うつの田中先生に刺ったすごいアニメ
田中圭一(以下、田中) 感受性が鈍ってしまううつ期間は、コンテンツが好きな人にとってとてもつらい期間ですよね。
ずんずん ええ、それまであんなに毎日を充実させてくれていた映画やアニメを観ても、漫画や小説を読んでも、全然心を動かされなくて、本当に退屈でした。
田中 僕は、うつがひどい時期でも、かろうじて自分が一番好きなジャンルのものだけは、接していました。
ずんずん どのジャンルですか?
田中 僕の場合はアニメです。深夜アニメだけは、うつの時期も継続して観ていました。それも「観てる」っていうよりは、「頭に入れる」っていう感覚でしたけど。
でもそんな精神状態だったのに、「これは面白いな!」ってアニメが一つだけあって。
ずんずん それ、気になります! なんていうアニメですか?
田中 『コードギアス 反逆のルルーシュ』※1!
※1:2006年〜2007年にかけて放送されたテレビアニメ。超大国ブリタニア占領下の日本で暮らすブリタニアの元皇子・ルルーシュは、ある日謎の少女C.C.から「ギアス」という他人を操る特殊能力を授けられる。この能力と高度な頭脳を武器に、ルルーシュは自分たちを見捨てたブリタニアを壊し、新しい世界をつくるため、仮面の男「ゼロ」として戦いに身を投じてゆく——。
ずんずん さすがコードギアス!!
田中 今から振り返って考えると、当時は他にも面白いアニメがいっぱいあったのに、全然ハマれなくて。そんな精神状態でも、コードギアスだけは「面白い!」と思って毎週楽しみに観ていました。
ずんずん うつ状態でも面白い、コードギアスの破壊力! すさまじい……。
田中 とんでもない面白さですよね。うつ中に、続編の『コードギアス 反逆のルルーシュR2』※2も始まったんですが、今度は毎週見ずに、一気に見るために全部撮りためて、半年間我慢しました。
※2:『コードギアス 反逆のルルーシュ』の続編として、2008年に放送されたテレビアニメ。第一作目から1年後の世界を描いている。
ずんずん 面白さの刺激を高めるための工夫ですね!
田中 そうそう! でも、たまに電車内で横の人がスマホでコードギアスを観てたりしていて、「おいおい、こっちは我慢してるんだから、やめろ!」みたいな(笑)。
放送終了時も、まだうつの渦中にいたんだけど、3日で一気に観て。いやぁ本当に面白かった!
BLでつながる、ずんずんさんと書店の支え合い
田中 ずんずんさんは、何か心の支えにしていたコンテンツはありました?
ずんずん うつの時期は、「商業BLマンガ」を読むことだけが楽しみでした。
BLはとても優しい世界なので、うつの自分を支えるために、週に2冊ずつ行きつけの書店で買っていたのですが、そうしたらなんと、その書店の商業BLコーナーが拡大したんですよ!
田中 なんと!(笑)
ずんずん 引っ越してからその書店には行けなくなってしまったんですが、その後しばらくして、友達から「あの書店のBLコーナー、縮小したよ」っていう報告が入って(笑)。そのとき、自分が買い支えていたことに気づきました。
田中 BLがずんずんさんを支えて、ずんずんさんが書店のBLコーナーを支えていたんですね(笑)。
ずんずん かもしれません(笑)。ちなみに、今年の1月は休みがとれて暇だったので、ひたすらKindleでBLマンガを読んでいたのですが、気づいたら1ヶ月で39冊も買っていました……(笑)。
田中 うつのときよりハイペース! うつヌケして感受性が元に戻ってるから、より楽しめるようになっているんでしょうね。
うつヌケの後に待つ、うつの手招き
ずんずん 私はうつになってしまったけど、運よくヌケられた。でも、人によっては「うつが手招きしている」感じがあるみたいですね。
田中 手招きする感じ、分かります。僕は2回目のうつのときに、うつになる原因が気温であることを発見しました。それ以後は、うつのトンネルに入らないように、気温には気をつけて、心や体の準備もしっかりしています。
ずんずん 1回うつになってしまった以上、それ以前と同じ自然体のままでは、残念ながら生きていけないんですよね。「あるがままの私」でうつになってしまったのなら、何かを変えなければいけないと思います。
田中 ええ。僕がうつの手招きを感じるのは、季節の変わり目の気温変化が激しい時期なんです。「気分が落ち込むのは気温のせいだ」と頭では分かっていても、どうしても落ち込んでしまって、仕事の手も止まる。
昔は原因が分かっていなかったから、「このまま、何もできなくなってしまうんじゃないか……」と不安になって、そのままうつのトンネルに招き入れられてしまった。だけど、原因がわかった今は「あと24時間ぐらいで、元気になるだろうな」と予想することができます。
ずんずん 原因の分析や対策は必須ですよね。ウォーキングでも、マッサージでも、筋トレでも、うつに招き入れられないようにする自分なりの方法があるといいですよね。
田中先生秘伝のアイデア「ポカポカ高気圧喫茶店」
田中 うつを和らげる方法といえば、「暖かくて、高気圧の場所に行く」のが一番効果的だと思うんです。でも、うつの人も忙しくて、そういう場所に気軽には行けない。で、実は、僕には秘伝のアイデアがあって……。
ずんずん お聞きしたいです!
田中 ズバリ、うつの人向けの「ポカポカ高気圧の喫茶店」です!
ずんずん おお、なんだか儲かりそう! いったいどんなお店なんですか?
田中 1、2時間いると、暖かさと高気圧で気分が「ぱー」と明るくなる喫茶店です。これを、都会のいろんな場所に作るんです。よくないですか?
ずんずん 素敵です! そこに集まったうつの人たちで体験談を話し合って、「自分を否定するのはよくないよねー」「そうそうー」みたいな話ができれば、なおいいですね。
でも田中先生、どうやって都会で「高気圧の環境」を実現するんですか?
田中 鋭い! 実は、そこもすでに考えてあるんですよ。
例えば、デパートの上にある「子供が中に入って跳ねるアトラクション」が使えると思っています。あの中に適度に暖房をかけて、天井に青空を書けば、十分営業できるんじゃないかなと思って。
ずんずん それは費用もかからず、すぐに始めれられそうですね!
田中 でしょ? もっと気軽に実現できるのは、「気圧うつの人を集めた東京ドーム・ツアー」!
ずんずん なんですか、それ!
田中 東京ドームは、外から気圧を入れて膨らませてるから、実は中は高気圧状態になっているんです。だから、気圧うつの人には効果があると思って。
巨人が好きじゃなくても、気分が落ちたら東京ドームにみんなで行って、ビール飲んで騒いでるおじさんたちを見ながらどうでもいい話をする、そういうツアーです(笑)。
ずんずん すごくいいツアーですね。すぐにでも開催しましょう!(笑)
構成:山本隆太郎
次回「"うつヌケ"ツールとしてのSNS」は5月23日掲載予定
noteで連載中! 田中圭一さんの『うつヌケ 〜うつトンネルを抜けた人たち〜』は、こちら
(『うつヌケ』は電子小説誌「文芸カドカワ」でもお楽しみいただけます)
社会人3年目で読みたい、仕事にめちゃ効く処方箋! ずんずんさんの連載はこちら