藤川真一(えふしん)
FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にGMOペパボへ。ショッピングモールサービスにプロデューサーとして携わるかたわら、2007年からモバイル端末向けのTwitterウェブサービス型クライアント『モバツイ』の開発・運営を個人で開始。2010年、想創社を設立し、2012年4月30日まで代表取締役社長を務める。その後、想創社(version2)を設立しiPhoneアプリ『ShopCard.me』を開発。2014年8月1日からBASE(ベイス)株式会社のCTOに就任
皆さんこんにちは!エンジニアtypeのリニューアルに伴い、今回の連載が最終回になります。
思えば最初の連載は2012年の4月から。まだモバツイを運営するマインドスコープ株式会社を経営していた頃なんですよね。
スマホ世代の人たちには、モバツイと書いてもピンと来ないかもしれませんが、Twitterを携帯電話で楽しむサービスでした。本家モバイル版の登場よりも2年ほど早く作って、100万人を超えるたくさんのユーザーさんに使っていただいたサービスです。
この連載の打診を受けた時は、いろいろな状況変化の中で、出直すためにマインドスコープを譲渡する交渉のまっただ中でした。いろんな会社に足を運び、モバツイを一番活かしてくれる会社さんを探して、同じくTwitterクライアントを作っていたjig.jpさんに譲渡しました。
譲渡が完了した後に書いた記事がこちらになります。
>> 起業することとは、社会的意義を作り、社会にクサビを打っていくこと
ギークではない、という葛藤
2016年1月時点で、モバツイはjig.jpさんが引き続き運営してくださっています
ただ、モバツイは僕がPaperboy&co(現・GMOペパボ)という会社に勤めていた時に作ったサービスで、決して起業しようなどと考えて作ったものではありませんでした。
会社員をしながらモバツイを作った理由は、当時のTwitterがバグだらけで、日本語の送信がままならず、「そんなことをユーザーに意識させるのは馬鹿馬鹿しい」と思ったから。
要は、身近な問題を解決するというアプローチで作ったヘルパーアプリがモバツイだったんです。
まだペパボに在籍していた時、岡田有花さんに取材いただいたのが以下の記事です。
>> 「休む時間もないけど楽しい」15万ユーザーが使う「movatwitter」を1人で支えるには(ITmediaニュース)
その後、起業することにしてマインドスコープを経営していく中で、良いことも難しいこともいろいろ経験しました。そして、マインドスコープを譲渡して改めて会社を設立し、自分でアプリを作ったり、ツイキャスにエンジニアとして参加したり、BASEにCTOとしてジョインしたり……と続くのですが、その間ずっと、一つの重大な問題に悩んでいました。それは、
「自分はギークではない」
ということ。僕は家で一つの技術を研究し、そのことをQiitaに書いたり、GitHubでライブラリやツールを公開するような行為があまり得意ではありません。それよりは、技術を手段としてとらえて、モバツイのようにプロダクトを作ることを考える方が好きだったのです。
KMDへの入学、そして連載最多PVの記事が生まれた理由
今は、BASEの取締役をやりながら、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)に通っています。もし僕がギーク寄りの人間だったら、コンピューターサイエンス系の大学院に通っていたかもしれません。ですが、あえて技術寄りの大学院には行きませんでした。
きっかけは、『TechLION』という技術者向けイベントで、現在の指導教官である砂原秀樹教授と一緒に登壇したことです。
イベントの中でKMDの説明をお聞きしていたら、自分が課題としていた技術とデザインの関係性、KMD風に言えばポリシーとマネジメントを融合させて何かを生み出す、イノベーティブな人材を育てるという教育方針が刺さりました。
砂原教授が登壇された際のTechLION vol.8の様子は、イベントスタッフブログに載っています
さっきも書いたように、昔から、技術は何かを実現する手段だととらえていて、プロダクトをいかに生み出すかという部分に興味がありました。最近、家族に言われて改めて気が付いたのですが、僕は画期的で新しいモノを生み出すことよりも、問題解決の視点で困っている人を助けることの方が好きなのだそうです。
だから、GitHubを通じて何か新しいモノを世に問うというより、もう少し上位レイヤーで、人間や社会が困っていることを解決するために技術を活用したいというプロダクト思考が強いのだと思います。
今風に言えば、技術を活用したUXを考えるのが好きだということです。
2013年にKMDの授業で浦沢直樹さんの話をお伺いした時は、それまで自分が抱えていた課題を言語化していただいたような感じがして、授業が終わった後にすぐさま以下の記事を書きました。
