”天才肌の起業家”が陥りやすい罠

「インターンを雇って失敗した話」を読んで

MTRL(マテリアル)佐野編集長がインターンについて書いた記事が話題になっている。

端的に要約すると、インターンに自発的な働きを期待して時給もちゃんと払って雇ったけど、期待したような働きが見られなくて失望したという話。経営者なら、大なり小なり似たような思いをしたことがあるのではないだろうか。

もちろん私も、最初に人を雇ったときにまったく同じような歯がゆさを感じた。ただ、いまはそうは思わない。考え方が変わったからだ。

社長になるような人はマイノリティであるという自覚が必要

まずひとつ言えることは、起業家であれ雇われであれ「社長」になるような人は、世間一般の平均的な労働者とは、能力や価値観、仕事に対する向き合い方が180度くらい違うということだ。

少なくとも彼らの考え方は「当たり前」じゃない。圧倒的にマイノリティだ。

ところが、意外にこのことに気づいていない社長は多い。無意識レベルで「仕事には全力を尽くして当然」であり「仕事の成功が一番重要だ」と思っている。そうでない人たちがいるなんて考えられないのだ。

いや、彼らも頭ではわかっている。ただ、それは自分とは関係のない世界(たとえば公務員とか大企業とか)の話であり、自分のいる世界にはそんな人たちがいるはずがない、いてはならないと”無意識レベルで”思っている。

大企業を経ずに若くして自力で起業したような人は、とくにこの傾向が強いように思う。いわゆる”天才肌の起業家”というやつである。

同じ人間でも”立場”によって仕事の仕方は変わる

私自身は、ぜんぜん天才肌でもなんでもないけれども、一般的な社会人経験が乏しいという意味では彼らに近い。学生のときから自分のビジネスを持っていて、それから紆余曲折を経て37歳で事業を譲渡するまで組織に属するという経験がほぼなかった人間である。

そんな自分が38歳で初めて大企業に「お勤め」してみて思ったのは、人は与えられるポジション、役割で、仕事の仕方が変わるということだった。

37歳までの自分は100%やりたいことを仕事にしていたので、すべての仕事を自分で考え、取り仕切っていた。だから自分はいわゆる「セルフスターター」だと思っていたし、そうでない人たちを見て「なんで自発的にやらないんだろう」と思っていた。

ところが、38歳で給与所得者になりその考えは一変した。というか、自分の考えは何も変わっていないのに、仕事の仕方が変わった。自発的にいろんな仕事をどんどんやろうというよりは、なるべくミスをしないように、なるべく面倒くさい仕事が降ってこないように、というところに意識が向くようになったのだ。これも無意識レベルの話だ。

おそらく「私」という人間は変わっていない。もう40も過ぎているので変わりたくても変わりようもない。ただ、”立場”が変わっただけだ。だけどそれだけのことで、私の仕事のスタンスは一変した。

この体験は、その後の私のメンタルに大きな影響をもたらした。

経営者は「自分の基準」を他人に適用すると必ず苦しむ

かつて私はわりと真剣に「従業員も経営者の視点を持つべきだ」と考えていた。それがその人自身にとってプラスになると信じていたからだ。

だけど”対岸”に立つと、そこから見える景色は違っていた。

私が本気で「よかれ」と思っていたことは、単なる経営者側の理想の押し付けにすぎないのではないか?と思うようになった。

もちろん従業員であれなんであれ、経営者目線で自発的にいろんな動きができることは素晴らしいと思うし、そういう人が少数ながら存在することは知っている。ただ、それは「当たり前」ではない

そのことが、理屈ではなく体感として理解できるようになって、以後人を雇用するときに時折感じていたわだかまりがスーッと消えていった。

ここまで何年かかったんだ?もっと早くに知りたかったわ(笑)。