>  >  > 赤塚不二夫が語っていた戦争と差別

赤塚不二夫が語っていた戦争と差別…終戦時の満州で助けてくれた中国人、日本に帰って受けたイジメと差別

【この記事のキーワード】,
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
akatsukafujio_160607.jpg
『赤塚不二夫120%』(小学館)

『おそ松くん』をアレンジしたアニメ『おそ松さん』(テレビ東京系)のブームは、番組の放送が終了した今でもまったく衰える様子を見せず、また、タモリがエンディング曲を歌っていることでも注目されたドキュメンタリー映画『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』も現在公開中。亡くなってから8年近くの時が経っても、赤塚不二夫は話題を振りまき続けている。

 人々が赤塚作品を愛し続けているのには、色々な理由があるだろうが、そのなかの一つとして大きいのが、彼のつくる物語の根底に流れる「優しさ」だろう。赤塚不二夫の担当編集をしていた武居俊樹氏は、赤塚不二夫『赤塚不二夫120%』(小学館)の解説でこのように綴っている。

〈小説家の井上ひさしが後に言っている。
「文部省が赤塚漫画を『道徳』の副読本にしないのは理解できない」と。
 ある意味で、赤塚の作品は道徳的だ。
 例えば、暴力シーンはいっぱい出てくるが、弱虫でチビのハタ坊がいじめられるシーンは決して出てこない。喧嘩も、対等か、強い者に逆らう時に起きている。チビ太が一人で六つ子に挑んでいくような時だ〉

 弱い者いじめはしない──赤塚作品で貫かれているこの姿勢は、彼の子どもの時の体験によってできあがったものであった。

 赤塚不二夫は、1935年9月14日、満州にある古北口という、旧満州国と中国の国境沿いの町で生まれた。父親は、特務警察を務めた後、奉天で消防分署の署長を務めていた。現地の中国人たちを監督する立場の人間である。尊大な態度を取り、徹底的に彼らを痛めつけたとしても誰からも文句は出ないし、実際にそうしている日本人はたくさんいた。しかし、赤塚不二夫の父の行動は、それとは真逆のものだった。

〈終戦直前におやじが奉天(現在の瀋陽市)の鉄西区の消防分署の署長になった。部下はみんな中国人。彼らがミスしたとき、朝の六時ごろ、籠に卵をいっぱい入れて持ってきたり、砂糖とかいろんなもの持ってくるの、謝りに。でも、おやじはぜったいに受け取らなかった。
「いらない、そんなもの。おまえたちが食べろ」って。
 ボクはまだ子どもながらも、なんか騒がしいなと思って起きて見にいったら、そうやってるわけだ、おやじと部下が。
 そしたらうちのおふくろが、「もらっとけばいいのに」。子どもたちに食べさせたいと思うわけだよ。そうしたら、おやじ怒った。「ふざけるな」って。
 そういうことがずっと続いていたから、終戦のとき中国人が、「おくさんお米あるかあ、砂糖あるかあ」って持ってきてくれて助けてくれた。
 学校では先生から、中国人を蔑視した教育を受けていたけど、ボクは学校から帰ってくると、おやじの部下の中国人の子どもたちと、官舎のまわりで犬コロみたいに遊んでいた。中国語で、みんないっしょになって生活してたわけだから、「おまえは日本人なんだからエリートなんだぞ」なんてことはおやじは言わなかった。だから、ボクは中国人に対して差別とかそういう気持ちをもったことはなかった〉(中国引揚げ漫画家の会編『ボクの満州 漫画家たちの敗戦体験』亜紀書房)

リテラのSNS

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

赤塚不二夫120% (小学館文庫)

新着芸能・エンタメスキャンダルマンガ・アニメビジネス社会カルチャーくらし教養

関連リンク

人気記事ランキング

総合
いいね! 数
1 吉川晃司が「俺は現政権がでえっ嫌い」
2 舛添批判の橋下が公私混同を指摘され…
3 赤塚不二夫が語っていた戦争と差別
4 “ヘイトスピーチ”の捏造解釈を許すな
5 安倍の成蹊時代の恩師が涙ながらに批判
6 AV出演でGS社が内定取り消し
7 石原都知事時代の贅沢三昧は舛添以上
8 甘利明の捜査を潰した法務省幹部の名前
9 上原亜衣は? AV女優の引退後
10 テラスハウスの出演者がセクハラ告白
11 古舘伊知郎“最後の一刺し”がテレビ大賞
12 JTB36歳社員の手取りが24万円?
13 大森靖子「小6のときレイプされて」
14 さんまもハマったAV女優紗倉まなの闇
15 次の都知事は1位橋下、2位東国原
16 街角に立って客をとる女性たちの貴重な記録
17 中居に激怒!石原慎太郎の錯乱ぶり
18 セブンイレブンの裏に自衛隊人脈
19 森達也監督が語るメディアの病理
20 次期外務省トップに舛添以上の金銭疑惑
PR
PR
1吉川晃司が「俺は現政権がでえっ嫌い」
2安倍リーマン発言否定に「ホラッチョ」
3古舘伊知郎“最後の一刺し”がテレビ大賞
4オバマ訪広でNYTが安倍の右翼性批判
5安倍首相のサミット発言に「ル・モンド」が
6安田純平氏の新画像でまた自己責任論
7甘利明の捜査を潰した法務省幹部の名前
8安倍が原爆被爆者訪問をやめて散髪に
9神社宮司が日本会議や神社本庁を批判
10安倍の成蹊時代の恩師が涙ながらに批判
11次の都知事は1位橋下、2位東国原
12小保方さんが寂聴と対談!若山教授批判
13オバマ広島訪問と安倍の被爆者冒涜
14石原伸晃が舛添批判…でも父親はもっと
15安倍「アベノミクスふかす」発言に失笑
16竹田恒泰のヘイト、父親・恒和の嘘八百!
17報ステのギャラクシー賞受賞にネトウヨが
18宇野常寛がNHKの自主規制を暴露
19安倍がサミットで伊勢神宮訪問ゴリ押し
20サミット中の福島原発「作業休止」の裏
PR
PR

カテゴリ別ランキング


人気連載

政治からテレビを守れ!

水島宏明

テレ朝とNHKの"失態"につけこむ安倍政権とほくそえむ籾井会長

政治からテレビを守れ!

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄

"体育会系相田みつを"松岡修造は本当に「ブレない男」なのか? 年を追うごとに変わっていく修造語録を読み解く

「売れてる本」の取扱説明書

ネット右翼の15年

野間易通

高市早苗はいかにして"ネオナチ"と出会ったか

ネット右翼の15年

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

戦争を放棄せよ! 軍事力がなくても侵略と闘う方法はある、自由のために闘える!

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」