2014年に始まったトーチWebは、普通の雑誌に乗っているような作品とは毛色の違った一癖も二癖もある、しかし読む人が読めば非常に面白い作品が揃っています(『くも漫。』『みちくさ日記』『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む』『スペシャル』など、マンガHONZで紹介したことのある作品も多数)。
そんなトーチWebで田中圭一先生の新連載が始まると聞いた時は、もう全幅の信頼をおいていました。手塚治虫先生のロックに亀甲縛りや男体盛りを施したり、トトロに生活保護申請をさせたりする神をも恐れぬ田中圭一先生のオリジナル作品。
「絶対にもの凄くひどいマンガが来るはずだ!」
と。
『Gのサムライ』と呼ばれる、タイトルだけ見れば一見普通な作品を読み始めた時……田中圭一先生は見事にその期待に応えてくれていました。
まず、見て頂きたいのは一話目の題字。コミックス版では修正されていましたが、Web掲載版だとこちらです。
どうでしょう、「G」と言って連想されるあの超国民的ロボットSFアニメのようなこの題字は! この時点で、いつも通りの安定の酷さを見て取ることができて笑いました。
しかも、二人の主人公の名前が品場諸朝(しなばもろとも)と、腹上院魔手麻呂(ふくじょういんましゅまろ)。これは、女性経験がないまま若くして島流しにされてしまった侍の品場と貴族の腹上院が、二人しかいない孤島で何とかして童貞から卒業しようとするという物語です。主人公以外の名前も、矢追衆(やおいしゅう)の誘井受掘玲門(さそいうけほられもん)やら筒美込粘膜(つつみこみねんまく)やら、まあ酷いものです!
そして、開始三ページでやっていることと言えば、「人肌割れ目コンニャク」を温め、等身大藁人形の「佐世姫(させひめ)」への装着。
ああ、安定の最低さ。「このマンガがゲスい!」三年連続第一位の触れ込みも納得です。しかし、恐るべきことにこの作品が更新される度に何度もトーチWebをダウンさせて来ているのですから、世の中捨てたものではないと思います。
「生ける精液貯蔵庫」とまで言われるほど性欲を持て余した品場と腹上院の二人は、生身の女性でなくとも、何とか擬似的にでも"玉門"を体験しようと人間の想像力と創造力の限界へと挑みます。
ヤシの実を股間にあてがったり(歴史上初めてのTENGA)
砂人形を作ったりはまだまだ序の口。シャコガイに挑み、動物とまぐわい、女神が現れたら押し倒し、女の幽霊が出たらオカズにし……その、人類を突き動かし進化させてきた飽くなき本能のままに、男根を立てて突き進む! そろそろ、『Gのサムライ』の「G」が何なのか解って頂けた頃かと思います。
しかし、こち亀の両津勘吉のように、邪な目論見は最後には必ず失敗して終わるという予定調和が童貞の悲哀にぴったりと重なります。掘ろうとしたエイに逆に後ろを掘られたり、男に精を搾り取られたり……。男性としては彼らのバカバカしすぎる最低な行動の数々とその報いにも、心のどこかで同意や同情をしてしまう部分もあるのではないでしょうか。
狂気の公式キャンペーン
そして、公式キャンペーンもまたひどい。
この中にいくつかおかしな所が散見されますね。既に終わってしまってはいますが、単行本購入者には主要キャラの「イキ顔アイコン」が配布されるという正気の沙汰ではないキャンペーンが行われいました。
それだけならまだしも、「カモフラージュ帯」というものもご丁寧に三種類も作られ、「脱・童貞を目指す!」と書かれた本物の帯が与える印象から掛け離れた擬態を行えるようになっています。
こちらが本物。そして以下の三種がカモフラージュ帯です。
「狂気は感染する」。そんな言葉を思い出しました。
田中圭一先生は漫画界の偉大な功労者である
しかし、こんな最高で最低な漫画を描いている田中圭一先生ですが、その並々ならぬ漫画業界への貢献は特筆すべき物があります。コミPo!という、絵が描けない人でも漫画を創ることのできるソフトの開発が有名ですが、実はその機能を多くのプロ作家も用いているComicStudioに導入できないかという提言を、セルシス社員だった時代に行っていたといいます(当時のセルシス内ではその価値が正しく理解されなかったそうですが)。
TwitterなどのSNSも使いこなしており、作品を買った画像をアップした読者一人一人に個別に独自のネタを込めたお礼コメントを送るというサービスも話題になりました。そして、その後似たような施策を行う作家が増えて来ています。この『Gのサムライ』でも、「手描きPOP&平積み展開している書店が #Gサム売り場 のハッシュタグを付けて呟く」という試みを行っています。これによってタグと地名で検索すると在庫のある店舗が解るようになっていて、本を買いたい読者にとってもありがたいです。こういった様々な新しい取り組みを積極的に行う姿勢は本当に素晴らしいです。
田中圭一先生はあと数年で還暦を迎えますが、適応力や分析力、先見性が非常に優れている方であると思います。京都精華大学のマンガ学科では准教授として教鞭を執っており、ハンターだったら二ツ星(ダブル)位の称号は与えられてしかるべきではないでしょうか。漫画文化を愛する一人として、敬意を表さざるを得ません。
noteで公開されている長らく患っていた鬱病が治るまでのエッセイマンガ『うつヌケ〜うつトンネルを抜けた人たち〜』なども併せて読むと、田中圭一先生の作品をより多面的に深くまで楽しむことができるでしょう。
それにしても『Gのサムライ』は本当に最低の漫画です。最高です。今の世の中にはこんな作品が必要です。
(文:マンガサロン『トリガー』兎来栄寿)
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