原爆慰霊碑に初の献花 核保有の米英仏外相
主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の最初の事前会合となる主要7カ国(G7)外相会合が10日、広島市で始まった。これに合わせ、ケリー米国務長官ら核保有国の米英仏を含む外相らは11日午前、平和記念公園を訪れ、原爆資料館を見学し、原爆慰霊碑に献花した。核保有5大国(米英仏露中)の現職外相の被爆地訪問は1945年の原爆投下後初めて。訪問を「核なき世界」への機運につなげることが課題となる。【田所柳子、石川裕士】
会合場所の同市内のホテルから平和記念公園に移動したケリー氏やハモンド英外相、エロー仏外相らは先に原爆資料館を視察。地元選出の岸田文雄外相や志賀賢治館長らの案内で、黒こげの弁当箱や被爆死した男児が遊んだ三輪車、黒い雨の跡が残る壁が並ぶ展示に見入った。ケリー氏は視察後、同席者に「この施設を一般の人も指導者も見るべきだ」と語った。
外相らはその後、約800人の地元小学生が見守る通路を原爆慰霊碑まで歩き、「安らかに眠って下さい 過ちは繰(くり)返しませぬから」と刻まれた石碑に向かい、そろって花輪を手向けた。予定にはなかったが、外相らはケリー氏の提案で約200メートル北の原爆ドームまで歩き、視察した。
平和記念公園がある場所は被爆前、広島を代表する繁華街だった。45年8月6日午前8時15分、庶民が暮らす街の真上に原爆は落とされた。爆心直下のこの一帯は戦後、公園とすることが決まり、設計した建築家の故丹下健三氏は原爆資料館、慰霊碑、原爆ドームを南北の一直線に配置した。ケリー氏らは核兵器廃絶を願うヒロシマの基軸を歩いたことになる。
これに先立ち、岸田氏は同市内のホテルでケリー氏と会談し、「ぜひ広島から世界に平和のメッセージを出したい」と強調。ケリー氏は「広島訪問は特別な意味を持つ」と述べたうえで、平和記念公園に足を踏み入れることについて「将来の重要性を強調し、日米の同盟、友情の絆を強化する機会になる」と語り、核軍縮の必要性に言及した。
平和記念公園にはこれまで、84年にカーター元米大統領、95年にワイツゼッカー元独大統領が訪問したが、原爆を投下した米国の現職閣僚としてはケリー氏が最高位となる。核保有5大国の元首の被爆地訪問は91年に長崎を訪れたソ連のゴルバチョフ大統領(当時)が唯一の例だ。
日本政府は、ケリー氏訪問を5月の伊勢志摩サミットに合わせたオバマ米大統領の訪問の布石としたい考え。外相会合は11日午後、核軍縮・不拡散に特化した「広島宣言」を採択する。
一方、要人の訪問を求めてきた被爆者団体などからは注文の声も出た。広島県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦理事長(71)はG7外相の資料館視察を評価した上で「世界が核兵器の非人道性に向き合うよう、議長国の日本は参加国をしっかりと指導してほしい」と述べた。原水禁運動の精神的支柱だった故森滝市郎氏の次女で、市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」共同代表の森滝春子さん(77)は「少しでも原爆の実相に触れた以上、人間的な視点でその痛みを受け止め、政治に反映させてほしい」と語った。
広島・平和記念公園を訪れたG7外相
(○は核保有国)
日本 岸田文雄外相
○米国 ケリー国務長官
○英国 ハモンド外相
○フランス エロー外相
ドイツ シュタインマイヤー外相
イタリア ジェンティローニ外相
カナダ ディオン外相
欧州連合(EU)
モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表(外相)