ゲスト夢眠ねむ!】星になったデヴィッド・ボウイと攻める50歳

前回に引き続き、引き続きゲストは『でんぱ組.inc』の夢眠ねむさん。今回は、今年1月に亡くなったロックスター、デヴィッド・ボウイについて。
芸人、DJとして活躍されているダイノジ・大谷ノブ彦さんと、音楽ジャーナリストの柴那典さんが今気になる音楽シーンについて熱く語り合う人気連載「心のベストテン」。

死をもって自らの人生をアートとして完成させる

柴那典(以下、柴) 前回はアイドルの未来についての話でしたけれど、今回はデヴィッド・ボウイについて話したい! というのも、この二つはつながる話なんです。

大谷ノブ彦(以下、大谷) あー、まさにそうですね。そして、今の時代のロックスターのあり方ともつながる。

夢眠ねむ(以下、ねむ) どういうことなんですか?

大谷 そもそもねむちゃんは、デヴィット・ボウイってわかります?

ねむ あの、一応すごい人ってのは知ってるんですけど、星がビビってなってる……みたいな(笑)。

 そうですよね。僕らよりもさらに上の世代のスターだし、若い世代の人がこれまでのキャリアをよく知らないのは当たり前。でも、全然それでよくて。というのも、亡くなる直前にリリースされた最新作の『★』がとにかく素晴らしいんです。

大谷 そう! それまでとまったく方向性が違って、バックメンバーはジャズ系のミュージシャンばかり。結果的に遺作になってしまったんですけれど、発売直後は「さすがボウイはこの歳になってもまた攻めたアルバムを作るなあ!」って評価だったんです。

 で、後になってわかったんですけれど、実はボウイは1年ちょっと前に癌を宣告されていたんですね。

ねむ ひゃ〜。

 つまり、自分に余命として残された時間が1年しかないという段階で、最後の作品として作ったのがこの『★』なんです。

大谷 でもさ、そうなったら普通、スーパーベストとか、集大成みたいなことをしようと思わない?

ねむ する! 「今までありがとう!」みたいなことやると思う。

大谷 ファンだって、今までにやってきた人気のパターンをやれば喜ぶだろうしさ。デヴィッド・ボウイはその段階で新しいことやるんだもん。ほんとにすごい。

 去年にケンドリック・ラマーという若いヒップホップのアーティストが、やっぱりジャズ系のミュージシャンを起用した『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』というアルバムを出して、世界的な評価を集めていたんです。デヴィッド・ボウイもそれに刺激を受けて「負けてられるか」って死ぬ間際にも挑戦して、こういう作品になったんですね。

ねむ そっか。ずっと第一線に立ってるっていうことは、ちゃんと発明をし続けているっていう意味なんですね。

 彼のすごいところはそこなんですよ。一度成功した自分のやり方をあっさり捨てて、どんどん新しいことを始めちゃう。ずっとそれを繰り返してきたんです。だから70年代とか80年代の時も新作が出るたびにファンは戸惑ってた。「この人、何がしたいんだ?」って。

大谷 急にダンス・ミュージックに目覚めたりね。しかもその新しいことをちゃんと成功させるのがすごい。単に好き勝手やるだけじゃ、普通は求められないし続かないはずなんですよ。でも、デヴィッド・ボウイはそれを高い次元でやりつづけた。

 で、おもしろいのは、デヴィット・ボウイは70年代に『ジギー・スターダスト』という代表作で、架空のロックスターのキャラクターを演じているんです。「スターマン」という曲では〈空でスターマンが待ってるんだ〉と歌ってる。で、最後に作った『★』は「ブラック・スター」と読む。

大谷 すごいですよね。まさに星になった。

 『★』の一曲目の「ラザラス」の歌い出しは「見上げてごらん 僕は天国にいるよ」ですからね。

 しかも『★』のアートワークのパーツって、フリー素材として配布されてるんですよ。つまりデヴィッド・ボウイの「スター」は概念になった。

ねむ あ! 前の種の話と同じだ! 二代目夢眠ねむが種になって、みんながそれを植えて木になるやつ!

大谷 そうだ! それと一緒だ。

 そうなんです。だから、彼はロックスターであり、言ってみれば、アイドルの未来を行く人だった。いろんな死に方があるけれど、死をもって自らの人生をアートとして完成させるって、なかなかできないですよ。格好よすぎる。

ねむ 私も自分のことを「夢眠ねむという作品」って言ってるけれど、死ぬときに完成するなんてこと全然想像できないです。

 デヴィッド・ボウイは「20世紀で最も影響力のあるアーティスト」と言われているんですね。そういう人がこんな風に人生を締めくくったのって、いろんな人にすごく勇気を与えてくれると思うんです。だって、普通に考えたら死ぬのって怖いじゃないですか。でも「デヴィッド・ボウイはこんな風にやり遂げたんだ」っていうのが憧れになるし、道標になる。

