【人工知能はいま 専門家に学ぶ】(6)日本を代表する数理工学者、合原一幸氏が見るAIの世界 (1/5ページ)

2016.6.5 07:00

工学博士、東京大学生産技術研究所教授、最先端数理モデル連携研究センターセンター長の合原一幸氏

工学博士、東京大学生産技術研究所教授、最先端数理モデル連携研究センターセンター長の合原一幸氏【拡大】

  • フィッツヒュー・南雲モデルの電子回路

 東京大学教授で最先端数理モデル連携研究センターの合原一幸センター長を訪ねた。2009年~2014年に内閣府管轄で実施された日本のトップ科学者30人を支援する研究開発プログラムであるFIRST(最先端研究開発支援プロジェクト)に、合原を中心研究者とした「複雑系数理モデル学の基礎理論構築とその分野横断的科学技術応用」が数学分野では唯一採択されるなど、日本を代表する数学者である。ちなみに、同採択テーマとしては京都大学の山中教授の「iPS細胞再生医療応用プロジェクト」等がある。子供の頃は昆虫学者になりたかったらしい。

「これに全部書いてあるから」

 そう言って資料を手渡された。とりあえず笑顔で受け取りつつ、自己紹介をすると、チームラボ代表の猪子やユカイ工学代表の青木の恩師であることが判明した。そもそも青木に紹介してもらったのだが、そのあたりは聞いていなかった。そして合原は5回目で紹介した甘利を恩師と慕う、人は繋がっている。

 受け取った資料に目を通した。心に決める。かなり被るが、聞きたいことを聞いて資料以上の情報を引き出すことを。

 昨今の人工知能ブームを合原はどう感じているのだろう。

「ディープラーニングが上手くいっているから騒がれている。だけど、ディープラーニングの基礎になっているオートエンコーダは、私が30年程前に書いた本でも紹介している技術で、つまり技術的には新しくないのです。さらに、その主要な学習アルゴリズムは、私の恩師の甘利先生が50年くらい前に提唱したものです。それなのに何故今になって面白い結果が出始めたかというと、学習に使えるビッグデータとそれを使って学習できるだけのコンピュータパワーが手に入ったからです。しかし、より高度なAIを作るにはディープラーニングだけでは駄目です。有名なグーグルの猫では、顔を認識する人工ニューロンが生成されるのですが、脳にある「顔ニューロン」とは全然異なるのです。ディープラーニングの顔ニューロンが表現する内容は静的ですが、脳の顔ニューロンは非線形のダイナミクスを使って顔をコードしているのです。猿の脳で実験した結果だと、顔ニューロンが、刺激の後しばらくは人と猿を区別するみたいな大まかな分類をやり、もう少し時間が経つと、より詳細な個を区別したり、表情を区別したりしだすのです。つまり時間とともに表現する内容が変わっていく。このダイナミクスが脳の本質で、それがない人工ニューラルネットワークは脳とは全然違うものなのです。こういったことは脳を知っていると明らかで、数理脳科学分野の研究では沢山の知見が蓄積されています。ディープラーニングを用いたAI開発に数理脳科学の研究成果を取り込むことでさらに大きく進展すると思います」

【プロフィル】合原一幸(あいはら・かずゆき)

合原一幸(あいはら・かずゆき)工学博士、東京大学生産技術研究所教授、最先端数理モデル連携研究センターセンター長
著書、編著書に「暮らしを変える驚きの数理工学」(ウェッジ)、「カオス学入門」(放送大学教育振興会)などがある

ディープラーニングによって導き出される解について…