向け出張修理プログラムを立ち上げ、こちらもサイバーエージェントなど多くの企業に提供している。
そもそもなぜハッキングの技術を身につけようと思ったんですか?
純粋に技術的な興味ですね。こどものころ、よく遊びに行ってた祖父母の家が秋葉原に近くて、自然とコンピュータ関連のお店を覗くようになったんです。ラジオ屋とか基板屋とか、真空管アンプのお店とか。そのうちマイコン(いまのパソコン)に興味を持って、自分で組み立てたり、仕組みを解析したりしてました。
あれ? それってハッキングなんですか? サーバからデータを抜いたりすることじゃないんですか?
それだけではないんです。そもそも「ハック」という単語は「切り裂く」という意味で、ハッキングとは本来、コンピュータのプログラムを解析したりすることです。不正アクセスなどのニュースでよく見かける単語のため、そこからハッキング=不正アクセスのようなもの=犯罪というイメージが定着してしまってますが、ハッキング自体は犯罪行為ではありません。
なるほど。その秋葉原のお店に通いはじめたのは、いつごろですか?
1980年代ですね。iPhoneにちなみますと、ちょうどAppleがメジャーになりはじめた時期です。
Apple IIが出たころ?
そうです。Apple IIが発売される少し前くらいでしょうか。ちなみに、若いときのスティーブ・ジョブズに会ったことありますよ。
マジですか!?
あとビル・ゲイツとか。当時の月刊アスキーに、握手してる写真が載りました。あの雑誌、実家にあるんじゃないかな。
ええっ!
あと、ソフトバンクの孫さんも(笑)
いやいやいや!? なんで!?
当時、ソフトバンクが出してたマイコン雑誌の企画で大賞を獲った縁で。その表彰式で握手してもらいました。
……当時、何歳ですか?
17歳です。高校生ですね。
ハンパない……。
(高校生のとき、ソフトバンクのマイコン雑誌にゲームのプログラムを投稿して大賞を獲得した石川さん。イースターモバイル社には、当時そのプログラムでゲームを遊んでいた方も。彼にとっては「神様のような人」)
ちなみに、スティーブ・ジョブズとは、どんな話をしたんですか?
Apple IIの後ろのサインってなんで入れてあるんですか? とか。
ジョブズはなんて?
心をこめてつくってる証だって。だから直筆なんですよ、あれ。あと、色紙わたして「サインください!」って言ったら、色紙みて「これなんだ?」って言われましたね。色紙にサインするって文化がなかったんでしょうね。ほかには「昔、ブルーボックス、売ってましたよね?」とか。
ダメじゃないですか(笑)
「その金でAppleつくった」って、冗談半分で言ってましたね(笑)
ブルーボックスとは?
当時、アメリカの電話には、ある周波数でかけると無料で通話できるというバグがあった。その周波数の音を出す装置がブルーボックス。スティーブ・ジョブズは昔、この装置を製造して売っていた。
石川さんは当時、どんな高校生だったんですか?
当時は、雑誌でライターとかやってました。いまでもある『ラジオライフ』って雑誌に、公衆電話のハッキングについて書いたりとか。
ライター活動は、けっこう本格的にやってたんですか?
そうですね。あと、パソコン通信の時代に、自分で組み立てたマイコンを地方の学生に売ったりもしてました。おかげで学生時代、お金にはあまり困りませんでした。
じゃあ、卒業後は進学や就職をしないで、たとえばライターやその道の専門家として独立とか考えました?
いえ、普通に就職しました。鉄道員か警察官になろうと思って。最終的に西武鉄道に入りました。
意外ですね。ちなみに警察官じゃなくて鉄道員を選んだのは、なんでですか?
適性検査で落ちちゃったんですよ。筆記と面接は通ったんですけどね。たぶん検査結果から「こいつヤバい」って思われたんでしょうね(笑)
(笑)
(石川さん曰く「西武鉄道の入社試験はトップの成績だったと思います。新入社員の挨拶は僕だったので」とのこと。しかし、適性検査にだけは敵わなかった模様)
西武鉄道にはどのくらい?
