高収入TVマンが“社会的弱者”のヤクザに100日密着

01.16 12:00PRESIDENT Online

ナイロンバッグを指して「それマシンガンですか?」


「謝礼金は一切支払わない」
「モザイクはかけない」
「撮影素材を事前に見せない」

会長(組長)は、この3つの提示条件を受け入れた。もちろん、組の「言い分」には耳を傾けるが、その主張を作品内に残すかどうかはわからない。決定権は自分たちにある。会長は、それについても何の異存なく了解した――。

ドキュメント映画『ヤクザと憲法』がポレポレ東中野で公開されている。

『ヤクザと憲法』のワンシーンから(以下同)。取材する側とされる側の緊張感が伝わってくる。2016年1月2日よりポレポレ東中野にてロードショー中。ほか全国順次公開予定。(C)東海テレビ放送


約100日間。東海テレビ報道部の土方(ひじかた)宏史さん(監督)を中心とした取材クルーが大阪のある指定暴力団に密着した。ちょうど1年前のことだ。

昨年3月、東海地域の視聴者向けに放送されたこの作品が、今回、東京を皮切りに全国の映画館で順次公開される予定だという。

土方さんは今年40歳になるテレビマンだ。細身で肌が白いイケメン。歌舞伎の女形が似合うような優しい表情が印象的だ。上智大学の英文学科を卒業後、情報番組などの制作担当を経て報道部に配属された。

警察記者を2年務めたものの、犯罪事件を扱う記者に漂う疲労感や擦れた感じとは無縁な、軽やかな雰囲気の土方さんは、この作品でそのキャラクターをいかんなく発揮。組員たちの日々の活動、自宅内部、生い立ち、ヤクザの歴史などを丹念に追っていく。

眼光鋭い男だらけの濃密な組の人間関係は、いわば疑似家族といったところ。その中に明らかな〝異分子〟がのこのこ入っていくわけだから、当然ハプニングは起こる。

例えば、組事務所の片隅に横たわっていた怪しげな緑色の細長いナイロンバッグ。

「マシンガンですか?」と質問する土方さんに、元料理人の組員(推定50代)は慌てて言う。

「そんなわけないじゃないですか」

こうした潜入取材では、取材者はついあれこれ「素朴な質問」を浴びせたくなる。だが、今回は相手が相手だ。最初は丁寧な対応でも、何かが地雷となって凄まれるかわからない。だから、腰の引けたスタンスになるかと思いきや、さにあらず。

「拳銃はないんですか?」「覚せい剤ですか?」


土方さんは、“完全アウェー”のピーンと張りつめた空気の組事務所内で平然と質問を繰り出していく。

『ヤクザと憲法』(C)東海テレビ放送


「拳銃はないんですか?」
「置いとけないじゃないですか」
「置いとけないんですか?」
「日本の法律で決まっているじゃないですか。銃刀法」
「いざっていうときはどうするんですか? 他の組が攻めてきたり……」

自身は「本当はビビりなんですけど」と笑うが、相当な怖いもの知らずか、天然か。「何、撮っとんねん」とどやされたこともあったそうだが、100日間ひたすらカメラを回し続けた。

夜、組員の車に同乗し、ある家の玄関先でその家の主らしき人物に何かをやりとりする様子も車内から撮影。車に戻った組員に「何をしていたんですか?」「覚せい剤ですか?」と後部座席から遠慮会釈なく質問する。組員は運転席で一瞬ぎくっとした表情になり「想像にお任せします」と。土方さん、攻めに攻めるのである。

さらなる取材クルーの勇姿や、組員の逮捕、組事務所内の家宅捜索といった緊迫した瞬間の連続は映画を見ていただくこととして、読者の一番の疑問は、なぜ、本物のヤクザが「顔出し」での長期取材・撮影をOKしたか、ということではないか。

ある組員がカメラに向かって言った言葉がある。

「これな、わしら人権ないんとちゃう?」

会長自身も、ヤクザとその家族に人権侵害が起きている、と語る。彼らの言い分はこうだ。

暴力団対策法、暴力団排除条例があることで、私たち組員は銀行口座がつくれず子どもの給食費は引き落とせない。引き落とせないならば、と給食費を子どもに持たせれば、「親がヤクザだ」とバレる。ヤクザであることを隠して口座をつくると、詐欺で逮捕される(編集部注:詐欺罪を適用することに法曹関係者から異論も出ている)。

また、自動車保険の交渉がこじれると詐欺や恐喝で逮捕されることもある。弁護士に依頼しようとしても、ほとんどは「ヤクザお断り」だ。

ヤクザは人権侵害されてもいいのか?


