日本の資金63兆円 ケイマン諸島に
通称「パナマ文書」で注目されている租税回避地(タックスヘイブン)、英領ケイマン諸島に対する日本の金融機関の投資や融資の残高が、2015年12月末時点で5220億ドル(約63兆円)に上ることが国際決済銀行(BIS)の公表資料で分かった。「節税」目当てに租税回避地を拠点とした金融取引が拡大しているようだ。
BISの国際資金取引統計によると、日本に所在する銀行(海外銀行の日本支店を含む)が、海外との金融取引に対する税負担を軽減している国や地域(オフショア市場)に向けて投融資している資金の残高は、15年12月末時点で8537億ドル(約102兆円)。00年末から2・8倍に拡大した。
海外全体に対する投融資残高は3兆1689億ドル(約380兆円)で、米国向けが全体の34%と最多。ケイマン諸島や香港、シンガポールなど12カ国・地域が含まれるオフショア市場向けは27%と、欧州向けの残高に匹敵する。
オフショア市場向けの中では、ケイマン諸島の割合が61%と突出。ケイマン諸島に設立された資産運用会社や、企業から売掛債権を買い取る特別目的会社(SPC)などに資金が流れ込んでいるとみられる。財務省と日銀が集計する国際収支統計でも、銀行以外の企業などを含む証券投資残高は14年末時点に63兆円に達した。
あるメガバンクは「ケイマン諸島は企業の設立が容易で、海外との金融取引に伴う収益に課税されないため、運用収益が向上し、投資家により多くの配当や分配金を還元できる」と節税のメリットを説明する。
「パナマ文書」を契機に政治家や企業の租税回避が問題になっているが、大和総研の神尾篤史研究員は租税回避地での金融取引の増加について「あくまで合理的な企業行動であり、法律上の問題があるわけではない。ただし、今後の国際世論や規制の動向次第で租税回避地での金融取引が一定の制約を受ける可能性もある」と語る。【中井正裕】