ベーシックインカム(BI)について、言語化していきます。
スイスで否決。
【ジュネーブ=原克彦】スイスが5日実施した国民投票で、すべての住民に無条件で毎月一定額を支給する「最低生活保障(ベーシック・インカム)」の導入が否決されることが確実になった。
最低生活保障を導入する代わりに年金や失業手当を廃止する提案だったが、財源不足や国民が働かなくなることへの不安が強かったもようだ。
まぁ、さすがに早過ぎると思います。本格的に雇用が減少してからじゃないと、合理性を実感できないでしょうからね。あと15年後くらいでしょうかねぇ。
まずは民間から。
書籍「世界で突き抜ける」に、こんな議論があります。
竹中 私は頑張って稼いでる人が報われるような国になってほしいと思うと同時に、今の新しいテクノロジーは、格差をつくるテクノロジーになる可能性があると思います。
(略)だから今のうちに、この社会の本格的なセーフティネットをちゃんとつくったほうがいいと思う。みんながそんなにやっかまないで、ちゃんと安心して暮らしていけるようなセーフティネットは、政治の責任でつくったほうがいいと思ってる。
そしてそれは実現できるんですよ。なぜならマイナンバーできたでしょう。マイナンバーがあると、負の所得税といわれる給付付き税額控除が可能になる。これは1999年に労働党のブレア政権が採用して、翌年、翌々年、フランスやオランダでも採用されている、究極のセーフティネットです。これができるチャンスがあるんだから。安倍内閣は、これを実現させたら歴史に名を残すと思いますよ。
佐藤 あとは、ベーシックインカムという手もありますよね。政府のベーシックインカムじゃなくて、民間企業によるベーシックインカムって私はありかなと思っています。
結局これからのマーケティング活動って、どんどん安くできるようになるから、安売りの競争になっていくじゃないですか。となると、複数のバリューチェーンを総合して利益を出す会社が有利ですよね。
こっちで利益を出して、そのぶんこっちを安くするというようにできるから。となると、コングロマリットみたいにいろんなサービスを提供していく会社は、いろんなものを無料にできるはずなんですね。
だからテクノロジーによる格差の競争も行われるんだけれども、ものすごく低価格になっていくと、結果的に企業は競争していって、ものすごく安くいい商品を消費者に届けていくと、働いて得る収入が低くても、けっこう人間は生活できるようになる。
佐藤さんの議論がものすごく面白くて、それはたとえば「Amazonプライム会員になると、通信費・水道光熱費が無料になる」みたいな感じです。
月額500円でLINE関連サービスが使い放題になる「LINEモバイル」なんかは、ある意味でベーシックインカム的。この種のサービスはますます増えていくでしょう。
報道によれば、スイスの議論は「すべての住民に無条件で毎月一定額を支給する」ということですが、これはやっぱり無理があると思うんですよ。まずは「一部の住民に一定の条件をつけて、毎月一定額を支給する」というくらいじゃないと、浸透していかないんじゃないかな、と。
まずは自由度の高い民間企業から、一部のユーザーや社員に対して、ベーシックインカムの普及が始まるでしょう。ベンチャーキャピタルの「Y Combinator」がまさにそんなことを始めてますね。
Y Combinatorは本日、カルフォルニア州オークランドで初のベーシックインカムの検証を行うと発表した。このスタートアップ・アクセラレーターは昨年秋からベーシックインカムのコンセプトについて調査を行っていて、近いうちに給与を支払うようになるという。
「私たちのパイロット検証では、収入は無条件で提供します。検証期間中、いかなる状況でもベーシックインカムを提供し続けます。参加者はボランティア活動をしてもいいですし、仕事をしてもしなくてもいいのです。海外に引っ越しても構いません。なんでもできます。私たちはベーシックインカムが自由な行動を推奨することに期待し、この研究では人がその自由をどのように体験するかを知りたいと思います」とAltmanは言う。
一部の地域から。
また、公的にやるとしても「一部の地域から」実現されていくのでしょう。日本国民すべてに支給するのは無理でも、たとえば「高知県本山町」の3,500人に支給するのは、だいぶ現実的です。
岩手県遠野市では、起業家を対象にベーシックインカムの支給が始まります。
起業・独立するための支援金として、毎月14万円程度のベーシックインカム+年間30万円の補助支援金を最大3年間支給します。
第1期は10名と少数ですが、このパイロットプログラムがうまくいけば、100人、1,000人といった単位の人々に、ベーシックインカムが支給されるようになるのでしょう。
地方がベーシックインカムの支給に向いているのは、生活コストが低い点にあります。
うちはスタッフには、ベーシックインカムを「毎月10万円」払っています。10万円は東京で生きていくには少なすぎる報酬ですが、高知なら、割と普通に暮らせちゃうんですよ。コーヘイさんの家とか、家賃2.2万円ですからね……。
フィルタリングは必要。
初期のベーシックインカムは、遠野市のように「条件付き」になると見ています。
地方において、「定住の意志があって、地域で起業しようといている若者世代」なんかは、地域に確実に貢献してくれます。ベーシックインカムを払っても、長期的にはペイするはず。この場合、財源の問題はありません。
初期のBIを成功させるためには、フィルタリングが重要になります。面接を通してふるいをかけ、受給者たちの経済的成功をサポートすれば、BIはいい「投資」になるんですよ。
んで、BIが地域経済、地域コミュニティに有益であることが実証できたら、徐々にハードルを下げていけばいいのです。
「療養を希望するうつ病患者」「ひきこもり・ニート」「シングルマザー、シングルファーザー世帯」「学校を中退した若者」「無年金の高齢者」という感じで「支給対象」を規定しつつ、幅を広げていくイメージです。
対象を明確にすることで、困難な状況を抱えた人に対してサポートも提供しやすくなります。「誰でもOK」にしてしまうと、結局、弱い立場の人たちが放置されると思うんですよねぇ。
まとめ。
というわけで、こういう未来になるんじゃないかな、と思っています。
- 全国民に支給するタイプの「平等なベーシックインカム」はまだ早すぎる。それは、せめて人工知能が本格的に雇用を奪い去ってから。
- まずは民間起業、一部地域で小規模なベーシックインカム支給を始めることから。「Amazonプライムに加入すると、あらゆる生活インフラが無料になる」「子育て世帯が田舎に移住すると、生活費が毎月5万円支給される」といったイメージ。
- BIプログラムの成功確率を高めるためにも、特に初期は、「受給者のフィルタリング」が重要になる。遠野市はとてもいいやり方。
- 社会的に弱い人々へBIを支給する際も、対象を明確にして、コミュニティによるサポートを提供する。単に生活費だけ支給するモデルでは、弱者が孤立を深める可能性がある。
- 弱者を支援するネットワークが十分に張り巡らされ、人工知能がほとんどの雇用を奪った段階で、全国民に平等に支給するタイプのベーシックインカムを始める。
BIのような大きな話こそ、段階的にやっていかないと、うまくいかないでしょうね。高知でも起業家を対象にしたベーシックインカムの支給をやりたいなぁ。