>> エンジニアが作るネットサービスのアイデアがしょぼいワケ
編集部に聞いたら、これが僕の連載で歴代1位のPVだそうです。確かにこの記事は非常に反響が大きかったと記憶しています。
自虐的な表現をしても仕方ないのであえて書きませんでしたが、当然、ここで言う「エンジニア」とは自分のことも含んでいるわけです。良いプロダクトを作るにはどうしたらいいのか、という葛藤の旅は今も続いています。
仮に、ギークではないということを自分の技術的な限界点としてとらえるならば、代替案としてプロダクトマネジメントのスキルを重視したくなります。事実、最近は技術書とマネジメントの本があったら、ついついマネジメントの本を優先して読んでしまいます。
これはけっこう大きな分岐点だと感じていて、いわゆる35歳定年説の議論につながる部分かもしれませんね。振り返ると、過去の連載でもこんなことを書いています。
>> 「プロダクトマネジャー」と「職人的開発者」という2つのキャリアパス
あがき続けていると何かが見える可能性が高い
相応に長くこの業界で生きていると、経営者でも技術者でも、「すごい!」と言われる人たちと仲良くなる機会が増えていきます。彼らと話すといろんな学びがある半面、「絶対にこの人たちの真似はできない」と思うこともどんどん増えていきます。
それが歳を取るということなのかもしれません。知見が広がることで、自分の限界範囲を決めてしまったり、過剰なコンプレックスからやるべきことを避けてしまったりしがちです。
失敗体験を学んでいくと、どうしてもそうなっていくのは、ある程度仕方のないことと言えます。己の限界を知り、この先の人生を考えるのが40代前半の特徴とも言われていますし。
そこで頑張って自分の色を付けていくことが、社会的評価や能力の向上と連動していればいいのですが、自分の色を付けていった結果「他人が使いにくい人間」になるのは良くないことだと思っています。
特にネット業界は、自分より若い世代が中心です。それゆえに、自分より若い人に評価されることが重要です。
From Jean-Pierre Dalbéra
ネットサービスの開発でスターになるのは、ほとんどの場合、「次の世代」を担う若者たちです
若い人は、自分が歳を取った時の姿を想像することができませんし、面倒くさい年上を扱うのも得意ではありません。テレビで、ダウンタウンがベテラン俳優と対等に付き合う映像が流れてきますが、あのような振る舞いができる若者はそんなに多くないです。
であれば、自分の方が付き合いやすい、話しやすい、使いやすい人間であり続けることが、生存戦略として重要ではないでしょうか。
彼らと同世代のエンジニアが持っていない色を付けていくことが必要になりますし、同時に、こだわりを増やし過ぎて偏狭な人間にならないことが大切なのかなとも思っています。
しかも僕は、人間関係を合コンのように紡いでいくリア充アプローチが得意ではないので、自分の武器となるプロダクトに語ってもらって存在を知ってもらう、もしくは、自分自身がプロダクトを語るアプローチで若い世代と話す機会を増やすというのが、まぁ常套手段かなと思うわけです。
そういう意味では、技術と付き合い続けて、アウトプットにつなげていく努力は引き続き不可欠なのですが。
ちなみに今回、BASEがメルカリ社に資本参加いただいたのをきっかけに、メルカリのプリンシパルエンジニアであるkazeburoさんに技術アドバイザーを務めていただくことになったんですね。一度もお会いしたことがなかったのですが、ネット上でkazeburoさんがしてきた発言やアウトプット、そしてネットから見える周りの評価が素晴らしすぎて、うちにもアドバイスをいただきたいなと思っていたんです。そこで、資本参加を機に僕のワガママをメルカリ社に打診してもらったら、快諾してくださったという流れです。
こういうつながりが生まれる点が、技術やアウトプットを通してコミュニケーションが成立しているというインターネットの面白いところだなと思います。
最後に
アウトプットという意味では、エンジニアtypeの連載も、僕のコミュニケーション上の武器として大変助けられました。連載を書く機会がなくなってしまうのはさみしい限りです。
ネット上での情報発信を続ける意欲はありますので、さまざまな手段で、皆さんとつながる機会を増やしていきたいと思っています。エンジニアtypeの連載がなくなる分、何かをアウトプットするエネルギーは13年続いている自分のブログに寄せていくことになります。
この連載は、エンジニアtypeの問題解決視点を持って書いていた部分もあるので、自分のブログを書く場合はまた違った問題意識を見つけていく必要があるなーと思っています。
はてなブックマークやSNSのシェアでF’s Garageをお見かけいただいた際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。これからもよろしくお願いします。