結核 把握は去年8月 署員診断まで対応取らず

結核 把握は去年8月 署員診断まで対応取らず
署員19人が結核に集団感染した警視庁の渋谷警察署が、以前留置していた男性が結核で死亡したという解剖結果を去年8月に把握していたのに、ことしになって署員が結核と診断されるまで、保健所への通報などの対応を取っていなかったことが分かりました。一方、解剖した大学病院も、法律で義務づけられた保健所への届け出をしていなかったということです。
渋谷警察署では去年からことしにかけて、警察官と職員合わせて19人が結核に集団感染しました。去年2月、警察署で留置していた60代の男性が死亡し、都内の大学病院で解剖した結果、死因は「肺結核」だったことが分かり、病院は報告書をまとめ、去年8月に警察署に届けられました。
法律では、警察署は遺体の解剖の結果、死因が結核などの感染症と分かった場合、保健所に通報するよう定められていますが、渋谷警察署は、入院していた署員が結核と診断されことし1月に医師から連絡を受けるまで、通報などの対応を取っていなかったということです。
警察署では、報告書が届く直前にすべての署員に対する健康診断を行い、結核が疑われる症状がみられなかったことから感染しているとは考えなかったということです。
渋谷警察署の小林仁副署長は「健康診断の結果で署員の感染を疑っておらず、結核に対する認識が不足していた」としています。
一方、感染症法では病院も結核と診断した場合、直ちに保健所に届けなければならないと義務づけられていますが、保健所によりますと、解剖を担当した大学病院から男性の死因が「肺結核」だとする届け出はありませんでした。このため保健所は、直ちに届けるよう大学病院に文書で指導したということです。

感染のいきさつは

渋谷警察署によりますと、去年2月、署内の留置場で60代の男性が倒れているのが見つかり、病院に運ばれましたが死亡しました。
男性は死亡する1週間前に、留置されている人を対象にした健康診断で医師の診察を受けていて、その際には自覚症状や異常は見られませんでしたが、死亡の3日ほど前から体調を崩していたということです。遺体は都内の大学病院で解剖され、死因は当初「肺炎の疑い」とされていましたが、詳しい検査の結果、「肺結核」だったことが分かったということです。
大学病院は去年6月30日付けで死因が「肺結核」だとする報告書を作成し、渋谷警察署には男性が死亡してから半年後の去年8月下旬に報告書が届いたということです。
そして、4か月後の去年12月、死亡した男性の留置を担当していた署員が体調を崩して入院し、検査の結果、ことし1月に結核と診断されました。診察した医師から警察署と保健所に連絡があり、保健所が検査を行ったところ、11日までに20代から60代の警察官や職員合わせて19人が感染していたことが分かったということです。
このうち16人は男性の解剖に立ち会ったり、留置場を清掃したりしていたため、男性から直接、感染したことが疑われていますが、ほかの3人は男性との接触はなく、2次感染が疑われるということです。
渋谷警察署では保健所と協議しておよそ80人の署員を対象に検査を進めていて、すでに60人は感染していないことが確認されているということです。また、今のところ、一般の人やほかの留置されている人の感染も確認されていません。

専門家「早期発見が重要」

渋谷警察署で結核の集団感染が起きたことについて、長年結核を研究している専門家は「換気が十分でない狭い空間では集団感染が起こりやすい」と指摘したうえで、せきが2週間以上続くなどの症状が出た場合には早めに医療機関を受診し、早期発見につなげることが最も重要だとしています。
結核は患者のせきやくしゃみから出た結核菌を吸い込むことによってうつる感染症で、発症すると2週間以上せきが続いたり、発熱したりして、重症の場合は死亡することもあります。
厚生労働省の調査では、今でも毎年1万9000人以上の人が新たに結核になり、2000人以上が亡くなっています。
渋谷警察署で結核の集団感染が起きたことについて、結核予防会結核研究所の加藤誠也副所長は「換気が十分でない狭い空間では、多くの人が菌に接触する危険性が高いため集団感染が起こりやすい」と指摘しています。
また、結核にかかる患者の多くは高齢者だということですが、最近では20代から40代の若い世代の発病も目立つということです。
加藤副所長は、結核の感染を防ぐためには早期の発見が最も重要だとして、「せきが2週間以上続いた場合は結核を疑い、医療機関でレントゲンやたんの検査を受けることが必要だ」と話していました。