HOME > 経営をよくする > 中小企業大学校の上手な使い方 成長企業にみる人材育成
ワイ・インターナショナルは全国に29店舗を展開するスポーツサイクルの専門小売りチェーン。ここ8年で、店舗数、売上高、従業員数とも約3倍になるなど急成長を遂げている。同社でユニークなのは「商品は回転の悪さで勝負しろ」と言い切る逆説的な経営手法にある。つまりお客が訪れる店舗を、スポーツサイクル文化の発信基地と定義し「お客を引き込む舞台にするための空間作り」に最も心を砕く。店舗運営に関して、多くの意思決定権を個々の店長にゆだねるなど、画一性を求めないチェーン展開も珍しい。 伊藤孝彦社長は吉田靖夫前社長(現会長)の女婿にあたる。そうした関係もあり8年前に後継者含みで入社、2011年10月に社長に就任した。
カリキュラムが受講の決め手
ワイ・インターナショナルに入社する前は某一部上場企業の営業マンで、常にトップクラスの営業成績を残してきた。営業マンとしてはプロフェッショナルだが、経営に関しては素人だ。将来の経営者候補として入社すると同時に、経営のイロハの習得を中小企業大学校に求めた。選んだ決め手はカリキュラムだ。「財務諸表分析などの経営基礎に加え、ビジネスゲーム、工場見学など充実した内容だった」(伊藤社長)からだ。
「大学校では、自社課題解決に向けた分析など多くの経営ノウハウが学べた」(同)と振り返る。ただ、吉田会長は自転車屋2代目として「スポーツサイクルチェーン」という未知の分野を切り拓いた開拓者。「会長の発言はプロセスを省くことが多く、当初は何を意味するのか理解できなかった」(同)と苦笑する。それでも、発言をこまめにメモをとり続けることで、吉田会長の経営方針を徐々に習得。会長の考えが理解できはじめると、大学校で学んだ理論と明確に結びついた。そして社員の行動規範としての小冊子を作るなど、社内のアイデンティティー確立に努めてきた。
現場と経営の目線で社員を把握
このように「社の憲法」とも言える行動指針の徹底に加え、同社は顧客と対面する現場を重視する。例えば社員採用の振り出しは全てアルバイト。3カ月間は店舗などでアルバイトとしてその適正を見て、社員に昇格させる仕組みだ。また、全社員に対する社長面接も欠かさない。現場と経営双方の目線で、個々の特性を把握する狙いがあるのだ。
その上でこだわるのは人材教育。指針となるのは、中小企業大学校の授業でも学んだ「従業員の働きぶりや成果は全体の6割が平均で、2割が平均より上、2割が平均未満になるという『6・2・2の法則』」だ。具体的には、社歴の浅い2割を主に下層と位置づけ、社内教育を徹底することで、早期に組織全体のボトムアップを図る。顧客満足度を上げるための取り組みである業務改善活動では、優秀な提案を社長表彰するとともに成果を全社で共有することで、若い社員の意識の底上げを図っている。
新たな価値観を提案し夢や生活を応援
もちろん、上位2割の層に対しては、中小企業大学校の管理者向けコースを受講させるなど経営管理能力強化に注力。上位層と下位層に能力アップを促すことで、中間層を活性化する仕組みだ。
同社のいうところの「商品は回転の悪さで勝負しろ」とは、裏を返せば「商品全てで、高付加価値な仕事を演じてもらう」という意味だ。単に商品を売るだけではなく、スポーツサイクルを通じてお客に新たな価値観を提案し、夢や生活を応援する。その舞台裏を支えるのは従業員の豊かな感性に他ならない。全社員の共通意識として常に「改善を心がける改善集団であること」を掲げ、お客と社内の声に対し真摯に対応するなど人材教育に対する妥協のない取組が、同社の成長の原点となっている。今後は行政とタイアップしてスポーツサイクルのイベントなどを数多く手がけていく方針だ。多くの人にスポーツ文化としての自転車の楽しさを理解してもらうことが、同社の発展に直接結びついている。
株式会社 ワイ・インターナショナル
代表者 | 代表取締役社長 伊藤孝彦 |
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所在地 | 埼玉県志木市本町5-22-26 |
電話 | 048-471-1513 |
設立 | 1898年 |
資本金 | 1,050万円 |
社員数 | 350人(パート含む) |
主要事業 | スポーツサイクル販売・サービス |
掲載日:2012年5月31日