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浦沢直樹「ボブ・ディランは飽きる大切さを教えてくれる」

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浦沢直樹が見たディラン 「飽きる大切さ教えてくれる」

ボブ・ディランが2年ぶりの来日ツアー中だ。「20世紀少年」や「MONSTER」などの作品で知られる漫画家の浦沢直樹さんが、5日の公演(東京・渋谷のオーチャードホール)を見た。74歳となったロックの先駆者の「いま」は、どう映ったのか。

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ボブディランと浦沢直樹(朝日新聞デジタル)
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ボブ・ディランとの出会いは中学時代。吉田拓郎さんに憧れて、彼に近づくためにはディランを理解することだと、ラジオで流れる曲を片っ端から録(と)って、毎日聞いていました。まるで修行でしたね。何がいいのかわからなくて。でもある夜、「ライク・ア・ローリング・ストーン」を聴いていたら、稲妻が天から落ちてくるみたいに「わかったー!」って。そこからディラン一筋です。

今回の来日公演、特筆すべきは、ほぼ1曲おきに自作ではないスタンダード曲を入れていたこと。ディランの曲はディランらしく歌い、スタンダード曲は極上のポピュラー歌手みたいに歌う。本当に歌がうまい人だなあって改めて思った。

今までもいろいろな声や歌い方で聴き手を煙(けむ)にまいてきましたが、ここにきてそれが集大成されてきた感じがしますね。自由に歌い、そしてうまいという。

選曲は、ほぼ2000年代の、しかも最新作の2枚のアルバムから。1960~70年代にたくさんのヒット曲があるアーティストなのに、その頃の曲はわずか3曲。

普通、お客さんの望んでいる過去のヒット曲をやりますよね。知れ渡っていない新曲をやるのは、かなり危険な冒険のはず。それを彼はどこ吹く風と新曲攻撃をかける。そして観客はその素晴らしさに打たれ、グルーヴは会場全体を揺り動かす。「昔の人気曲に頼らなくても、十分いまのお客さんを高揚させられる」「いまやっている音楽が最高だ」っていう確信があるんでしょうね。

ディランは、「飽きる」ということがどのくらい重要か、教えてくれます。フォークからエレクトリックになったり、ダミ声からきれいでスムーズな声になったり。メロディーラインも夜ごと変わるし。いつもお客さんを置いてきぼりにして、自分はどんどん先に行っちゃう。一回やって成果が上がったら、もうやらないんです。そこに未練はなくて、「さあ、次へ行こう」って。

それは、芸術表現の根本ですよね。みんなが求めるものをやるようになったら、同じことの繰り返しになって新しいものは生まれなくなっちゃう。とにかくお客さんより先に、自分が飽きる。それで、みんなが見たことのないようなものをやって見せる。それをやり続けたおかげで、ディランは70代半ばなのに、どんな若いアーティストより新しいし、次に進む道を指し示すことができるんです。

(朝日新聞デジタル 2016年4月12日05時15分)

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(朝日新聞社提供) 

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