今期は15%の減益と、ここ数年の急拡大から一転、陰りが見えてきた。
日立製作所は5月13日、前2016年3月期の決算を発表。売上高は、伊鉄道会社買収によるかさ上げや円安効果もあり、前々期比2.7%増の10兆0343億円。7期ぶりに10兆円の大台に乗った。ただ、営業利益は、同1.0%減の6348億円となった。
同時に発表した今2017年3月期見通しは、売上高が前期比10.3%減の9兆円、営業利益も同14.9%減の5400億円と、かなり落ち込む見通しだ。
前期は情報・通信部門や自動車関連部門が順調に伸長。一方で、中国の景気減速を受けて建設機械部門が、原油や天然ガスの価格低下で社会・産業部門の化学プラントが、それぞれ悪化。世界景気の減速をまともに受けた恰好となった。
■ 物流もキャピタルも「連結外し」
今期も引きずっているのは、中国の景気低迷だ。特に昇降機は受注が激減しており、厳しい状況が続くという。建設機械部門も厳しい状況が続くものの、前期のリストラでテコ入れしてきたため、持ち直してくる見込み。
といっても、15%もの減益は、外部環境の影響だけでない。日立は、前期に上場子会社の日立物流と日立キャピタルについて、他社と資本業務を提携させた。さらには空調事業で海外メーカーと合弁会社を設立。いずれも日立の連結対象から除外し、収益の目減りとなって効いてくる。
目減りするにもかかわらず、連結対象から外すのは、日立は中長期的に営業利益率10%を目標にしているからだ。利益率の低い事業と、注力する「インフラ」と「IT」に結び付けられない事業に対しては、売却や他社との提携を積極的に行う。今後も貢献できないグループ会社には、容赦のない連結外しが続くとみられる。
ただ、他社との提携では、問題も発生している。2014年2月に設立した日立と三菱重工業の火力事業の合弁会社、三菱日立パワーシステムズ(MHPS)だ。出資比率は三菱重工が65%、日立が35%と、三菱重工が過半を握っている。
合弁相手の三菱重工は2016年3月31日、日立の子会社が2007年に受注した南アフリカ共和国での火力発電プロジェクトを巡り、損失分として、約3800億円を日立が負担する義務があるとし、支払いを請求した。MHPS設立時、同プロジェクトにおいては、新会社が資産・負債などを継承。一方で、設立以前の損失については、日立が責任を負う契約を締結していたためだ。
これに対して日立は4月6日に「本請求は契約に基づく法的根拠に欠けるものとして、請求には応じられない」と回答。両社、話し合いを続ける方針を示しているが、和解の道筋はまだ見られない。そもそも同プロジェクトを巡る議論は、2014年のMHPSの設立時から行われてきたという。三菱重工の宮永俊一社長は、「前期末までに何らかのメドをつけようと、一生懸命やってきたが、折り合いがつかなかった」と語り、5月9日に決算短信上で公表した理由を説明する。
■ 矢継ぎ早の提携にはどこかで躓きも
MHPSはスタートラインに立ったばかりの会社である。日立出身で、設立時にMHPSに転籍した藤谷康男取締役は、今年4月の東洋経済の取材で、「この2年間は融合を進めてきた。4月に人事制度もできるので、(融合は)一区切りだ」と語り、ようやく1つの会社として動き始めたと、安堵した様子だった。
順調にいっていたかのように見えた合弁も、今後の展開によっては、両社に亀裂を生じかねない。日立の西山光秋CFO(最高財務責任者)は「亀裂は入っていない。合弁会社としてはきちっと仕事をやってもらっている。親会社のディールの話だ」ときっぱり言う。
中国など外部環境の悪化と、戦略的な事業の切り売りで、目先は減益を見込む日立。仮に約3800億円を支払うことになれば、業績にも相当程度の影響を及ぼすのは避けられまい。これまで大手電機では「勝ち組」とされ、業務提携や合弁会社設立を矢継ぎ早に進めてきた日立。だが、事を急ぐあまり、どこかで今回のケースのような案件がひずみとなって出てくるかもしれない。
富田 頌子
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