なるほど、これが「顔出し」のリスクを負ってまで主張したかったことなのだろう。

日本国憲法第14条はこう定めている。

<すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会関係において、差別されない>

確かに彼らが差別され、人権侵害されていると認定される可能性は高い。しかし、だからといって、私たち一般市民は彼らに同情するわけではないだろう。コワいし、関わり合いになりたくないタイプの人たちだからだ。

「銀行口座をつくれないのは、自業自得」。仮にそんな気持ちがわきあがってもおかしくないかもしれない。

作品のプロデューサー・阿武野勝彦さん(東海テレビ報道局)は「企画段階において報道局内で議論があった」という。一部に出た反対意見は次のような主旨だ。

「(法の下の平等などの)憲法や法律は、クリーンな人(一般人)が守られるためのもので、“真っ黒”な人に適用される必要があるのか。彼らを“表”の人として扱うこと自体、テレビ局としてはOB、アウト・オブ・バーンズだろう」

それでも、「反社会的勢力だとしても同じ人間。彼らが今、置かれた立場・状況を知らせるのは報道機関の務め」という阿武野さんや土方さんらの主張が通った。放送後、視聴者から電話やメールが殺到したが、「ヤクザを扱うなどけしからん」といった否定的意見は1割のみで、残り9割は「ヤクザの人権を考えさせられた」「続編をつくってほしい」と好意的なものだったという。

ヤクザのすべてを受け入れるということではないにせよ、好意的な評価が多かったのはどういうことなのか。

ヤクザよりコワい「日本社会の闇」


その答えは、おそらく映画の中にある。

もしかしたら、大阪の指定暴力団組員の「100%リアル」を知ることで、結果的に、ヤクザよりコワい日本社会の「闇」を感じたのではないか。

密着した土方さんは言う。

「僕たちが所属する一般の企業は、今、コンプライアンス(社内の内規や社則など)を遵守することを社員に強く求めています。(パワー)ハラスメントなどをしない、といったルールを、もし守らなければ、社会的に抹殺されてしまうのではないか、というおそれを多くの人(ビジネスパーソン)は抱いているのではないでしょうか」

仕事そのものへの取り組み方やパフォーマンスだけではない。部下・上司に対する接し方にも神経を配らねばならない。それらにしくじれば、肩書きを失い、給料を減らされることも珍しくない。下手すれば、リストラで会社から放り出されてしまう。職を探そうにも、年齢が高ければ、そううまくはいかない。

社員の平均年収が1300万円近いといわれる東海テレビでも、何か不祥事を起こせば、あっという間に転落するリスクはある。

社会的ステータスの高い会社に属する土方さんはこう続ける。

「取材してわかったのですが、彼らの世界には“許す”文化があります。例えば『破門』と聞くと事実上のクビ宣告のように聞こえますが、実際は、一定の時間が経過し、ほとぼりがさめるとまた組への出入りが許されることがあります(『絶縁』は永久追放)。彼らの不文律である厳しい上下関係は、いわばブラック企業的な社風といっていいかもしれません。上の人間に歯向かえば、罰を受けます。指を切り落とすこともあります。でも、(反省の様子が見られるなら)大目に見るという、彼ら流の敗者復活の道が残されているのです」

『ヤクザと憲法』(C)東海テレビ放送


一般社会で失われつつある、ご近所付き合いや互助の精神。一方、彼らには共に社会の底辺に生きているという“連帯感”があり、そうした文化を残しているから、よほどでなければ社会的に抹殺されることはないのだ。

だから、組員たちはカメラの前で「ここを追い出されたら、行くところがない」と本音を語る。辞める選択肢は、彼らにはないのだ。

「調べてみると、ヤクザを辞めても3~5年は正業に就けないのが実情。更生プログラムが乏しく、一般の社会的弱者と呼ばれる人よりもサポートが手薄いようです」(前出・阿武野さん)

結局のところ、「組」はセーフティネットにもなっているということだろうが、そこには人権侵害というデメリットもあるし、何かあれば警察に乗り込まれるリスクもある。その事実を組員一人ひとりがどう考えるかなのだろう。

「(困った時)助けてくれる人いる?」とヤクザは問う


作品に、元ペンキ職人の組員が登場する。

まじめに働いていたが、お金を持ち逃げされ途方に暮れた。そこへ現在の「親分」が現れ、救ってくれた。その恩義で今、忠誠を尽くしているというのだ。

いわば成り行きでヤクザの世界に入ったこの元ペンキ職人は、土方さんに問いかける。

「(本当に困った時に、世の中に)助けてくれる人っています?」

前出・阿武野さんは語る。

「助けてくれる人が身近にいるか? との問いかけに、すぐ『いる』と心の中で答えられる人はきっとヤクザにはならないでしょう。でも『いない』『わからない』と思った人はヤクザになる可能性もあるのではないでしょうか」

