「新たな大型買収の準備との見方が強い」――。
孫正義氏が率いるソフトバンクが新たなM&A(企業の合併・買収)に乗り出すのではないかと、日本経済新聞は先週木曜日(6月2日)付朝刊で勇ましい進軍ラッパを吹き鳴らした。
ここへきて、虎の子である中国オンライン・マーケット大手「アリババ集団」株や、ゲーム業界の雄「ガンホー・オンライン・エンターテイメント」株を売却して、同社が1兆2000億円弱の資金を手当てしたことが、その根拠という。
しかし、孫社長らしい「攻め」演出のための小型のM&Aならいざ知らず、今のソフトバンクに1兆円規模の投融資に乗り出す余力があるとは考えにくい。
というのは、ソフトバンクは、過去の拡大戦略のために発行した社債が大量償還期を迎え、今期も1年間で9000億円を超える資金を返済する必要に迫られているからだ。
新たなM&Aどころか、アテが外れた過去のM&Aの後始末に追われており、本来ならば手放したくない優良資産の「売り食い」に追われる経営の苦境が浮き彫りになったと読み解くのが正解ではないだろうか。
3日の発表によると、アリババ株の売却と将来、同株に転換される「転換証券」への同株による担保提供により、ソフトバンクは100億ドル(約1兆900億円)の資金調達に成功した。ただ、調達額の7割近くを占める担保提供分の現金化には3年程度かかる見通しという。
また、ガンホーは同じく3日、同社株2億4830万株を730億円でソフトバンク及び同グループから買い取ることに合意したと公表した。
さらに、これらの資金調達策とは別に、先月(5月)31日付の日本経済新聞は、「ソフトバンクグループは2017年3月期に、個人向け社債を4000億~5000億円規模で発行する見通しだ」と報じている。
新聞報道が事実とすれば、ソフトバンクはアリババ株、ガンホー株などの売却と社債発行で、今後3年程度の間に1兆7000億円弱、1年以内に1兆円弱の資金を調達することになる。
こうした状況を背景に、日本経済新聞が2日付朝刊で報じたのが、冒頭で紹介した勇ましい記事だ。
「アリババ株売却含め1兆円超確保 ソフトバンク何を狙う?」という見出しで、国内証券大手の「新たな投資や出資に向けた軍資金を増やし始めたと考えるのが自然だ」という見方を紹介。「最大の焦点は米ヤフーが持つ日本ヤフー株の行方だ」と踏み込んだ分析をしてみせたのである。
確かに、孫・ソフトバンクは、ADSL事業やモバイルビジネスを巡る大型M&Aで急成長を果たした企業である。往時ならば、そうした攻めの経営も選択肢の一つだろう。
だが、ソフトバンクの財務状況が本格的な攻めの経営への転換を許すとは考えにくい。
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