潮目が変わった!?日本企業に何が
今年度の企業業績は
上場企業の、1年間のいわば「成績発表」とも言える決算発表。
東証1部の上場企業の3月期決算を毎年まとめているのが大手証券会社の「SMBC日興証券」です。5月13日までに発表を終えた企業は全体の96.5%に当たる1384社です。
各企業の経常利益の合計は42兆3790億円と、円安などを背景に過去最高だった前年度より0.5%減少しました。順調な増益を続けてきた「日本株式会社」の業績が頭打ちとなった形です。
業種別に見ますと、▽原油価格の下落に伴い燃料費が減った「空運」が39.2%、原材料費が減った「繊維」が18%の増益となったほか、▽外国人旅行者による活発な消費を背景に「小売」が25%の増益となりました。
一方、▽中国経済の減速などを背景に「鉄鋼」が47.5%、「海運」が46%の減益となったほか、▽原油など資源価格の低迷に苦しむ商社を含む「卸売」が41.8%の減益となりました。
企業業績 曲がり角に
ただ昨年度の決算の中身を見ると、すでに異変がはっきり表れています。年度終盤に当たることし1月から3月までの3か月間の業績は経常利益が25.2%減(前年同期比)と急ブレーキがかかっていたのです。
さらに集計対象の企業が示した来年3月期(今年度)の業績見通しでは、売上合計(金融・卸売を除く)が1.1%減、経常利益も0.4%減となっています。企業の売り上げは、平成22年度から増加を続け、平成26年度に過去最高に。また経常利益は、円安などを背景に平成24年度から増加を続け、平成25年度、26年度と過去最高を更新してきました。
トヨタ自動車の豊田章男社長が「ことしに入り、大きく潮目が変わった」と強調したこともうなずけます。
最大の逆風「円高」
最大の逆風は、年明け以降、急速に進んだ「円高」です。
中国経済の減速や原油価格の下落などで、年明け1ドル=120円台だった円相場は、3月末には1ドル=112円台に。さらに5月初めには1年半ぶりに1ドル=105円台となるなど円高が一気に進みました。
急激に進んだ円高は、輸出産業を中心に企業業績を直撃しています。
「日立製作所」は、円高の影響で売り上げが3800億円落ち込む見通しとなっていることなどから、来年3月期は売り上げが10.3%減、営業利益が14.9%減との見通しを発表。「トヨタ自動車」も来年3月期の営業利益で1兆1500億円余りの減益を見込んでいますが、このうち9350億円は円高による減益だと発表しました。
アベノミクスのもとで発動された大規模な金融緩和などに伴い、3年余り続いてきた円安は、企業業績を押し上げる原動力となってきました。しかし一転、円相場が企業業績の強い逆風となっています。
トヨタ自動車の豊田章男社長は、「これまで為替の追い風を受けて自分たちの実力以上に収益の拡大局面が続いていた。風がやんだことで意思の強さや覚悟が本物かどうかを試される年になる」と気を引き締めていました。
消費にもかげり?
一方、これまで好調だった「消費」もその勢いがそがれています。
もはや日本の小売業にとって、その存在を無視することができない外国人旅行者。旅行者の数は引き続き好調です。しかし、三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長は、「客単価は3割落ちている」と述べ、外国人旅行者の買い物のしかたに変化が出ていると指摘。
デパート業界では、それまで好調だった高級時計や宝飾品など高額商品の販売の落ち込みも顕著になっていて、国内の消費全体の動向について「株安円高の中で落ちている」と厳しい認識を示しました。
熊本地震の影響も
また今年度は、熊本地震も企業業績に影響を与えることが予想されています。
熊本県内には、半導体の製造工場など大手メーカーの工場も数多く進出しています。すでに操業を再開した工場もあるものの、地震による生産の遅れなどが企業業績に最終的にどの程度の影響を与えるのか、まだ見通しづらいというのが現状です。
企業の「実力」 試される年に
円安や外国人旅行者による活発な消費を追い風に、好調な業績が続いてきた日本企業。「円安」という、これまでの最大の追い風がなくなった今年度は、改めて、日本企業の真の強さ、実力を問われることになりそうです。
企業のグローバル化が進むなか、企業の多くは為替の動向に左右されにくい会社を作る努力を続けてきましたが、この3年余り続いた円安の恩恵の中で、そうした企業の姿勢がやや緩んでいたのではないかという声もあります。
調査をまとめたSMBC日興証券の太田佳代子アナリストは、「このところ企業業績はよかったが、不採算事業の処理やコスト削減など効率化が進んでこなかった部分もあった。今後も円高が進む可能性はあり、企業は資本の効率化などを進めるとともに、付加価値の高い商品開発や新たな市場の開拓などを進めていく必要がある」と話しています。
外部環境に左右されにくい足腰の強い企業。永遠のテーマとも言えますが、今年度はその原点に戻って企業本来の力が問われる1年となりそうです。