社会の異物であるヤクザを徹底排除せよ。

映画を見る前は、その考えは絶対正義に見えた。違法行為や迷惑行為に泣かされる人は少なくない。ただし、映画を見ると不思議と、不慮の出来事や、何らかの原因でドロップアウトしヤクザになった人々の人権を奪ってまで排除することは正しいのかどうかわからなくなる。

私たちはカタギの世界の住人だが、そこは不安定な雇用形態と収入、希薄な人間関係……。現代人が「向こう側」へ転げ落ちる可能性は決して小さくないと感じたのだ。[大塚常好=文 映画『ヤクザと憲法』=写真]

「頑張らず自分らしく」の意味とは:為末大の悩み相談室

01.16 12:00PRESIDENT Online

お悩み:「頑張らない」と「サボる」の違いは?


よくメンタル本を愛読しているのですが、自分らしく幸せに生きるなら、まず嫌な仕事を頑張らない。ワクワクしない仕事はしなくてもいい。それより大事な家族や自分を大切にした方が収入が上がる! などと書いてあります。それは手抜きをしたりサボったりすることと何が違うのか、疑問に思っています。どう理解すれば良いのでしょうか。(女性・会社員・28歳)

▼為末さんより


メンタル本や自己啓発本は、ざっくり2つに分けられますよね。許しのアプローチか、しごきのアプローチか。僕のアプローチはこの相談室を含めて「攻めの許し」みたいな感じかなと思います(笑)。許しのアプローチだけだと本当に頑張らなくなっちゃう人もいるので、領域を絞って頑張らせるということが大事なのかなと。言い換えれば、何は頑張らなきゃいけないことで、何が頑張らなくてもいいのかをちゃんと分けるということです。

メンタル本で「頑張らなくていい」と言っていることの本質は「頑張らなくていいはずのことを頑張っていませんか?」ということなんだと思います。本当に何もかも頑張らなくなって、何の価値も生み出せなくなると、誰かに依存しなくては生きていけなくなりますから。「頑張らなくてもいいはずのことを頑張っている」というのはつまり、自分にとって重要なこととそうでないことの選別ができていないということです。以前この相談室でとりあげた「周囲の期待に応えようとして疲れ切ってしまう」というお悩み も根っこは同じで、すべての人の期待に応えようとするから疲弊してしまう。「どう思われたっていいけど、この人だけはがっかりさせたくない」とか「あの人がいいといってくれたら他の人になんと言われようと気にしない」というふうに思えればかなり楽になると思います。

全部頑張らないわけではなく「これだけはちゃんとやりたい」という線引きがあれば「さぼっている」には直結しないと思います。僕は最近、靴下がついに1種類になりました。1種類を白、灰色、紺色とそれぞれ3足ずつあります。これをローテーションして履いています。靴と靴下の相性、服と靴下の相性が気になって、朝それでけっこう時間をとられていましたが、あるとき全部を靴下からスタートすればいいことに気づいてシステム化しました。靴下からスタートすると、その下にくる靴もその上にくるパンツも決まるんです。季節によって厚さは変えますが、ワンシーズン1種類3色でいまのところうまくいっています。靴下に関して僕は頑張らないことを決めましたが、毎日違う靴下を履きたい、靴と完璧に合わせたいという人は頑張ればいいと思います。自分が妥協できる対象や範囲かわかるほど、頑張るべきところで頑張るための余力が残せますよね。仕事もいつも全力だと疲れ切ってしまうので、メリハリが大事です。

現役時代、20代前半の頃までは、思いついた最高の練習をすべてこなすことができたのですが、ある年齢を超えると練習をやりすぎると疲れが抜けにくくなり、アキレス腱の痛みが出て、思いっきり跳ぶジャンプ――プライオメトリックといいます――ができなくなった時期がありました。これはバーンと地面を蹴って跳ね返る力を鍛える練習です。痛めたアキレス腱を使わないでジャンプする方法はないだろうかと考えて、ふくらはぎを使わないスクワットジャンプに変えました。これだと足の裏をベタッと着いてジャンプするのでアキレス腱は痛くないんです。もともとの練習の中心要素が分かっていたから、別の練習に置きかえることができたんですね。

僕はこれを「シェフから主婦へ」という言葉で表現していました。シェフは好きな食材を集めて最高の食材で料理できるけど、主婦は残り物も含めた冷蔵庫の中のものでなんとかするしかないのと似ているなと思ったんです。条件が変われば、頑張り方も変わらざるをえません。傍から見れば、それが「手抜き」や「サボり」に見えることもあるかもしれませんが、それは「前と同じ方法では頑張らない」「自分に合わない方法で頑張らない」ということなんだと思います。お答えになっているかどうかわかりませんが。[答える人=為末大 撮影=鈴木愛子]

