フェティッシュの火曜日
2016年5月10日
山梨のカツ丼は本当にカツ丼なのか。とんかつ定食じゃないのか
カツ丼はカツ丼であるしソースかつ丼もまたソースカツ丼である。種類はちがうがどちらも丼として特別に作られたものだ。
ところが山梨のカツ丼というのがほとんどカツ丼していない。どちらかというととんかつ定食なのだ。 > 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー 山梨といえばほうとう、鳥もつ煮甲府駅前に降り立つと「名物 煮貝」の看板が見える。海がないのに貝を名物にしてくる山梨県である。
観光客が多く入りそうな店には「ほうとう」「鳥もつ煮」の文字。このあたりが山梨名物めしの代表選手だろう。 一方カツ丼はその店のメニューの隅のほうに「甲州風カツ丼」とだけ書かれている。一応名物として認められてはいるようだ。 駅前の店ではほうとうと鳥もつ煮推し。カツ丼は大きくは書いてない
カツ丼を求めさまようこのカツ丼してないカツ丼が山梨では「カツ丼」としてふつうに出されているそうだ。できれば「甲州風カツ丼」ではなく「カツ丼」として出されている町の食堂みたいなところに行きたい。
古そうな食堂に聞く。「そう、東京とも長野ともちがうね。三代前からこのカツ丼だからねー」
ずっと山梨ではこのカツ丼だったあいにく今日は休業日だという年季の入った食堂でお母さんにきいてみると「そうそう、キャベツの上にカツがのってるのね」と言う。それだ。それがカツ丼してないカツ丼だ。
「昔からあるねえ。うちだと三代前から」と言うからそうとう古いのだろう。 またどうしてこんなカツ丼になったのかもわからないらしい。カツが卵とじになったみたいなダイナミックな変化でもないから手がかりも少なそうだ。 地味な丼で不明点も多い。官公庁は休みでお店も休み。今日はあやしい。 お蕎麦屋さんで聞く「煮カツ丼ならあるんですけどね」全国のカツ丼は煮カツ丼。山梨のカツ丼にはそばつゆが必要でないからお蕎麦屋さんではやってないのかもしれない
カツ丼と煮カツ丼お蕎麦屋さんってカツ丼置いてあるなと思い入ってきいてみると「煮カツ丼ならあるんですけどね」という。
山梨でカツ丼をたのむとカツ丼してないのがくるため、全国的な卵とじのカツ丼は煮カツ丼と呼んで区別してるらしい。 そばつゆを使わない山梨カツ丼はお蕎麦屋さんとも切り離されているのか。 それでは一体どんなものか。事前に検索して目星をつけていた食堂にいくと店頭にディスプレイがあった。 これが山梨のカツ丼スタイルである。カツ丼と煮カツ丼がある。
私たちがイメージする全国的に普及しているカツ丼は煮カツ丼と表記される
そしてこれが山梨のカツ丼である。おわかりだろうか。私はこの食品サンプルでわかる自信がない
年季入りすぎた町の食堂にガラガラと扉を開けると奥からおばあさんが出てくる。こういう店には独特の匂いがある。なつかしい感じだ。
インターネットにのせる記事で山梨のカツ丼を調べていること、取材であることを伝えてカツ丼を頼むと「卵でとじられてるのとどっち?」とお母さんが聞く。間違うといけないのでいつもこう聞くそうなのである。 先ほどの食品サンプルの店がこれだ。メニューの頭にカツ丼がある。よく出るのだろう
もちろん全国チェーンの店では山梨でも卵とじカツ丼が「カツ丼」として表記されていると山梨の知人から聞いた。間違う人が続出してお店ではテプラで説明を足したそうだ。
「カツ丼よく出ますよ。さっぱりしてておいしいってね。食べてく人多いですよ」と店のお母さんは言う。 トイレはどこかと聞くと故障してるんですという。なるほど…そういえばこの匂いトイレの匂いである。さっき感じたなつかしさを返してほしい。 店のむかいのコンビニでトイレを借りて戻ってくるとカツ丼はやってきた。カゴメソースとともに。 ドンと置かれるカゴメソースにとまどう
ふたをあけるとごはんの上に千切りキャベツにレモンと紅しょうが。そしてとんかつ。紅しょうがが丼らしさをあおるもレモンの定食感で相殺である。
自分でカゴメソースをかけて完成である。はたしてこれはカツ丼なのであろうか
丼にのったとんかつ定食丼にはフタがある。フタをとるとごはんの上にはとんかつとキャベツとレモン、それに紅しょうが。紅しょうががかろうじて丼的な要素であるが、ほとんどとんかつ定食である。
食べてみる。うむ。うまい。間違いのない味だ。やはりとんかつ定食はうまいなという味がする。 だがそれもとんかつ定食らしさである。山梨カツ丼のカツ丼らしさ、丼としてのオリジナリティをいまだ器にしか見いだせていない。(へ〜、こっちのとんかつ定食は丸いものにコンパクトに収まってるな〜)というように、食べ物というより収納の話に近くなっている。 サンリオは山梨の王、山梨王からきているらしいのでキティちゃん
見ればメニューに「カツライス」というのもある。どこがちがうのかときいてみると、こちらは皿で出てきてちょっと小鉢がついたりするそうである。ほとんどちがわなさそうだ。
なるほどそれで100円高いんですねとか、おもしろいですねとか、さっき深沢七郎の小説読んでたんですけどみんな語尾に「ごいす」って言うんですかとか、色々しゃべってそろそろ出ようかというとき、お店のことはインターネットに載せないでくれとお母さんがいう。 私たちがキティちゃんの穴を覗き込むとき、キティちゃんの穴もまたこちらを見ている
何かあったんですか…ときくと、昔つらいことがあったという。記事書くっていってお金とるやつですね、お母さん。あれにひっかかったんですね。でも最初に、最初に言ってくれればぼくはお腹いっぱいにならずにすんだのに……ああ、お勘定!
次の一店。アイスや志まんやき(今川焼き)を売る店で定食も出ているようだ
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