文/岩下明裕(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター・九州大学アジア太平洋未来センター教授)
根室に光を
前回、「北方領土問題は当面、解決しない」と述べた。だが年月の経過は、地域とそこに暮らす人々を疲弊させている。政府は「国家の面子や主権が大事」と長期戦の構えだが、人間には寿命がある。おそらく元島民一世(すでに平均年齢80歳以上)が誰もいなくなる日がまもなく来る。だがその後も子供たちは地域に暮し続ける。どうしたらいいのだろう。
ここで重要な点は「国家の主権」という観点からでは、根室という地域の実情が見えないということだ。未解決の領土問題。それは国境線が引かれていないことを意味する。
だが、実際には線はある。日本人が、いや何よりも根室の人々がそこから先に入れない空間、つまり、海と島をその線が阻んでいる。
いわゆる「日ロ中間ライン」「承認ライン(水産庁の省令と北海道の北海道海面漁業調整規則によって、そこから先では漁船が操業できないようにしている線)」がそれなのだが、地元の人々はこれを「見えない壁」という。
納沙布岬に立つがいい。ほんの数キロ先に貝殻島灯台や水晶島が見える。だが自由に入ることは出来ない。コンブ漁協定のみがわずかに限られた漁師たちのこの海への立ち入りを可能とする。
根室の苦しみは実は領土が還ってこないことではない。国境が決まらないことにある。国境が決まると言うことは日本とロシアが両国を分かつ場所を正式に認めることを意味する。現実には目の前にラインがあるのに、それを認められない。
政府は択捉島の先に国境があると言い続け、根室は公式には「国境のまち」と呼ぶことを禁じられている。せめて「国境のまち」とここを呼ぶことが出来れば、根室からビザをとって島に誰もが行け、ロシアとビジネスを行うチャンスもあり、まちも発展の機会を探せるだろう。
だが、根室の住民たちはそれを認められていない。他の「国境のまち」、例えば、サハリンと堂々とつきあうことができる稚内の姿はうらやましいに違いない。
ところで根室にはいわゆる観光資源がなかなかにある。
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