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20代の女性車掌はなぜ緊急ブレーキをかけられなかったのか…あわや大惨事、見過ごされた4つのチェックポイント
ベビーカー引きずり事故更新東京メトロ半蔵門線九段下駅で4日、電車がドアにベビーカーを挟んだまま走行した事故があった。子供は乗っていなかったが、ベビーカーは約100メートルにわたってホームを引きずられ、駅の端の柵にぶつかり大破した。幸いけが人はなかったが、東京メトロは20代の女性車掌から当時の事情を聴き原因究明作業を続けている。あわや大惨事という事故。なぜ電車は止められなかったのか-。
わずか80メートル先のベビーカーを見えず
東京メトロなどによると、電車は事故を防ぐために4つあるチェックポイントで停止せず、事故を起こしていた。
事故が起きたのは4日午後3時ごろ。10両編成の前から6両目に乗ろうとした男性が、2台のベビーカーを1台ずつ乗せようとしていた。家族とみられる女性と幼児2人は先に乗り込み、男性は1台目を乗せた。この後、2台目を乗せようとして左前輪部の細いパイプがドアに挟まれた。
最初のチェックポイントは、ドアが開いていることを示す車両側面のランプ。何かがドアに挟まり15ミリ以上開いていた場合は点灯し続け、車掌は発車の合図を出せない。電車自体も出発できない仕組みになっているが、今回は異常が検知されなかった。検知装置は正常に作動していたが、挟まったパイプの直径が15ミリ未満だった可能性があるという。
次のポイントとなる窓から身を乗り出しての目視確認でも、ホームは比較的見通しの良かったにもかかわらず、車掌はドアに挟まっていたベビーカーを見つけられなかった。車掌から見ると、4両先、わずか80メートル先を引きずられているベビーカーが見えないのはどういうわけなのか。東京メトロ広報も「通常なら気づくべきですが…」と首をひねる。
鳴り響く非常停止ボタンも無視
電車が約100メートル動いたところで、子供を連れた女性が車内の非常通報装置のボタンを押した。しかし、車掌は目視確認を優先させ、対応を先送りした。電車がさらに約50メートル進んだ時点でホームの50代女性が、駅の非常停止ボタンを押した。警報音が鳴り響いたが、車掌はここでも非常ブレーキを使わなかった。
東京メトロによると、いずれの場合も「社内ルールではこのとき、非常ブレーキを使うことになっていた」という。車掌は警報音に気がついていたが、ヒアリングに対し「ためらってしまった」と答えているという。
結局、車掌が車内の乗客と話せる非常通報装置で乗客に呼びかけたのは、電車がトンネルに入ってからだったが、乗客から応答はなく、次の神保町駅で6両目まで足を運び、女性に確認したところ「(体は)大丈夫です」と言われ、運行を継続していた。
東京メトロは駅員からの通報を受けて、錦糸町駅で他の車掌と交代させたが、女性車掌はベビーカーが大破したことを知らなかったという。
一人で乗務し始めて19日目の新人
問題となった車掌は、昨年4月に入社、一人で乗務するようになってから19日しかたっていなかった。東京メトロでは、新人車掌の教育で社内ルールを学ぶ座学のほか、シミュレーターを使ってさまざまな状況に対応する訓練を行う。女性車掌も非常通報装置や非常停止ボタンが使われたときの訓練を受けていたが、「本物の列車を止める重みに戸惑ってしまったようだ」(東京メトロ広報)。
「異常を知らせる警報がなって、非常ブレーキをかけないなんて信じられない」と話すのは、京浜急行広報。新人車掌のための訓練では、シミュレーターだけでなく、車庫内で実際の電車を使って非常ブレーキの練習も行うという。
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