「ついちゃったね」
「そうだね」
「宿題出た?」
「結構出た」
「ふうん」
「なんかさ、俺たちいつもこうやってここで長いことしゃべってるよね」
「だね」
「公園のベンチで話せよって姉貴に言われたよ」
「それ、なんか違くない?」
「俺もそう思う」
「だよね」
「じゃあ、バイバイって別れられればいいんだけど」
「できないの?」
「うーん」
「どうして?」
「うーん」
「ねえねえ、どうして?」
「しつこいよ」
「今日さ、部活で転んでたじゃん」
「見てたのかよ」
「見てたよ、すっごい笑った」
「笑うなよ」
「運動神経悪すぎない?」
「悪くねえよ、レギュラーだぞ」
「どうだか。補欠なんて山本君だけじゃん」
「レギュラーはレギュラーだろ」
「そうだけど、運動神経良いってわけではないよね」
「んなことねえよ、このガードレールだって手を使わずに飛び越えられるから」
「むりむり」
「ちょっと荷物持ってろ」
「ちょっとやめてよ、怪我したってしらないよ」
「しねーよ」
「大会近いんでしょ。自己責任だからね。怪我したってしらない」
「つめてー」
「そりゃ冷たくもなるよ」
「なんで?」
「べつに」
「ねえ、なんで」
「べつに」
「っていうかなんか怒ってる?」
「怒ってないよ、べつに」
「べつにって言うときいつも怒ってるじゃん」
「そうだけど」
「怒ってるじゃん」
「もういいじゃん」
「なんだよ、言ってみろよ」
「いいよ」
「よくねーよ」
「いいってば」
「なんだよ、いえよ」
「わかった、いうよ」
「なんだよ」
「今日お昼休み、ユカと話してたじゃん」
「ん?ああ、委員会の話だって」
「嘘、だってすごい楽しそうだった」
「クラスが同じなんだからそりゃ喋ったりもするよ、委員会も同じだし」
「どうだか、ユカっておっぱい大きいし」
「たしかに、お前にはない大きさで、もうすごいよな」
「・・・・・」
「怒った?」
「べつに」
「怒ってるじゃん」
「べつに」
「あ、暗くなってきた」
「なってきたね」
「やっぱ俺、ガードレール飛び越えるわ」
「ちょっと、やめてよ」
「いいや飛び越える、飛び越えられたら俺のお願い一つ聞いてよ」
「いいけど」
「よしっ、いくぞ」
「あっ」
「な、楽勝だろ?」
「すごい飛ぶんだね」
「じゃあ俺のお願い聞いてくれよ」
「な、なによ」
「うん、前から言おうと思ってたんだけど」
「う、うん」
「ユカちゃんのおっぱい揉めるようにお前からも頼んでくれねえ?」
「バカ、死ね!」
「アハハハハ、冗談、冗談、いてててててて」
「・・・・・」
「怒ってる?」
「別に!」
「怒ってるね、じゃあ本当のお願い。明日もさ、こうやって一緒に帰ってここで話しようぜ」
「まあ、いいけど」
「おっけー決まり!じゃあ晩飯遅れると怒られるから俺帰るわ、じゃあな」
「バイバイ」
スポーツバックを肩にかけ建売の似たような住宅が立ち並ぶ路地へと入っていく学生服の男の子。その背中に向かってセーラー服の女の子は口の形だけでこ伝えていた。
「(すき)」
男の子が振り返る。慌てて女の子は手を振る。
「なんか言った?」
「べつに」
「怒ってんじゃん」
「べつに」
「怒ってるね」
「早く帰りなさいよ」
「わかった、じゃあな!あ、そうそう、俺もお前のこと好きだよ」
「え?」
「うん、それだけ」
「なんで急にそんなこと言うの?」
「べつに」
「バカ」
いつの間にかすっかり日は落ちて暗くなっていた。
ん、俺か?俺が登場してないな。俺はその光景を近くの公園のベンチに座って、セブンプレミアムのお惣菜、サバの塩焼を食おうとしたんだけど箸をつけてもらえなくて、ワイルドにかぶりつきながら見ていた。
ん?箸を付けない店員に怒っているかって?
「べつに」