このたび、新著『パックス・チャイナ 中華帝国の野望』を、講談社現代新書より上梓した。
2016年5月現在、隣国に君臨する中国の存在は、いま存命の日本人が目撃してきたどの時点よりも、大きなものとなっている。そんな中、習近平政権がアジアで何を目指し、どう動いているのかを審らかにしたのが本書である。アジア・ナンバー1の座を賭けた日中外交の舞台裏も明かした。
タイトルにある「パックス・チャイナ」という言葉は、私の造語である。
英国の歴史家エドワード・ギボンが名著『ローマ帝国衰亡史』(1776年~1788年刊)で、いわゆる五賢帝のローマ帝国最盛期を、「パックス・ロマーナ」(ローマ帝国による平和)と名づけた。以後、産業革命後の大英帝国のもとでの平和を「パックス・ブリタニカ」、第二次世界大戦後の超大国アメリカのもとでの平和を、「パックス・アメリカーナ」と呼んだ。
オバマ政権末年の2016年は、もしかしたら「パックス・アメリカーナ」が、近未来に終焉することを暗示している年なのかもしれない。
そんな中で、中国の習近平主席は、21世紀のアジアに、まさに「パックス・チャイナ」(中華帝国のもとでの平和)を創ろうとしているのである。
習近平、堅忍不抜の意志
2012年11月に、中国を統治する共産党トップの中央委員会総書記に就任した習近平は、「中国の夢」を、10年続く自らの政権のキャッチフレーズに据えた。正確には、「中華民族の偉大なる復興という中国の夢を実現する」というものだ。
では、「中華民族の偉大なる復興」とは何を意味するのか? それは一言で言えば、「1840年以前の状態」に、中国と東アジアを戻すということだ。
この年にアヘン戦争が起こり英国に敗れて、清帝国の没落が始まった。そして、半世紀あまり後(1894年)に日清戦争が起こり、日本にも敗れて、中国は半植民地的な状態に陥った。
この「屈辱の百年」は、1949年に毛沢東率いる中国共産党が、中華人民共和国を建国したことで終焉した。毛沢東主席の「正当な後継者」である自分は、その偉大なる「革命事業」を引き継いで、「中華民族の偉大なる復興」を果たすというのが、習近平主席の堅忍不抜の意志なのだ。
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