大谷 スターと自分が同じだって思えるってことだよね。

ねむ ほんとすごいです。

攻める日本の50代ミュージシャンたち

 で、思うんですけれど、今の日本の50代のミュージシャンって、すごく「攻めてる」人が多いと思うんです。そういうところにも、ひょっとしたらデヴィッド・ボウイが影響を与えているかもしれない。

大谷 絶対にあると思うな。前にも「嵐はフェイク、星野源はリアルな『日本らしさ』で天下をとった」の時に語ったけれど、布袋寅泰さんがまさにデヴィッド・ボウイに憧れて育った人だった。

 布袋さんは今54歳ですけれど、まさに50歳のときに日本での成功を捨ててゼロからロンドンに渡ったわけですからね。まちがいなく、攻めてる。他にも、50歳の男性ミュージシャンがとにかく熱い。

ねむ どんな人がいるんですか?

 たとえば、奥田民生さんとか、エレファントカシマシの宮本浩次さんとか。

大谷 そうそう、エレカシの新作アルバムも最高だった! あれこそ攻めまくってる。新しい音楽を取り入れまくってる。

 吉井和哉さんも66年生まれだから、今年で50歳ですね。

ねむ そうだ! 今年はイエロー・モンキーが再結成するんですよね。

大谷 そう! 彼こそまさにデヴィッド・ボウイに影響を受けた日本のロックスターですよ。静岡の肥満児だったころから憧れてきた。

ねむ え、太ってたんだ。

大谷 そう。そこからダイエットして美青年になったんです。でも、憧れのデヴィッド・ボウイにはなれない。日本人はどうあがいてもイギリス人になれない。外国人へのコンプレックスが半端ないんです。だからこそ「ザ・イエロー・モンキー」というバンド名なんですね。で、僕が大好きな曲に「悲しきASIAN BOY」という曲があるんです。

大谷 この曲で吉井和哉さんは〈血のにじむような遊びはこれから 少年はつぶやく〉と歌ってる。つまり、これからの道はとんでもなくツラいだろうけれど、でも俺はエイジアン・ボーイとしてロックの世界に喧嘩を売りにいくって覚悟を歌った曲なんです。

ねむ すごい!

大谷 で、97年にフジロック・フェスティバルが初開催される。そこでも彼らはこの曲をやったんです。さらに、彼らはそこでシングル曲じゃなく、あえてアルバムの中のロックっぽい曲を並べたセットリストでやった。そしたら、全然受けなかった。ブーイングの嵐で。

ねむ ですよね! フェスだったら代表曲やってほしいもん!

大谷 はははは! そうですよね。今だったら絶対そうする。でも、当時はフェスもなかったし、世界中からアーティストが集まるフェスだから洋楽に通じる曲で勝負しようと思った。

ねむ あえて格好いいことをやろうと思ったんだ。

大谷 そうなんです。でもそれが通じなかったことでバンドが受けたダメージが大きくて、吉井さん自身、解散の理由の一つになったって言ってるんですよ。そうして伝説の存在になったバンドが、いよいよ今年復活するんです。

 しかも復活の発表をしたのが1月8日ですからね。その数日後にデヴィッド・ボウイが亡くなってしまった。

ねむ あ、ひょっとしてこれ、バトンが渡された、ってこと……!?

 もちろん偶然かもしれないですけれど、きっと吉井さんは勝手に何かを感じ取ったんじゃないかと思うんです。「俺が何かを受け取ったんじゃないか」みたいな。

大谷 だから、今年のフジロックには絶対に出てほしいですね。どの曲をやるのか本当に楽しみ。

 ですね! そして、他にも攻めてる50歳前後の男性ミュージシャンはたくさんいる。

ねむ えー、誰ですか?

 じゃあ、その話は次回にしましょう。

夢眠ねむ(ゆめみ・ねむ)

『でんぱ組.inc』のメンバー。三重県出身。電波ソングや漫画が大好きで、50年代の作品に熱中するなど深い造詣を誇る。絵画の個展を開いたり、イラストを描いたりと芸術方面にもアンテナを張る。

構成:柴那典

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コメント

wms ラザラスはアルバム3曲目。ちょっとカコワルイ> 36分前 replyretweetfavorite

mac_mur この記事読んで、またイエローモンキーが聴きたくなったわ https://t.co/4TKXPG2Fbk 約1時間前 replyretweetfavorite

nijuusannmiri 「もちろん偶然かもしれないですけれど、きっと吉井さんは勝手に何かを感じ取ったんじゃないかと思うんです。「俺が何かを受け取ったんじゃないか」みたいな」 約5時間前 replyretweetfavorite

siica_you よしいちゃんに言及されてる 約9時間前 replyretweetfavorite