4年です。経理課の電算係に。オフコン(オフィスコンピュータ)いじって切符の自動計算とかやってました。
そのあとは?
弁護士事務所に移りました。ひたすら訴状を書いてましたね。そのあとは外車の中古車販売の営業なんかやってました。
何歳のころですか?
22くらいですね。
……ということは、当時バブル崩壊してますよね? 外車なんて売れたんですか?
売れましたよ。当時の相場でフェラーリが4,000〜5,000万くらいなんですけど、飛ぶように(笑)。それを自分で乗って客先まで届けてましたね。いまじゃ怖くて絶対できないですけど。
運転、得意じゃなかったんですか?
最初は「ダブルクラッチってどうやるんだっけ?」ってレベルでした。F40は運転しやすかったんですけど、テスタロッサはギアが全くつながらなくて、いつか壊すんじゃないかって怯えてました。よく一度もぶつけなかったなって思いますね(笑)
(笑) でも、あんな時代にフェラーリ売りまくったって、営業マンとしても凄いじゃないですか。
ありがとうございます。その後もいろんな会社で営業やりましたけど、どうやら向いていたのか意外とどこでも売れましたね。自分でも驚きでした。
その秘訣ってなんだったんですか?
秘訣と言えるのか分からないですが、僕はハッキングもそうですが、物事や仕事の仕組み・ロジックを考えるのが好きなんです。営業も同じで、売れる仕組みや方法論を考えて、それを実践するのが楽しかった。そのロジックをひたすら磨こうとしているうちに、いつの間にか売れてたって感じですね。
根性論じゃなく、しっかり方法論を考え、反省しながらやるのがコツってことですね。
外車の営業はいつごろまで?
26ですね。そこで辞めました。そこからいろいろ営業職を転々として、いまの会社に来ました。
いまの会社で働き始めたきっかけは、なんですか?
社員の一人と僕に共通の友人がいて、その人を介して紹介されたんです。
その方もハッカー?
有名なハッカーです。携帯のハッキングなら、いまでも日本一じゃないかな。
携帯のハッキングって、たとえば、有名人のiCloudに忍びこんで画像を覗き見したってニュースがありましたけど、あのレベルのことですか?
いえ、あれは誰でもできますよ。彼の技術はもっと凄まじくて、たとえば任天堂のDS LiteにAndroidを入れたりとか。あと4種類のOSを選べるGalaxyとかもありましたね。念のため、もちろんそれで悪いことはしてませんよ(笑)
(携帯のハッキング技術について語る石川さん。iPhoneなどのスマートフォンからデータを抜き出す手段は「いくらでも思いつきます」)
そう言えば、石川さんもこちらの会社(イースターモバイル)で、iPhone修理やろうと考えられていたんですよね?
はい。ただ今回、データの消去や復旧で御社にご協力させていただくじゃないですか。それなのにわざわざ競合することを始めるのも、もったいない話だなぁと思ったんですよね。だったら、すでに市場で頑張ってる人を支える方が自分には向いてるし、会社にとっても良いなと思って止めました。リーバイスってご存知ですか?
ジーンズのですよね?
ええ。僕、リーバイスが好きなんですけど、リーバイスは、みんながゴールドラッシュで金を掘りに行ったとき、彼らを支えるジーンズやツルハシを売ってたんです。それでどこよりも儲かった。自分にもそういうスタイルの方が合ってるなと思ってるんです。ただ、自分たちで修理をやってみないと、修理する人がどんな道具を欲しがるのかとか、どんなことに悩んでるのかとか、分からないじゃないですか。だから、そうしたノウハウを蓄積する意味での修理はやり続けますけどね。
今回お願いしたネジプレートも、同じ感じで?
(修理の品質と速度の向上のために、レディオブックが石川さんへお願いした修理作業用のネジプレート。これによって、修理中にネジがどこかへ行ってしまったりするミスを防ぐことができる)
(実際の修理経験をもとに製造したネジプレートを手に、魅力を語る石川さん。イースターモバイル社でも、データの復元作業などでiPhoneを解体するときに使用されているとのこと)
そうですね。自分たちで修理した経験を踏まえてつくってます。実は昔、iPhoneのカスタムとかもやってましたよ。
おお、たとえば?
