ベネズエラの経済状況はカオスで、価格統制、インフレ、不景気、汚職、デフォルト懸念、さまざまな問題が複雑に絡まり合っています。ですが庶民の観点から見ると、この状況はズバリ、お金が価値判断の基準にならない、ということです。
お金で物の価値が判断できなくなる。これはすごく怖いことです。
価格が価値判断の基準にならない
例えば、日本でお店に300円の物と3000円の物と3万円の物が売ってるとします。300円だったら安くていつでも買えるもの、3000円は物によって高いか安いかは分かれるけど、毎日買うような物じゃないかな、3万円は特別な時に買う物、といったことが値段だけで判断できると思います。そして、このざっくりとした推測がどうしようもなく間違っている可能性は低いはずです。
ベネズエラではこのように価格を基準にした価値判断が機能しません。
想像しやすいように日本の食べ物に当てはめて考えてみましょう。
ベネズエラで今起きているのは、米10kgが300円で売ってる一方で、豆腐が3000円、コンビニアイスが1個3万円といった意味不明な値段になっている状態です。
米は主食なので政府により10kg300円と値段が決められています。安いのはありがたいけれど、常にスーパーで見つかるわけではありません。するとどうなるか?みんな、たとえ家に予備があったとしても見つけた時に買えるだけ買い溜めるようになります。なので店で売り出されるとすぐに売り切れです。
マドゥロ政権は、この問題を解決しようと配給制を導入しましたが、もちろん結果は同じです。配給制にしても、必要な物が明日は見つからないかもしれないとなると、買えるだけ買ってストックする。当然でしょう。
スーパーに向かって全力疾走するベネズエラ人のビデオを見たことがありませんか?早く行かないと売り切れて買えないのです。
安いから買えない、高すぎて買えない
一方、価格が定められていない豆腐は、インフレの影響で3000円もします。さすがに豆腐一丁3000円は馬鹿らしいので最近は買っていません。でも、今日スーパーAがセールで豆腐を500円で販売するらしいと聞きました。友達や親戚中にLINEしまくって、みんなで買いに行きました。4時間並んだのに、結局売り切れで買えませんでした。
そうこうしてるうちに、政府が突然、「日本人に豆腐は必須だ。法律で一律20円に決める!20円で売れないやつは国賊、資本主義者の手先!」と言い出しました。豆腐が20円になったら、原価割れしているので豆腐屋が次々に生産をやめてしまい、もうどこにも売っていません。前だったら3000円出したら買えたのに…
コンビニアイスはとても買えないのでずっと食べていません。4歳になる娘はコンビニアイスを一度も食べたことがないのです。彼女が生まれる前は、普通に店でアイスが300円で売っていたなど想像もつかないでしょう。
このような問題が、食料だけではなく、国の経済活動全体で起きてるのだから狂気の沙汰です。
大変でも長時間列に並んで買うしかない
食料のみならず、あらゆる日用品が現在は不足しています。トイレットペーパーも、石鹸も、シャンプーも、コンドームも、頭痛薬も、紙オムツも見つかりにくい。完全にないというよりは、日によってあったりなかったりします。
もし完全にないなら諦めもつくかもしれませんが、場合によっては安く手に入るとなれば、お金によほどの余裕がある人でなければ何時間も列に並んで買うでしょう。インフレのために時間単位で自分の資産はみるみる目減りしていくのですから、なおさらです。
とはいえ、どうしても必要なら、高いお金を出せば闇市で多くの物を買うことはできます。ベネズエラ全体では食料の消費量が減少していますが、富裕層が食べられなくなってお腹を空かせているなんてことは考えられません。食べられなくなっているのは、貧困層でしょう。
死に至る物不足
ただし、中には闇市で簡単に買えない物もあります。そしてそれがないと死んでしまう物もあるのです。抗がん剤、抗レトロウィルス薬などの医薬品です。
薬品はほとんどを輸入に依存しています。政府が外国のサプライヤーにお金を払わなければ、薬も入ってきません。そして今、ベネズエラでは外貨が不足しており、輸入するお金がありません。
ベネズエラ政府は今、デフォルトを避けようとあらゆる資産を叩き売っています。これで得た外貨はウォールストリートや中国などの債権所有者に行き、病に苦しむ国民には一銭も残らないことが懸念されています。野党派は近々ベネズエラは医療関係で人道支援が必要になると訴えています。
ディストピア
現在のマドゥロの経済政策の背後にはスペイン人アドバイザー、アルフレド・セラノの存在があると言われており、インフレの存在を否定していたサラス副大統領の辞職後は、彼が直接マドゥロを導いているようです。セラノはスペインのポデモスに近いシンクタンクのCELAGの研究者で、このCELAGには以前はポデモスの創設者の一人、フアン・カルロス・モネデーロも名前を連ねていました。
このアドバイザーの元で、マドゥロ大統領は効果のある解決策をなんら出せていません。ベネズエラ国民の多くは、マドゥロやセラノと一緒にこのディストピアで心中するなどまっぴらだと思っているはずです。ベネズエラで「物不足により国民の不満が高まっている」というとき、その背後には、単なる物不足に対する不満を超えた、やり場のない怒りや将来に対する不安、絶望があるのです。
この前の記事もそうですが、これらの記事を読んで一つ思った事があります。チャベズ前大統領やマドゥロ大統領は何か都合が悪い事があると良く「海外の帝国主義者たちがベネズエラに経済戦争を仕掛けている!」と主張していますがベネズエラに「経済戦争(economic war)」を仕掛けている勢力がいるとすればそれはベネズエラの政府自体なのではないか…と言う事です。海外のどんな勢力が「経済戦争」を仕掛けるよりはるかに効率よく、しかも完全にベネズエラの経済を破綻させているように見えます…
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確かにそのように見えますね。
ただ、実際にベネズエラ政府が陰謀めいたことを考えて自らに対して「経済戦争」を仕掛けているかというと、恐らくそんなことはなく、本当に政府は自分達の地位を維持することや、目先の利益を得ることしか考えていないだけなのだと思います。目的を持って陰謀を張り巡らせているなら、野党側も他に対処のしようや交渉のしようもがあったかもしれません。
ですが、野党との裏での交渉すら成立していないように見える上に、ここまで政府が自らの首を絞める方向に動いているのを見ると、少なくともマドゥロは「経済戦争」を仕掛けられていると心底信じていると考えなければ説明がつかない気がします。
悪人がトップに立つ以上に、盲目にありもしないものを信じるバカがトップに立つと恐ろしいし、かつ深刻です。
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