(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年5月30日付)
ちょっと辺りを見回してみてほしい。荷物の宅配に使われるドローンから迫り来る自律運転車に至るまで、世の中の変化は加速しているような感じがする。かの偉大なる投資家ウォーレン・バフェットは、我々の子供たちの世代は「史上最も幸運な人たち」になるだろうと断言している。
世界はどこもかしこもスピードアップしている。ただし、生産性の指標だけは別だ。
米国の生産性伸び率はここ10年間低下し続けており、今年は三十数年ぶりのマイナスになることがほぼ確実視されている。だが、腕にはめられた「Fitbit(フィットビット)」は、そんなことはないと訴えているような気がする。さて、どちらを信用すべきなのだろうか。経済統計だろうか、それとも、ふしあなだったりする自分の目だろうか。
多くのことがこの答え次第で決まってくる。我々が富を作り出す能力は、究極的には生産性に左右される。短期間であれば、労働時間を長くしたり外国からの移民を増やしたりして経済成長率を押し上げることができる。定年退職を延長するというやり方もあるだろう。だが、しばらくすればそういう手法は効き目がなくなる。
人間がもっと賢いやり方で仕事ができるようにならなければ、経済成長も息切れをし始める。
ほかの指標もこの悲観論を裏付けている。例えば、今日の米国経済のトレンド成長率は2%をわずかに上回る程度で、30年前の半分ほどでしかない。ポール・クルーグマン氏が指摘したように、「生産性がすべてではないが、長期的には生産性がほぼすべて」なのだ。
計測の方法を間違えているだけだという可能性もある。例えば、経済学者の中には、フェイスブックに自分のプロフィールを書き込んだりウィキペディアから情報を無料でダウンロードしたりすることの有用性を経済統計は認識できていない、と考える向きもある。また、ギグ・エコノミー*1は適切に評価されていないとの指摘もある。
*1=インターネット経由で単発の仕事を依頼したり請け負ったりすること