編集委員・大久保真紀
2016年3月29日10時30分
■第6章:7
2009年9月4日。青森地裁で裁判員を務める澁谷友光さん(52)は評議室を出るときから目に涙をためていた。午後3時半から始まる判決公判を前に、高ぶる感情を抑えきれなかったのだ。
「法廷で泣いていたらまずいんじゃないか」
そう思うと、さらに泣けてきた。
この日は朝から、女性1人、男性2人の計3人の裁判官と澁谷さんら裁判員たちが評議に入っていた。裁判員は互いを番号で呼び合った。澁谷さんは「6番さん」だった。
強盗強姦(ごうかん)罪などに問われた被告(裁判当時22)に対する検察の求刑は懲役15年。一方、弁護側は被告の不遇な生い立ちや反省している点などを強調して「懲役5年が妥当」と主張していた。
裁判員からこれまでの量刑を知りたい、との要望が上がった。強姦事件や強盗強姦事件などに対する過去の量刑が示された。「ずいぶん軽いな」。澁谷さんは率直に思った。
裁判長からそれぞれが考える量刑を紙に書くよう促され、それをもとに6人の裁判員が意見を言った。
裁判員は男性5人、女性1人の構成。当初は大多数が男性で、被害者の女性の気持ちがわかるだろうかと不安だった。だが、証拠調べや意見陳述が進み、一生懸命考える中で、そうした不安は消えていった。自分には妻も娘もいる。ほかの裁判員も自分の家族のこととして考えていたようだ。「痛みはひとごとではなかった」
法廷での被告は堂々としているように見えた。被害者が別室で意見を陳述したときは目をつぶっていた。本当に反省しているのだろうか。その思いはずっと消えなかった。同時に、更生してもらいたいという思いも強かった。
量刑は、多数決で求刑通りの15年と決まった。「求刑の7~8割」が中心だった過去の裁判例に比べると重めの内容になった。
いよいよ評議室を出るというとき、澁谷さんは裁判長に、最後の法廷で被告に話すことができるかどうかを尋ねた。「私だけです」という裁判長の答えを聞いて、こんな言葉が口を出た。
「私たちが決めた判決はあなたをあきらめた15年ではない。15年の間に罪と向き合い反省し、更生するための、信じる15年です、ということを言ってもらえないでしょうか」
裁判長は「もう一度」と言って、メモを取った。
午後3時35分、判決が言い渡された。
「主文。被告を懲役15年に処する」
法壇を見据えたままの被告に対して、裁判長が判決理由を読み上げた。「被告の生い立ちに恵まれない点があったことなどを十分に考慮しても主文通りの刑を科して、反省を深めて更生させる必要がある」
その間、約10分。
澁谷さんは泣きっぱなしだった。青いハンカチを何度も目元に運んだ。
被告のやった行為は許せない。刑にもしっかり服してほしい。でも、更生もしてもらいたい。本当に反省してほしい。今後の被告はどうなるのだろうか。それらの思いがこみ上げて涙があふれ続けた。
裁判長が最後に、被告に語りかけた。
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