写真提供 自分で撮った
ンラァイン!
弟からLINEが届いた。
「お兄、今日母の日やけど、何か買った?」
「夕方から実家で御飯食べるから、6時に集合な」
それを見た瞬間私はやや柔目で消化しきれていない玄米の混じったうんこを漏らした。一張羅のズボン、いやパンツに着替えたところだというのに、なんということだ。
しかも玄米が消化しきれていないという事は体調も思わしくない。
おそらく、某ユニクロの店員によるストレスが原因だろう。
或いは過去に花火を使用して『火の七日間』と言いながら燃やしたダンゴムシの怨念が深い深い業となって私に栄養を取らせまいとしているのか。
仕方なく某ユニクロのレディースのシマシマのパジャマのズボン、いやパンツを履いて、私は走り出した。メロスのように走り出した。
市街地へ向かう電車に乗るために、「セリヌンティウスが待ってる」とTwitterでつぶやきながら私はメロスより走った。
この感じ、以前どこかであった気がする。
デジャヴ。デジャブ。
!!!
思い出した瞬間、再びうんこを漏らしそうになったが、交差点の真ん中でGLAYというバンドのボーカリストのTELという人物の決めポーズを模倣することで事なきを得た。
思い出したのはこの記事の内容である。
そう、私は妻の誕生日を忘れており、尚且つプレゼントするはずの花束も買わずにイカを釣るための疑似餌と、アイスクリームを買って泣きながら帰ったのだった。
ちょっと待てよ、母の日?母の日ってもう終わってなかったか?
私はGLAYのTELのポーズで走りながら考えた。
おかしい、その記事はもう書いたはずだ。
この記事によると、母の日という存在を知らなかった下の下、ゲノゲの鬼太郎である筆者は会社の上司から指示され、母の日のプレゼントを購入、感謝の気持ちを伝え、それを報告する義務があるにも関わらず、『ソーヤーミニ』という自分が欲しい商品をAmazonのほしいものリストからポチり、肝心の母の日の花束を購入せずにLINE通話だけで済まそうとしていたまさにゲスの極みと言える愚行が記されていた。
そして今、GLAYのTELのポーズで走りながら本日すべきことを整理してみた。
母の日のプレゼントを買う
そう、それ。完全に忘れていた。
上司が何も言ってこなかったのは、まだその日が来ていなかったからだ。そして完全に忘れていたということは当然LINE通話で母に電話もしていなかったであろうことが楽勝で予想される。もしこの状態で来週上司に会っていたかと思うと、会社でうんこを漏らしていたであろう。恐ろしい。
しかし、セーフである。ギリギリ私はセーフ。
なぜなら、今、プレゼントを買う為にメロスより走っているからである。
今日の私は違う。いつもと全然違う。
なんというか、疾走感?まずそれがすごいし、肌の感じとかも赤ちゃんと相違ない。
このまま、電車に乗って市街地へ行き、シャレオツな花屋で何?カーネーション?っつーの?それを購入して母を泣かす。これで決まり。
そして10分ほどGLAYのTELのポーズで走って改札口へ着いたのだった。
しかし私は皆さんに言わないとあかん事があるねん。
言い訳みたいになってしまうが、どうか聞いて欲しいことがあるねん。
少しだけお時間を頂戴して、どうか最後まで聞いて欲しいねん。
私が釣具屋にいる理由
まずな、改札口で切符買おうと思ったらな、お財布を家に忘れててんか。
ほんでな、取りに帰ったんやけどな、なんか僕さっきまで凄い勢いやったやんか、それがな、なんか興冷めみたいになってしもてん。ほんだらもう行きたくなくなってしもてな、しゃあないし、シャレオツじゃなくてもいいからどっか花屋いこおもてな、車乗ってん。ほんならな、思い出してん。
来週の日曜日、釣りに行くことを。
そうなったらやっぱライン、あ、糸なんやけどな。いるやん。新しいの。
あとルアーも何個か新しいのほしいやんか。
普通やん。全然おかしくないやん、そんなんみんな絶対買うやん、用意しとくやんか普通。みんな。
ほんで釣具屋行ってな、いろいろ選んでたらな、楽しくなってもうてな、違う釣具屋も行きたくなったねん。ちょっと遠いねんけどな、ええのんいっぱい売ってるとこあるねやんか。そこ行ってもうてん。これが盲点。
ゴミを漁るカラスより知能の低い私は、当然スケジュール管理など出来ずに、夕方ギリギリの時間まで、釣具屋で過ごしていた。そこに嫁からのメール。
「先に実家行ってるよー」
やばい、やばい、いばや通信。
カーネーションどころか、ファンデーションも買っていない。
どうしよう、とりあえず遅刻した時みたいにゼイゼイ言いながら、母の日を祝いたくてダッシュできた事にしようか。いかん、その技はもう使いすぎてチョンバレ。
とりあえず何か買わねばと思い、私は車を走らせた。
私がコンビニにいる理由
おそらく母の日フェア的なグッズがレジの正面辺りに陳列されているだろう。
そう考えた私はコンビニエンスなストアーへ急いだ。
ちょうど漏らしかけたうんこもしたかったからだ。
コンビニへ入ると店員さんへ一言声をかけ、トイレットへ向かった。
が、しかし鍵がかかっている。
この状況はかつて味わったことがある。男のプライドが火花を散らす局面。
私は拳を握りしめて、ドアを殴った。3回は殴った。
中からは小さなノック音、俺はそいつをロックオン。
あっけない、まさかこれで終わりじゃないだろうな。
すると中からレバーを捻り、流す音が聞こえてきた。
しかしなかなか出てきてくれない。
まさかこれは、私が考案したババノミクス第二の矢!?
私は激しく動揺した。
うんこの波は徐々に短く今にも爆発しそうになっている。
昨日飲んだ『ビオフェルミン』が影響しているのかもしれない。
なかなか出てこない相手に私は憤りを超え菩薩のような目になって、週刊少年ジャンプを読んでいた。もう私の負けでいい。早く出てきてください。
そこでギイっとドアが開いた。
エクレアだった。
ひゅおぉぉい!とはならない。私は品位溢れる紳士だから。
しかし今は便意溢れる心身。早急にトイレへ駆け込んだ。
鳴り響くティンパニー、迸るストリングス。狂想曲が始まり、やがて終わった。
なんとか替えの某ユニクロのシマシマパジャマを汚すことなく演奏を終えた私は、いつも通りアイスクリームコーナーへ向かった。
トイレを借りて、何も買わずに出て行くなんてそんな真似私にはできない。
だからいつも私はトイレをお借りしたら『チョコモナカジャンボ』を買って帰るのだ。
そしていつも通りチョコモナカジャンボと珈琲を購入、シュークリームの店員さんの「一緒にいれて宜しいでしょうか」の問いに「俺と、君をかい?」なんて言えるわけもなく、「んはsjchjっく」とだけ言って、袋を受けとった。
実家へ着いた私は、気がついてしまった。
ただ一つ、曇りなき事実に気がついてしまった。
母の日のん、なんも買ってへん。
玄関の前で、もう出ないはずのうんこを漏らし、シマシマパジャマをダメにした。
泣いた。泣きじゃくった。なんて駄目な子なんだ。太宰治の小説にもこんな糞野郎は一人も出てこなかった。
玄関のドアが静かに開き、母が出迎えてくれた。
私はうんこがシマシマをつたって落ちないように、GLAYのTELのポーズでアイスクリームを差し出して、こう言った。
「お母さん、産んでくれてありがとう。」