西原理恵子の漫画「ぼくんち」の中で、好きな話ベスト5を語ります。
全部好きですが、その中でも特に大好きな話、五選をご紹介します。
第5位 1巻35話 「南の島の女の子の話」
最近、笑わない一太を心配するかのこ姉ちゃん。
こういちくんは、そんな一太に対して、
「それはキミがね、自分のことをキライだからだよ」
と言います。
「ぼくも昔そうだった。ぼくは昔、南の国から売られてきた女の子を、逃げ出さないように見張る仕事をしていたんだ」
「ああ、これは最低の仕事だ」
「そう思ったら、自分のことがとてもキライになって、自分をケイベツしちゃうんだ」
「いくら世間がきびしくて、きめられた仕事はちゃんとやらなくてはいけなくても…」
「ぼくはもうすこしぼくにやさしくして、ぼくが好きでいたかったから」
「生きていくためには、仕事をしなきゃいけない」
「仕事には責任がある」
それは分かる。
でも、それ以上に自分が自分であることが、一番大切なんじゃないかな?
そう思います。
第4位 2巻4話「こういちくんのねえちゃんが妊娠した話」
こういちくんには「ぼくにそっくりのぼくを色っぽくしたようなお姉ちゃん」がいて、
暴力ホテトルという商売を、一人でやっています。
そんなお姉ちゃんが、ある日妊娠します。
もちろん、相手が誰かなんてわかりません。
報告したあとの、お母さんの言葉。
初めて読んだとき、主は自分の大好きな人にこういうことが言える人間になりたい、
と思いました。
でも、未だに自分の娘が父親が分からない子供をもし妊娠したら、
このセリフを言えるのかどうか、自信がありません。
海のように深い、底なしの愛情を感じさせる言葉です。
第3位 2巻31話 「自分の人生になれなさい」
「今日、ぼくは生まれてはじめて人を刺した」
「なぐってもなぐっても、起き上がってくるので、怖くなって刺した」
一太が、シャブ中の自分より年下の男を刺します。
「おれは一生、あんなこきたない奴らを相手にして生きていくんだろうか」
そんな一太をこういちくんは、笑顔でぼこぼこに殴りながら言う。
「あんなシャブ中、ぷっちこ一人刺されただけで、ケーサツが出てくるわけないでしょう?」
「キミは何を一人でじたばた、どたばたと、もーーー」
そして、こう言います。
「自分の人生に、なれなさい」
こういちくんは、こんなに笑顔でさらりと言っていますが、
これはとても怖い言葉だと思います。
一生、こんな小汚い場所で頭のおかしなシャブ中相手に生きていく人生。
でも、それが他の誰でもない、自分であり自分の人生なんだ。
他の何者にもなれない、自分自身になれて、
自分の人生を覚悟を決めて歩むしかない。
昔はただただ怖くて仕方のないセリフでしたが、
今は「自分に慣れる」ということがどういうことなのか、少し分かった気がします。
第2位 2巻29話 「ねこばあの葬式」
「ねこばあは、ねこをたくさん飼っているからねこばあと呼ばれているわけじゃない」
「ねこのように子供をたくさん産んで、
ねこのようにあちこちに子供を捨てまくったから、ねこばあと呼ばれている」
「そこが肝心、わしは人間やから、捨てた。かっかっかっ」
今だったら、大炎上する案件ですね。(^-^;
そんなある日、ねこばあが「こっとり死んだ」。
「びっくりしたのは、お葬式があるってこと。誰がそんなお金を出したんだろう」
かのこねえちゃんに香典をもらって、二太はねこばあのお葬式に向かいます。
お葬式会場は、ねこばあに似た顔の人たちであふれかえっています。
「やっぱり兄弟でしたか」
ということが判明したり、父親が判明した人もいます。
ねこばあの子供たちは、みんな生まれたときから、よその家に捨てられています。
「子供のころはキツかったけどなあ」
「今は別にねえ」
今は、たくさんの兄弟や孫に囲まれて、みんな元気で幸せそうです。
「みんなで食いまひょや、その金で」
この話はむかしから大好きです。人間の強さを信じられるような、そんなお話しです。
「たいへんよいお葬式ですね」
主もそう思います。
第1位 2巻15話 「シャブ中のおっさんの話」
いつものように薬の集金に向かうこういちくん。
襲いかかられたので、応戦するこういちくん。
シャブ中のおっさんの娘が、何とかお父さんを助けようと、こういちくんを刺します。
家に帰ってから、こういちくんは、姉ちゃんに今日の出来事を話します。
反省して、もう「こんなことはしないようにする」と誓うこういちくん。
「じゃあ、ねえちゃんが許してあげる」
「世界中の人がダメだと言っても、ねえちゃんが許してあげる」
そんな二人の姿を見て、一太はこう思います。
「今日ぼくはわかった。人は一人では生きられない」
たった一人でいいから、どんなダメなその人でも許せる、
どんなダメな自分でも許してくれる、そんな人間でありたいなと思いました。
好きな話も、年をとるごとに変わります。
むかしは「人は一人では生きられない」って、それはそうかもしれないけれど、
道徳の題目みたいに聞こえて、あまりピンときませんでした。
年がいけばいくほど、そのことを頭で理解するのではなく、心で実感します。
「ぼくんち」は、本当に人生を生きるように、読む漫画だなと思います。