凡人には見えていない「マンガの未来」について著名人に語ってもらう特集企画「未来漫研」。第3弾となる今回は「ラブひな」「魔法先生ネギま!」などのヒット作を手がけ、現在も週刊少年マガジン(講談社)にて「UQ HOLDER!」を連載中の赤松健にインタビューを行った。
絶版となったマンガ作品などを電子書籍として配信する「Jコミ」を2010年11月に始動させた赤松は、その後サイトの名称を「絶版マンガ図書館」と変更して、2015年8月には動画サイトを運営する株式会社GYAOと提携。株式会社Jコミックテラスを設立し、それまでのサービス内容を刷新した「マンガ図書館Z」をオープンさせた。インタビュー前編では赤松に「マンガ図書館Z」の活動内容や、運営の目的について聞いた。
取材・文 / 熊瀬哲子
絶版書など出版社が取り扱わないマンガ作品を電子化し、広告付きで無料配信する電子書籍サイト。51カ国語への自動翻訳に対応したビューワーを搭載しているほか、電子透かし入りPDF版のダウンロード販売も行っている。月額300円のプレミアム会員サービスでは広告の非表示、R18作品の閲覧などが可能。さらに好きな作品のPDFを毎月1冊ダウンロードできる。
絵が古いから恥ずかしい気持ち、わかります
──赤松さんが行われている「マンガ図書館Z」での取り組みについて、改めて教えていただけますか。
ネット上には違法にアップロードされた、マンガの「海賊版」がたくさん存在しています。現在雑誌などで連載されている大きな作品は出版社と独占的な契約を結んでいるから、出版社が作者に代わって海賊版サイトを叩くことができるんですよ。でも絶版書の海賊版は、出版社が権利を持っていない関係上、特に抗議もなしでそのまま放置されてしまう。私たちはそういった弱い立場の絶版書に広告を付けて、作者の許諾を得た上で無料公開し、広告料は作家さんたちに100%収益としてお渡ししています。これによって、読者が海賊版サイトに行かなくなれば大成功なわけです。これまでもそういった実験を繰り返していたんですけど、昨年からGYAOと提携し、「マンガ図書館Z」にリニューアルしたことでいよいよ本格的に稼働することができました。
──読者からの反応はいかがですか?
やはり無料で公開するとたくさんの人が見に来てくれます。感想もたくさんいただいていますね。「懐かしい気持ちになりました」とか、評判はとてもいいです。
──作家の方々にとっても昔の作品を読んでもらうきっかけになりますね。
やっぱり作家として10年以上前の作品が話題になるとうれしいですよね。でも絵が古いから恥ずかしいという気持ちもある。私も「A・Iが止まらない!」という20年以上前に描いた作品があるんですけど、主宰者のくせにずっと公開していなかったんです(笑)。
──照れが出てきてしまって?
「デビュー作なんて、恥ずかしくて出せないよ」と(笑)。でも現実に「A・Iが止まらない!」の海賊版がネットに出回っていることはわかっていたから、主宰者としてこのままじゃダメだろうと、思い切って公開しました。ほかの先生方も言うんですよ、「昔の絵は恥ずかしい」って。でも読者からすると昔と今とでそんなに大した絵柄の違いがなかったり、ストーリーは昔のほうが面白かった、なんてこともありますから(笑)。恥ずかしがっている先生方には「わかります」「自分もそうだった、出すのに4年かかった」とお話ししますよ。
「Winnyで落としました! 面白かったです!」「えー!」
──作家の赤松さんに言われると説得力が違いますね。「マンガ図書館Z」の取り組み全体について、作家の方々からの反応はいかがですか?
