初めての一人暮らしは東京都北区にある築50年近い「◯◯荘」という家賃3万円ぐらいのボロい木造アパートでした。物件は1、2階に3部屋の合計6室で、契約したのは2階の202号室。
古びたアパートなので隣の生活音が耳障りなほど聞こえ、携帯電話を床に置いてバイブが鳴れば、下からドンっ!と何かで突かれ[うるせえ]と注意されることもしばしば。
そんな騒音生活を半年送ったあと、小さな変化が訪れました。
それは、隣の203号室の人が引っ越し、新たに髭男爵の山田ルイ53世似の旦那さん、鶴田真由似の綺麗な奥さん、可愛らしい男の子の幸せそうな3人家族が引っ越してきたからです。
「今日から隣に住むことになった◯◯です。うちの子がうるさいかもしれませんが宜しくお願いします!」と、挨拶と一緒に仙台銘菓[萩の月]を頂きました。
猛獣の叫び声がする
隣に家族が越してきた日から、あれだけ嫌だった隣の音が心地よく聞こえてきました。
お子さんの楽しそうな声、奥さんの笑いながら注意する声、旦那さんの笑い声。
前よりもうるさいけど、音が変わるだけでこんなにも違うのか。。。家族っていいなという気持ちになったのを覚えてます。
しかし・・・
引っ越してきて一週間後の夜11時過ぎ、隣から猛獣のような鳴き声が聞こえてきたのです。
「はああゝあゝあゝ!」
「オっ、オっ、オっ、!」
THE・ITONAMI
奥さんは西城秀樹似、旦那さんはオットセイ似の声を出して営んでました。
最初の一週間は様子見でもしていたのか、初戦を終えた日以降、ほぼ毎晩のように合戦は行われました。晴れの日も雨の日も。
次第にこちらも慣れ、そのうち旦那さんの口から「ルネッサ~ンス」という言葉が出るんじゃないのかな?という期待さえしてました。
※結局ルネッサ~ンスは聞けず・・・
満月の夜
ある日いつものように【ITONAMI】というBGMを聞きながらテレビ見ていたら、ふと窓から綺麗な月が見えました。
「あー今日は満月かぁ」
窓を開けて夜空に浮かぶ月を見ていたら、隣の窓も開き、奥さんの顔が激しく出たり入ったり・・・そんなことまでしてるのかい・・・
「ヤバっ(・。・;」
と思った時には既に遅し。
奥さんは目が合うと軽く微笑みこちらをじっと見てきましたが、その表情は普段の優しいママの顔ではなく一人の西城秀樹。
あの笑みは「知ってたんでしょ?」という意味だろう。
急いで窓を閉めるとテーブルの上に置かれていた萩の月が目に入り、箱の裏を見ると、このように書かれてました。
萩の咲き乱れる宮城野の空にぽっかり浮かぶ名月をかたどった銘菓・萩の月。まろやかでやさしい風味のオリジナルカスタードクリームをたっぷり使いふんわりとして高級カステラで包みました。
※途中までしか覚えてなかったのでHP参照
深い意味はありません。
萩の月をアレンジ
数日後、家のチャイムが鳴り、出てみると隣の奥さん。
「いつもと同じだけどまたいっぱい買ったから食べてください笑」
萩の月でした。
「レンジでチンしても美味しいから試してみてね!」
あの日窓から顔を出したり引っ込めたりしていた人の言葉なので、妙に卑猥に感じてしまいましたが、温めるのもアリだなと考えて、その晩初めて萩の月をレンジでチンしてみました。
隣はホールにチン。こっちはレンジでチンとだいぶ温度差はあったが仕方がない。
で、温めた萩の月ですが、中のカスタードクリームがベチョーとなっていてホカホカで美味しかったです。
その次の晩もお隣さんはITONAMIを決行。
箱裏に書かれていたことを思い出す。
ー萩の咲き乱れる宮城野の空にぽっかり浮かぶ名月ー
私があの日見たのは満月と名突きで乱れる奥方。
あの時奥方が見せた微笑以上の微妙な笑みを私は知らない。
時の流れ
あれから10年以上過ぎ、お子さんは高校生ぐらいになっただろう。
お父さん同様にオットセイの鳴きマネをしているのだろうか?
あの夫婦は今でもITONAMIを決行しているのだろうか?
西城秀樹のモノマネは健在だろうか?
10年以上経過して分かったことが一つだけある。
それは萩の月の食べ方。
レンジでチンも悪くないが、冷蔵庫で冷やしても美味しいということ。
全国には様々な銘菓があるが、今でも萩の月は私にとって特別な銘菓。
ということで、、、
仙台へ行かれた際は是非とも萩の月を。
今宵も誰かが咲き乱れる夜に萩の月を。。。是非。