セルジオ越後。
日本サッカー界がまだ今のような隆盛を迎えていなかった時代から、サッカーの普及に尽力してきた。
1972年に来日し、藤和不動産(現湘南ベルマーレ)で2年間活躍。「元プロ選手」が日本サッカーリーグでプレーするのは初めてだったため、セルジオ越後は当時話題になった。
引退後は永大産業サッカー部のコーチを経て、日本サッカー協会のサッカー教室を開き、全国でのべ50万人以上の少年少女を指導し、後の多くの日本代表となる選手たちに影響を与えた。
ロナウジーニョが使うことで有名になった「エラシコ」を開発したのもセルジオ越後である。当時のチームメイトだったリベリーノにエラシコを伝授し、リベリーノが更に洗練させていまのエラシコが完成した。
1993年にJリーグが開幕すると、テレビの解説者としての露出が多くなり、「辛口御意見番」としてのキャラを確立する。歯に衣着せぬ物言いは、当時は新鮮であり、サッカーに対して知識が深くなかった日本のサッカーファンを唸らせた。
1994年にパウロ・ロベルト・ファルカンが日本代表監督に就任すると、セルジオ越後はスタッフとして日本代表に参加したが、わずか8ヶ月でファルカンが解任されたため、その職を離れている。この事は、何故か本人はあまり積極的に語ろうとしない。
その後は、主にテレビ朝日の解説者として、松木安太郎とのコンビでサッカー中継に出演。そして、各メディアでは辛口コラムを書いて、日本サッカーに対して叱咤激励を続けている。
だが、知っていただろうか。
セルジオ越後のコラムが人工知能によって書かれていたということを。
よくよく考えればなにかおかしいことに気がつく。
例えば、以前は外国人選手がJリーグの得点ランキングの上位を占めていると「日本人のレベルが低い。Jリーグの存亡の危機だ」と言っていたのが、最近では「得点ランキングに外国人が全然いない。Jリーグのレベルが下がっている。Jリーグ存亡の危機だ」と、まるで逆のことを言ったりしている。
他にも、日本代表が大差で勝てば「相手が弱い。本気じゃなかった。コンディション問題。前半点が入らなかったのは相手が元気だったから。後半のゴールラッシュは相手がつかれたから」という。
逆に日本代表が僅差で勝つと「だらしない。あと3点は取れた。コンディションを言い訳にするな。気持ちが見えない」となる。
相手のレベルが高い低いにかぎらず、基本的にスタンスは同じだ。ブレていないように見えるが、事象に対しての逆張りコメントばかりなので、時系列順に並べると矛盾が生じる。このあたりは人工知能の限界である。
さらに問題なのは、相手に対してのリスペクトが見られないことだ。たとえば先日終了したロシアW杯アジア二次予選はいずれの相手も「弱い。買って当然」と言い放ち、2015年6月に行われたイラクとの親善試合に至っては「何のための試合なのか。イラクがあまりにもひどい。こんな相手とやるならJリーグ選抜か大学選抜とやったほうがマシ」という、信じがたいことも述べている。
普通の人間なら、イラクのような政情が安定しているわけではないチームなら、ろくに練習もできないのは想像できることと思う。先日のシリアも、登録可能な23人ではなく、ベンチ入りメンバーギリギリの17人で来日している。そういうチームを相手に「試合をやる意味が無い」といえる神経がわからない。これはもうリスペクトどうこう以前に、率直に言って侮辱しているとしか思えない。
だが、これらのコラムはセルジオ越後本人が書いているのではなく、プログラムされた人工知能が書いているのであれば、全て納得がいく。
人工知能はセルジオ越後のキャラを保つことを最優先事項としてプログラムされている。なので、前後の繋がりは関係なく、起きた事象に対して「セルジオならどう答えるのか」という事を考え、それっぽい文章を自動生成するようになっているのだ。
だから、大久保嘉人がJリーグでバンバン点を取っていた時も、「大久保を代表に呼んで、チームでやっているような1トップを任せるのが当然だ」と、おかしなことを言っていた。あの時期、川崎フロンターレは大久保の1トップではなく、小林悠との2トップを基本布陣としていた。人工知能はJリーグは見ていなかったのだ。これはセルジオには計算外だっただろう。
テレビでは辛口とはいえ、コラムからすると随分マイルドなのも、人工知能が発達しすぎて本物のセルジオを超えつつある証左である。このまま人工知能が進化していけば、AlphaGoのように、人間を超えた辛口御意見番が誕生しかねない。
セルジオ越後も他の人も、誰もわかっていないのかもしれないが、実は人類はいま存亡の危機を迎えているのだ。
人口知能に任せている場合じゃないぞセルジオ!