もともと海賊版に対して危機感を抱いていた方がたくさんいらしたので、応援してくれる作家さんがものすごく多いです。絶版書が誰からも守られていないということは皆さん知っていたみたいで。「がんばってほしい」と応援を受けています。
──赤松さんがJコミを始められたのは2010年。その当時から海賊版の撃滅を目的として始動したのでしょうか。
当時は海賊版よりもファイル交換ソフトのWinnyを問題視していて。最近は廃れましたが、その頃は結構カジュアルに使われていたんですよ。そうすると読者の方からの感想で「『(魔法先生)ネギま!』読みました」「『ラブひな』読みました」と一緒に、「Winnyで落としました! 面白かったです!」とか書かれていて、「えー!」って(笑)。
──悪びれることもなく(笑)。
そう。それより前には「中古で買いました」なんて言われることもあった。中古だと、作家にはまったく収益がいかないことを知らないんだなあと思いましたね。でも無料で読めないと中古品や海賊版には勝てない。無料でありながら利益を得るためには広告収益だなと思って始めたんです。
ホントにただのキモオタなんです
──リニューアルされた「マンガ図書館Z」ではいくつかの新たなサービスが追加されています。絶版書のZIPデータを持っている人なら誰でもアップロードができる、「作品データアップロード機能」も話題になりました。
この機能ではアップロードされた作品が弊社のアルゴリズムにより絶版書と認められると、その作品の表紙画像だけが公開されます。作者本人が「公開OK」ボタンを押せば、広告付きで全ページが配信されるという仕組みです。作者の本人確認については、Twitterなどネット上にいらっしゃる先生方には私が直接お声がけして許諾を取っています。お声がけをした作家さんから「掲載OKです」というお返事をいただける割合は、実際9割を超えていますね。中には自分は海賊版が出てもいい、広告収益はあまり好きじゃないとおっしゃる方もいらっしゃいましたが、ほとんどの作家さんは、ネットに広がる海賊版に対する唯一の対抗策であると認識してくださっているようです。
──そういった「マンガ図書館Z」の運営を行いながら週刊連載もされていて。赤松さんのその活動の原動力といいますか、情熱みたいなものはどこからきているんでしょうか。
単なるコレクター魂ですけどね。私は古いパソコンとか中古レコードが超好きな、ただのオタクなんですよ。昔のマンガもその1つ。古くてちょっとエッチなマンガを読んでニヤニヤしてるだけの、ホントにただのキモオタなんです(笑)。
──ははは(笑)。「コレクションしたい!」という気持ちから始まった取り組みが今に至ると。
私は紙が好きなので最新作は紙の単行本で買いたくなるんですけど、昔のだともう売ってないし、中古で手に入れることができてもボロボロになってるじゃないですか。それだったら電子化していつでも無料で読めて、作者が儲かるシステムがあればいいな、という願望があって、その結実が「マンガ図書館Z」なんです。
──中でもお気に入りの作品は?
2014年に亡くなられた帯ひろ志先生の作品とか、コロコロコミック(小学館)やコミックボンボン(講談社)に載っていたような、ちょっとエッチなマンガとかよく読んでますよ。「ああ、懐かしいなあ。こことかエッチでドキドキしたよなあ」なんて思いながら。大人になった今読むと大したことないんだけど(笑)。中古書店にもなくて、海賊版として出回ってしまっていて……みたいなものは愛好して読んでます。そういった作品が読めるのは「マンガ図書館Z」ならではだと思いますね。
後編に続く(3月11日公開予定)
作品紹介
UQ HOLDER!
都に行って一旗揚げる! それが近衛刀太のでっかい夢。村長が課した旅立ちの条件は、育ての親であり、優れた魔法の使い手、雪姫を倒してみせること。雪姫に挑戦する日々を送っていた刀太だが、2人の前に現れた賞金稼ぎとの戦いによって、自分が“不死身”の存在であることを知る……! 「ラブひな」「魔法先生ネギま!」の赤松健最新作は、“不死者”たちが躍動する近未来バトルファンタジー!!
プロフィール
赤松健(アカマツケン)
1968年生まれ。1993年「ひと夏のKIDSゲーム」で第50回少年マガジン新人賞に入選し、同作がマガジンFRESH(講談社)に掲載されデビュー。1994年より週刊少年マガジン(講談社)にて「A・Iが止まらない!」の連載を開始させる。代表作に「ラブひな」「魔法先生ネギま!」など。現在は週刊少年マガジンにて「UQ HOLDER!」を連載している。