いま、「パソコン難民」が増えている。「パソコンと周辺機器の接続ができない」「急に電源が入らなくなった」……といった経験をした人は多いはずだ。だが、メーカーに依頼できるのは初期設定や物理的な修理までで、周囲に詳しい人がいなければお手上げだ。この状況を打破しようと動いた起業家が、2003年に起業した「日本PCサービス」の家喜信行社長(39歳)。彼の言葉の裏には、日本の大問題が潜んでいた。
取材/構成=夏目幸明
夏目 パソコンのことで、何にお困りになる方が多いのですか?
家喜 大きくは3つあります。第1位はつねに「パソコンが起動しない」です。第2位は「インターネットにつながらない」。第3位が「データを復旧したい」。時期によってもトラブルの内容は変わります。年末になると「年賀状をつくるため1年ぶりにパソコンを立ち上げたが、パソコンが動かない」「プリンターと接続できない」という事例が多発します。「Windows10にアップデートしましょう」というOSのバージョンアップへの対応についても、何らかのトラブルで正しくインストールできず、元に戻すこともできない、というご相談が数多くみられました。
夏目 パソコンのトラブルに見舞われる人の数は増えているんですか?
家喜 激増しています。当社はいま、全国のお宅に年間13万件ご訪問していますが、件数は年々増加しています。デジカメやスマートフォンなど新しい機器が登場し、便利になったのはよいのですが、その分、使い方がわからない人が増えています。便利にはなったものの、使い方を習熟できない人は置いて行かれてしまうか、むしろ困ってしまう……そんな社会はよくありません。
夏目 家喜さん自身も、創業当時は、現場でパソコンのトラブル解決をしていたと聞いています。具体的には、どんなことがありましたか?
家喜 たとえばデジタルカメラが登場し、携帯電話にカメラが付きましたが、なかには記念の写真を電話やカメラに入れたまま、という方も多い。しかし、電子機器はいつか、買い換えることになります。そんなとき、年齢や性別を問わず、昔のデータを新しい電子機器に移し替えることができない方が多いのです。また、デジカメや携帯が壊れてしまい、中に入ったお子さんの写真や、すでに亡くなった方の写真が取り出せない、というトラブルも多発しています。
ほかには、パソコンの起動に20分もかかるが、どうしたらよいかわからなかった、というお客さまもいました。さすがにおかしいと当社にご連絡をいただき、拝見したら、パソコンのなかから続々とコンピュータウイルスが出てきて、除去したら新品同様の速さに戻った、という例もありました。
夏目 パソコンやデジカメのメーカーがサポートしてくれてもよさそうですが?
家喜 パソコンや携帯電話が高値で売れた時代は、手厚いサポートができたのです。しかし現在は、海外製品に押され、低価格化しています。一方、コールセンターの方たちの雇用には莫大な費用がかかります。電話がつながりにくく、つながっても「初期化には対応します」といった画一的な対応になるのは、私も、仕方ない事情なのだと思います。
一方、電子機器は今後、もっと普段の生活に欠かせない道具になっていくと思われます。電気自動車やスマートハウスが登場し、今後はたとえば「冷蔵庫とスマートフォンが接続できて外出先から冷蔵庫の中が確認できるようになる」といったサービスが可能になるでしょう。ほかにも電気自動車とシャッターとスマートフォンを接続すれば、スマートフォンのボタン一つで車を起動し、シャッターを開けることも可能です。しかし私には、全員が問題なく利用できるとは思えません。便利になれば必ず「動かない」「何とかして!」という、お客さまのいらだちや叫び声が聞こえてくるのです。このままでは多くの人たちが置き去りになりかねない、という危惧をもっています。ITの進化に、サポートが追いついていない印象なのです。
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