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#04 「900,000冊から、本をキュレーションする」

  • ─ 本との出会いは、人との出会いと同じくらい貴重なものだ。人は生涯で平均的に3,000人と「知り合う」と言われているが、本をよく読む人にとっても生涯で3,000冊というのは、似たような数字になるのではないだろうか(本文より)


  • 今朝は、少し早起きして家を出て、午前中にアポイントがある六本木ヒルズのスターバックスの席に落ち着いて、原稿を書いている。連載は毎日続けたかったが、少し時間が空いてしまった。決して3日坊主で終わったわけではない。5月末から始まった300人の面接(1日20人計算だ)と、90万冊の本から初期在庫を決定する選書作業で、朝9時から夜24時まで頭がフル稼働だった。とてもじゃないが、文章をアウトプットするのが困難だった。

    本のキュレーション("新卒エンジニアにお勧めの本10冊"、とか)と言うのは、たびたび個人ブロガーの記事や、Webメディアで見かける。僕も参考になることもあるが、大抵の場合、はてなブックマークして終わりだ。Kindleの場合はその場で買うことが多い。僕自身もブロガーの1人として、そうした記事を書いたことや、下書きのまま終わらせている記事が何本かある。

    BOOK LAB TOKYO は「つくる人」を応援する書店ということで、コンピュータ関連の技術書では中型書店としては東京随一の品揃え(1,200冊くらいある)を提供し、デザイン本、美術、建築、手芸、数学、機械工学、自然科学(生命科学、天文地学、他いろいろ)の分野が、書店全体の1万冊の蔵書のうち、半数を占めている。けれども、決してマニアックな書店にするつもりはなく、「つくる」という行為を広義に捉えていて、例を挙げると「料理本」も充実していることを強調しておこう。料理は最高のクリエイティブな行為だと言ったのは、僕が上京してから出会った尊敬する5人の人物のうちの一人、四角大輔さんだ。料理本の選書作業中は、たとえばクックパッドともコラボできたらいいなと思いながら、どんな本を置くか考えていた。

    約4,000タイトルが専門書で、残りの4,000タイトルは、いわゆる普通の「新刊/話題書」(駅ナカにある小さな書店くらいのボリューム感をイメージしてもらいたい)で、この組み合わせを考えると、必ずしも専門書店という趣ではない。蔵書の半分について、「つくる」というコンテキストにそって、選書作業を行っているだけである。人は、どんな職種であれ常になにかを作っている気がするし、この書店プロジェクトを通して「つくる」を考える、いい機会になりそうだ。

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    ところで「選書」という漢字二文字を何度も書いてきたが、普通の人は馴染みが薄いかもしれない。選書というのは、本屋さんが各々のコンセプト・客層に合わせて、どんな品揃えをするのか考える、本のセレクトの作業である。選書した上で、店舗レイアウトに合わせて「本棚」を作っていく。この作業は、本屋を営む上で、毎日繰り返し行われる仕事の一つである。2015年日本出版年鑑によると、昨年1年間で新しく発刊された「新刊タイトル」は、76,445件。1日平均で約210冊の本が新しく生まれているのである。信じがたい事実だ。

    高校生の頃、自分が映画鑑賞を楽しむペース以上に、世界で新たに作られる映画が圧倒的に多いことを考えていて、少しさみしい気持ちになったことを思い出す。本に関していえば、この規模感になると話が違う。本の中身はおろか、本のタイトルだけですら全て読むことは不可能だろう。だからこそ、本との出会いは、人との出会いと同じくらい貴重なものだ。人は生涯で平均的に3,000人と「知り合う」と言われているが、本をよく読む人にとっても生涯で3,000冊というのは、似たような数字になるのではないだろうか(月4冊 x 60年間 = 2,880冊とか。※ あくまで「本をよく読む層」の話である。)そう考えると、どんな本を手に取るかは重要だし、読書という行為に対して考えさせられる。あなたは今、何の本を読んでいますか?

    この2週間で、僕は本に関する知識を、普通の人の10年分くらいは身につけた気がする。全国の書店の売上データが入ったcsvファイルは、だいたい10ジャンルくらいに分けられていて、90万タイトルほどの書籍のタイトルや店舗率、売上などの係数と、にらめっこしていた。この中から、僕は3,181冊の本を選んだ。すべて1点1点、自分の目でチェックした本だ。普通、書店員がAmazonのレビュー、中古価格をすべて見て入荷を検討するなんてことは無いだろう。(日本の書店というのは委託販売だから、配本された本は売れなければ取次に返品ができる再販売価格維持制度などの契約がある)でも、僕はもうすでに自分自身を含む消費者の多くが、本屋さんで見つけた購入候補の本に対する商品レビューを、Amazonでチェックするという行為を行っていることを知っている。(そして本屋ではなくAmazonで買う人もいることも知っている)

    レビューが低い本は置かないだとか、そういうわけではない。良書であり賛否両論ある本などもしっかり選んでいる。しかしながら、似たような本が複数あったとき、読者に対して確実に推薦できる本を僕は置きたいと考えているのだ。キュレーション済みの書店というのは皆さんどうでしょうか。プログラミング言語のJavaに関する入門書だけで100冊以上あるが、うちに置くのはその10分の1以下までは吟味し、一次フィルターとして厳選したものである。書店体験として、Amazonのレビューというノイズを通さずに、お客様がパラパラとめくって直感的に気に入った本を買っていただきたいと思っている。買ったあとにインターネットでレビューを見てそれが好評価だったりすると、自分の選択が正しかったんだという心理が湧くこともあるだろう。

    選書家と呼ばれる人たちがいる(ブックコーディネーター、ブックコンシェルジュとも呼ばれる)。蔦屋書店などでは各専門分野に精通したコンシェルジュが、本棚に対して責任を持っている。BOOK LAB TOKYO では、一般の人たちも本棚づくりに関わって頂きたいと思っているから、このブックコンシェルジュの体験を開放するつもりだ。少なくとも何らかの創作活動をしている方々に積極的にお声がけして、彼らが影響を受けた本棚など、来るたびに異なる体験をお客様に提供したい。僕自身はというと、まだまだ未熟なキュレーターではあるが、書店プロデュースという体験を通して、少しずつお客様にあった本の提案ができる人間になりたいと思う。

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