2016-05-23
無名ちゃんの足を知りたい!
アニメージュで連載している「バリウタの愛を知りたい!」が好きだ。荒木哲郎と平尾隆之による対談記事で、演出家ならではのマニアックなトークが楽しめる個人的なアニメージュ3大連載のひとつ(後二つは「この人に話を聞きたい」と「設定資料FILE」)。そこではたまに、自身の監督作についての背景や制作秘話が明かされる。先月のアニメージュ2016年5月号(4月10日発売号)掲載の「バリウタ」はタイムリーに『甲鉄城のカバネリ』の制作エピソードが披露された。とくに好奇心を煽られたのはこの話だ。
第1話の絵コンテをあげた時、オレのなかでの達成感は、まずは「この内容を20分に収めてやったぜ!」ってこと。もうひとつは、「無名ちゃんが最後、回し蹴りでカバネの首を落として、下駄に仕込んだ刃が鳥居に刺さって抜けなくなって下駄を脱ぐってシーンを、ついに描いた!」ってことだからね。もう企画段階から言いまくってて、「刺さった下駄が抜けなくて、ゆっ……くりと美しい足を抜くのです」と、この話を何度もした。そのうち設定統括の笹岡さんが「それは監督から第1話ラストシーンの説明をお願いします」と言われてオレが「下駄がですね……」と話しはじめるのが恒例になったくらい。
なんて熱っぽい口ぶりだろう。たしかに完成映像を観るとヒュウ! と口笛を吹きたくなるくらい素晴らしい足だった。
新宿の某殺し屋を思わせる、特殊仕様の下駄を履いた美少女の後ろ回し蹴り、というところからして堪らないものがあるが、監督の口ぶりと映像でさらに知りたいことが出来てしまった。絵コンテだ。これほど熱を入れて語っているシーンを、どんな風に絵コンテで描いているか見てみたいと思った。
さあ、そこでタイミング良く開催されていたのがタワーレコード渋谷店の「甲鉄城のカバネリ展 MEETS TOWER RECORDS SHIBUYA」。数々の設定資料と共に、第1話の絵コンテがすべて展示してあり、撮影可という太っ腹な企画。最終日に駆け込む形になってしまったが、件の足コンテをじっくりと眺めてきた。
荒木監督による第1話のコンテは、圧倒的な情報量と抑えきれないパトスに満ちた、ほとんど感動的と呼んでいいものだ。その中でひと際異彩を放つラストシーン。ご覧の通り、1ページ丸々使って無名の抜く足を描いている。9コマ刻みで足を描く執拗な指定、見えている。荒木哲郎には、たった今穢れを払ったばかりの、しかし穢れを知らないような少女の白い足がゆっくりと抜けていく映像が完璧に見えている。このラスト2秒の無名の足は残映だ。夕暮れの太陽をバックに閉じるドラマのラストシーン、それと同じわけだ。少女の足でやるのは、いささか偏執的に思えるがそこは荒木イズム。視聴者の気持ちをガッチリと掴むにはどうやればいいか憎いほど分かっているのだろう。夕日や月を背に佇む少女よりも、少女の足! これがするりと抜けていくさまを映す方が美味しい、と。
そんなふうに思いながら鑑賞していたのだけど、小難しく考えずとも「アオいいよね」(『こち亀』の有名な台詞)で済む話なのかもしれない。「無名の足いいよね」「いい……」、いい……。
そういえば、「バリウタ」を読んだとき、てっきり1コマでスローモーション気味に描いているのだろうと思っていた。実際には3コマ。もしフルコマで打たれていたら、もう少し情緒の残った演出になっていた気がするが、そこに作り手の、一言でいえばおっかなさを感じる。入れ込んだシーンであっても、不必要な情はかけない。そういう資質を。
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