ヘリコプターマネーはドラギ総裁の見果てぬ夢か-ねずみ講との指摘も
- ヘリコプターマネーをECBが実行に移すハードルはかなり高い
- ユーロ圏では経済的に必須で技術的に可能でも難しいとターナー氏
「ヘリコプターマネー」を空から降らせたいと欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁がもし考えていたとしても、簡単には実現できない可能性が高い。
欧州連合(EU)基本条約に抵触すると多くの人が考える金融刺激策の形態を議論すれば、法的な制約が最も少ない選択肢でもユーロ崩壊につながる政治的争いの口火を切ることになりかねない。こうした見方は、ユーロ圏の末期的な衰退を防ぐにはそんな劇薬が必要だと主張するエコノミストにも及んでいる。
ノーベル経済学受賞者のミルトン・フリードマン氏が提唱したヘリコプターマネーは、金融・財政政策の協調から中央銀行が切った小切手を国民に渡す手法に至るまで、さまざまな具体的なアイデアに姿を変えてきた。中銀による政府への貸し越しや国債の直接引き受けが禁止されているユーロ圏においては、後者の選択肢が最も注目を集めている。
英金融サービス機構(FSA、英金融行動監視機構 =FCA=の前身)の元長官で、現在は新経済思考研究所の上級研究員を務めるアデア・ターナー氏は、EU基本条約であるリスボン条約123条について、厳密にいえば「現金を直接配る余地を完全に閉ざしているわけではない」との見方を示す。同氏はその一方で、「欧州では貨幣を増発して消費に回すと話し始めた瞬間、『その金を誰がもらうのか』と質問されるだろう。加盟国間の信頼が十分でないという現実のために、経済的に必要とされ技術的に可能なことに同意するだけでも、ことさら大げさな問題のように誇張される」と指摘した。
印刷機を回すのは今か
ECBは21日に定例政策委員会を開く。債券購入とマイナス金利という現在の政策の組み合わせがユーロ圏経済をデフレから救えない場合、次に考えられる手段をめぐる議論がヘリコプターマネーに踏み込むこともあり得えよう。ECBは過去3年余りにわたりインフレ目標を達成できず、達成時期の見通しも再三先送りしている。
21日の政策決定発表後に行われるドラギ総裁の会見でも、このテーマが取り上げられそうだ。3月にヘリコプターマネーについて尋ねられた総裁は「興味深い考えだ」と述べ、その波紋が一部に広がると、ドイツ連邦銀行のバイトマン総裁が「ばかばかしい」アイデアだと一蹴するなど、ECB当局者は火消しに回った。
イングランド銀行(英中央銀行)のカーニー総裁は19日に英議会で、ヘリコプターマネーが「増殖するねずみ講」につながりかねないと発言し、マービン・キング前総裁も20日のブルームバーグとのテレビインタビューで、中央銀行が「十分な時間を稼いできたが、これ以上できることはほとんどない」と語った。
ターナー氏はこれに対し、通貨同盟を一つにまとめるコンセンサス(総意)が崩れる前に深刻な社会・経済問題への積極的な対応をユーロ圏は求められており、そのような状況では、貨幣増発のために印刷機を回すことも良い考えのように思われると主張した。
原題:Dreams of Draghi Cash Drop Fade in Europe’s Political Abyss (1)(抜粋)