クレジットカードの読みものの中の人が「法人成りのメリットデメリットについて意見求む」ということで
私の分野キター! ということで詳細に読んでみたらいろいろと書くべき点あってtwitterでは収まらないので記事にして書いてみたいと思います。
法人成りしても経費の落としやすさは変わらない
まず、法人成りすることで経費の落としやすさが変わるように考えられているように読み取れましたが、個人事業主と法人で経費への算入の仕方は本質的には変わりません。税金は事業の利益に対してかかるもので、その利益を削る「経費」にできるかどうかは「事業のために使ったお金」であるかどうかで判断されるからです。ここに法人か個人事業かは関係ありません。
ではなぜこういう勘違いが起きるかというと、おそらくはサラリーマンが法人を作ったときの節税方法とごっちゃになってしまっているのだと思います。
- 個人事業主:確定申告だけ(事業の申告と個人の申告を一緒に行う)
- 法人成り:決算+年末調整(事業の申告と個人の申告は別々に行う)
- サラリーマン:年末調整だけ(事業がないので経費もない。年末調整は会社が行う)
- サラリーマンの法人設立:決算+年末調整(事業があるので経費も計上できる。年末調整も自分でできる)
サラリーマンだけ経費がなくて不利なのかというとそんなことはなく、給与所得控除が経費と似た性質になります。「仕事のために自腹切っている分はこれぐらいだよね」ということで概算で控除しているのです。
個人事業主の場合はもともと経費計上できるので、法人成りしたから経費にしやすい・しにくいというのはありません。他人から出資してもらう場合は儲けを出さないといけなくなるので経費を使いにくくなるというのはありますが、個人事業主の法人成りならまあ変わりません。どう見ても生活費のものを経費計上しちゃっている社長さんも大勢います。あとから税務署に泣かされることになりますけど。
社用車は、個人でも「家事按分」で経費にできます。会社で買っても私用でしか使ってないなら経費と認められない可能性はあります。フェラーリが経費と認められた判例はありますが、法廷に上がったということはそもそも税務署は一度否認しているということです。判決理由も「私用車に外車3台持っているからフェラーリは社用だろう、趣味は入っているけど頑丈だし合理性はある」というものです。あくまで「事業のためかどうか」が重要であって、個人か法人かは関係ありません。
接待交際費の計上しやすさについては2013年の法改正によって中小企業は800万円まで全額経費にできるようになったので、1人5,000円を超えないようにするとかも実質的な意味はなくなりました。福利厚生費は社員へのものなので、法人成りしても社長は使えません。
法人成りすると事務処理が大変
法人成りすることの一番のデメリットは事務処理の煩雑さでしょう。これは中の人も感じられているところの通りです。
法人成りできるだけの事業の大きさがあるということなので、個人事業に比べて社会的に求められるものも大きくなるということです。決算などで求められる資料や数字は個人事業主の青色申告に比べてかなり広く詳細にわたります。決算も税務調査も法律上は税理士をつけずに社長がやることもできますが、現実的には税理士に見てもらわないと仕事にならなくなります。
税務調査が個人事業で3日張り付かれたというのは、ちょっと長すぎるかなと思います。私がやってた法人は2日で終わりましたし(指摘事項はあったものの修正申告なし)、中小企業なら大きめの会社でも3日で終わらせるものです。個人事業で3日調査となると、帳簿の仕訳を全部読んでいくぐらいのことをしないと時間が余ってしまいます。
個人事業でも人を雇っているのなら3日もあり得ますが、一人親方ならいったいどれだけの指摘事項があったんだろうかと思わされます……。
(追記:はてなブックマークにお返事ありがとうございます。追徴ほぼなし、おつかれさまでした。3人ということはうち1人は経験の浅いメンバーでしょうから、足を引っ張ったのかもしれません)
役員報酬が一番のキモ
法人成りする上での一番のメリットは節税です。そのメリットを大きく引き出すには役員報酬をいくらにするか、が最大のポイントになります。
- 役員報酬を大きくする:所得税・社会保険料が大きくなるが法人事業税が小さくなる
- 役員報酬を小さくする:法人事業税がかかるが所得税・社会保険料は小さくなる
元記事では「社会保険に入るとなる年額300万円くらい」と計算していますが、そんなにかかりません。例えば役員報酬を月28万9千円にすれば、標準報酬月額は28万円になり、それに応じた社会保険料しかかかりません。
個人事業主だと儲けがそのまま所得になるため所得税と健康保険料に跳ね返ってきますが、法人成りすると所得は役員報酬分だけなので、どれだけ儲けても個人の所得税と社会保険料は一定になります。これは儲かっている個人事業主にとっては非常に大きなメリットです。
逆に言うと赤字になっても所得は入るので、どれだけ大損しても個人の所得税と社会保険料は払わないといけません。
また、個人の所得税は累進課税なので儲ければ儲けるほど税金で持っていかれますが、法人事業税は原則固定割合なので大儲けしたときに税金を安く抑えられます。
合計で数十万は変わるので「役員報酬で悩まないといけない」ではなくここは「悩むべきポイント」です。アフィリエイターの儲けは上下しやすいことを勘案すると、今の所得より大きく抑えた金額を役員報酬とするとリスクヘッジ効果を感じやすいだろうと思います。役員報酬減らしすぎて手持ち資金が少なくなったら会社の金を使い込んじゃう手もあります。事業主へ利子をつけて貸すという取り扱いになります。
本来の法人成りの意味
節税という側面から法人成りを見るとメリットデメリットが相半ばします。「法人成り」の「成り」には「個人から法人への昇格」の意味がありますが、本来法人化は「事業を成り立たせるため」に行うものです。スタートアップ企業は売上0円でも法人を作りますし、続ける意思がなければどんなに儲かっていても法人にはしません。企業の存在目的はゴーイングコンサーン、事業の継続です。
狭義の「アフィリエイター」は事業として継続できるか怪しい限りですが、広告代理店として考えれば十分に継続性はありますし、価格.comをはじめとしたオウンドメディア企業はたくさんあります。将来どういう風になりたいか、が法人成りするかどうかの重要な判断基準になると思います。
キャリア形成としての法人成り
事業から離れて、個人のキャリア形成の意味で「法人成りしました」というのも意味があると思います。会社の裏方をすべて知ることができますし、稼ぐ力の大きさを端的に示すことができます。その分苦労も多いですが、廃業してどこかに雇われる可能性も考慮するなら、やって損はないと思います。私はアフィリエイターの法人成りではありませんが、やって経験になったと思っています。