4sの裏にFelicaしこんだりしましたね。5以降と違って、4Sってバックパネルがパカっと簡単に外れたじゃないですか。そこに挟んで。けっこう売れましたね。
ところで、データの復旧って簡単なんですか?
Androidは簡単ですね。ソースが全部、公開されてるので。一方、iPhoneは非公開なんで、なかなか難しいです。一つずつ自分たちでゼロから解析していく必要があるので。そのぶん楽しいですけどね。
どんな目的で依頼が来るんですか?
思い出の写真を取り出したいって人が多いですね。ペットが生まれてからいままでの写真が、このiPhoneのなかにしかないんですって感じで。
それはたしかに取り出したいですね。ちなみに、旦那さんや奥さんの浮気調査でスマホの中身を調べたいとかないんですか?(笑)
わりとありますよ。
え!? すみません、冗談のつもりでした(苦笑)
うちの社長が弁護士ですので、たとえば離婚調停中に証拠として調べて欲しいといったような依頼があるんですよ。ほかには、浮気調査とかでも依頼がきますね。ただ、こちらの場合は、持ちこまれた端末の所有権が怪しいケースもあるので、お断りすることも多いですね。
いくら旦那さんや奥さんの携帯でも、さすがに勝手に持ってきちゃマズイですよね。
いえ。実は一親等の場合は、問題ないんですよ。奥さんが旦那さんの財布からお金を抜いても、旦那さんが奥さんのへそくりをくすねても、罪には問われません。スマホの中身を勝手に見るのも法的には処罰されないんです。
え、そうなんですか?
まあ、法的に大丈夫とは言っても、やっぱり勝手に持ち出したりはしないほうが良いですけどね。
やったら夫婦関係、崩壊間違いなしですね。ちなみに、ハッカーとして有名になったことで、困ったこととかありますか?
困ってることではないんですけど、知人が僕の家に来ても、うちのwifiにつながないっていうのはありますね。帯域制限に届きそうだって知人に「うちのwifiにつなげばいいじゃん」って言うと、ほぼ確実に「絶対ヤダ!」って言われます。みんなデータ抜かれるんじゃないかって不安なんでしょうね(笑)
抜けるんですか?
できますよ。以前、テレビ番組とかでも実演しました。
それは怖い(笑) ちなみに、スマホとガラケーって、どっちが安全ですか?
ガラケーですね。だから、僕もガラケー使ってます。ちなみにガラケーって緊急地震速報が一番早く届いたり、場所を伝えなくても110番で警察が来てくれたりとか(※)意外な利点もあるんです。
(※:GPSをONにしている場合のみ)
そうなんですか。では、勝手にデータを抜かれたり、やりとりを覗かれたりしないために必要なことってなんですか?
そもそも抜かれたり覗かれたりしたら困るものを、なにも残さないことですね。
写真を撮影したら、それをPCに移して、iPhoneから消すとか?
いえ。そもそも抜かれたらまずい写真をiPhoneで撮らないってことです。あとメールで言えば、覗かれたらまずいやりとりしないとか。データを消しても復元する方法なんていくらでもありますから、そもそもそうしたデータをiPhoneでつくらないことが大事です。
なるほど……勉強になります。
まあ、最初からやましいことをしてなければ、普通に使ってて問題ないですよ(笑)
気をつけます(笑)
レディオブックは、データの復旧、データの消去について石川さんの会社(イースターモバイル株式会社)に依頼しています。同社は代表・河瀬氏が弁護士資格を所有されており、また石川さんをはじめ高い技術力を持つ専門家が復旧・消去を担当しているので、安心してご依頼いただけます。「思い出の写真を取り出したい!」などお困りの方は、お気軽にご連絡ください!
なお、石川さんは現在『週刊プレイボーイ』誌上で「石川英治のホワイトハッカーなんでも相談室」を連載中です! こちらも是非チェックしてみてください!(2016年6月20日号より連載開始)
データの復旧・消去、修理全般に関するお問い合わせは、コチラまで→0120-810-084