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共通投票所の設置見送り 県庁所在地など

 6月19日に施行される改正公職選挙法で、自治体が駅や大型商業施設に設置できるようになった「共通投票所」について、夏の参院選では東京23区と県庁所在地、政令指定都市の計74市区のうち、「検討中」とした那覇市以外、73市区全てで設置を見送る方針であることが分かった。二重投票を防ぐための通信回線整備などに膨大な費用がかかることや、政令市では行政区単位で設置しなければならず、使い勝手が悪いと懸念されている。【村山豪、近藤綾加、岡崎大輔】

 これまで投票所は期日前投票で2会場以上認められている以外、指定された一つの会場でしか投票できなかった。改正法は4月6日に成立。共通投票所を設置するかどうかや、何カ所にするかは自治体の裁量に任されているが、有権者が別の投票所で再投票することのないよう、全投票所を通信回線でつなぐなどの対策が求められる。

 調査は毎日新聞が4〜5月にかけ、計74市区の選挙管理委員会に実施した。高知市選管は共通投票所を1カ所でも設けると、通信回線の工事費やパソコンの購入費など諸経費で計1億円超が必要と試算。「回線断絶など不測の事態も予想され、導入のハードルは高い」と担当者は話す。他の多くの選管も設置費用やシステムの安定性への不安を指摘する。

 政令市の有権者は住んでいる行政区内にある共通投票所でしか投票できない。市内で最も人の集まるターミナル駅付近に設置したとしても、別の区に住む有権者は投票できず、大阪市は「メリットとコストが見合わない」と見送りを決めた。

 国は自治体が設置に向けてパソコンを調達したり、通信回線を整備したりする場合、費用の半分程度の補助を検討しているが、近畿地方の選管担当者は「半分を国に出してもらっても、自治体の負担は大きい」と懸念する。

 総務省選挙部管理課の高橋秀禎(ひでただ)課長は「改正法が成立したばかりで各自治体も方針を決めかねていると思う。今後、国の補助金について説明し、導入事例を自治体と積極的に共有していきたい」と話している。

費用負担膨大、利便性に疑問

 買い物などを家族で楽しんだついでに、ショッピングモールやターミナル駅で投票できる−−。新しい「共通投票所」のイメージだが、多額な費用負担のほか、政令市では有権者は住んでいる行政区内でしか投票できない。導入の狙いは有権者の利便性向上と投票率アップだが、多くの自治体から効果を疑問視する声が上がる。

 中心市街地から外れると、閑散とした住宅街に田畑も広がる秋田市。「国の補助で仮に自己負担が10分の1になっても、共通投票所の設置は難しい」と選管職員はこぼす。

 共通投票所を設置する場合、二重投票を防ぐ対策として、共通投票所と自治体内の全投票所をインターネット回線でつなぎ、選管と投票所ごとにパソコンを使って有権者の情報を管理する。有権者が選管指定の投票所か共通投票所で受け付けを済ませると、その情報を瞬時に共有し、別の投票所での受け付けをできないようにしなければならない。

 秋田市の指定投票所は現在119カ所に上るが、インターネット回線がつながっていない地域も少なくない。全てをネットで結ぶには、最大で3億円かかる見込みだ。

 負担は費用面だけでない。静岡市は南アルプスへ続く標高500〜600メートルの山間部にも投票所がある。「そもそもそんなへき地にオンラインが通せるのか」。選管担当者は疑念を拭えない。自治体によっては民間施設が指定投票所になっている所もあるが、その場合、施設側にネット利用の承諾手続きが必要となる。外部からの侵入(ハッキング)防止やネット環境のダウン対策なども課題だ。

 また、住民の多くが訪れる商業地が隣接する別の自治体にある政令市や地方都市にとっては、設置するメリットが乏しい。

 人口約270万人で政令市で最多の24行政区がある大阪市では、繁華街の梅田を抱える北区の選管がJR大阪駅周辺に共通投票所を設置しても、隣接する福島区や中央区の有権者は投票できない。

 関谷昇・千葉大教授(政治学)は「選挙事務の便宜上、政令市で行政区単位の投票としていることは理解できるが、それは管理者側の視点だ。投票率を向上させる目的であれば、有権者側の視点でより投票しやすい制度となるよう、さらに模索する必要がある」と指摘する。

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