1分で送信!「イントロ・本文・シメ」メール時短術

01.16 12:00PRESIDENT Online

ある調査では、ビジネスメールを1通書くのに5分かかる人が3割、10分以上かかる人が4割という。時間短縮のカギは定型文のバリエーションを増やし、相手に合わせて使い分けることにある。

メールは3部構成


大前提として、ビジネスメールは伝えたい事柄が明確であることが大切です。そこで、ビジネスメールの“型”を知っておくと、整理がしやすくなります。基本は、イントロ(挨拶)+本文+シメの3部構成。かつてのメールは、ビジネス文書に近い位置づけでしたが、現在は電話代わり。電話で用件を伝えるのと同じく、必ず主題(結論)を先に伝え、後に理由を添えましょう。イントロとシメはほぼ定型になるので、この文例から相手に応じて使い分けると時短になりますよ。


拡大画像はこちらから

(1)イントロ


宛名、挨拶、名乗りで構成。宛名は相手の名刺通りが基本。書き出し(挨拶、名乗り)はシンプルに。

(2)本文


伝えたい用件をわかりやすく書く。最初に必ず主旨をもってくること。長々と説明した後に結論が来ると読みづらく相手に不親切だ。プレゼンと同じく「結論→理由や説明→結論」という構成がわかりやすい。

(3)シメ


シメの挨拶のあとは署名。署名は、社外と社内では使い分ける。社外には自分の名刺と同じ情報を入れるのが一般的。会社のURLや郵便番号といった細かいことも記載する。上級者はここに新商品情報や長期休暇の連絡などを入れることも。社内用には部署名、フルネーム、内線番号、メールアドレスが一般的。[アイ・コミュニケーション代表取締役 平野友朗 構成=上島寿子]

2019年「センター入試」はどのように変わるのか

01.16 12:00PRESIDENT Online

“脱マークシート”で問う学力とは


【三宅義和・イーオン社長】2019年度から導入が予定されている「高校基礎学力テスト(仮称)」には、どのような目的があるのでしょうか。

【鈴木寛・文部科学大臣補佐官】日本には高校生が約100万人います。この生徒たちを十把一絡げに議論すること自体、あるいは1つの学習指導要領で議論すること自体、非常に無理があります。あえて分ければ、受験勉強をちゃんとやっている人、これが30万人強です。それから受験勉強をあまりしていないけれども、大学に進む人が20万人強いる。その人たち以外は大学に進学せず、専門学校に入るか就職します。

いま話題にされた「高校基礎学力テスト」は、受験勉強をあまりせずに大学に行っている20万人プラス大学に行かない層を対象に制度設計されています。すなわち、このグループに対して、高校の学習指導要領で決めた学力の定着を図りたいということです。

そのために、文部科学省としては「PDCAサイクル」をしっかり回していきます。とりわけ、DO(実行)のところで学び直しなどのカリキュラム改革を行う。数学Iは高校1年でやるということになっていますが、それにとらわれず、学年の前半は中3までの数学を学び直す。それをもとに高1の後半から数学Iは始めればいい。高2になっても理解できるまで学んでいくわけです。もちろん、そのための教員の追加配置もしていきます。

【三宅】もう1つ「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)についてですが、これは20年度から予定されていて、現行のセンター試験に代わるものですね。なぜ変えていくのか、どのように変わっていくのでしょうか。

【鈴木】私は、3つの学力が重要だと思っています。1つ目は知識、技能ですね。2つ目が思考、判断、表現、それから3つ目が主体性、多様性、共同性です。1つ目の基礎の定着についてはさっき申し上げたように「高校基礎学力テスト」で判断して、適宜進める。2つ目と3つ目は「大学入学希望者学力評価テスト」と各大学が行う個別入試とを合わせて見ていくということです。

とりあえず、いまのセンター入試がやっている基本的な知識・技能を問うところは踏襲します。ただ、センター試験の解答はマークシート型ですから、そうすると思考・判断・表現の中で深い思考と表現が問えないわけです。いまも質の高い出題をして、深い判断や思考は問うています。それに加えて、表現力の部分を加えていきます。そこで導入されるのは問題の長文化。要するに、読む力を養って、試験に臨めるようにしたい。

【三宅】試験問題が長文なら読まざるを得ない。

【鈴木】いまの高校生は、メールアプリのLINEなどの影響もあると思うんですけれど、日常的にワンセンテンスの文章に慣れてしまい、何千字といった文章を読む力がない。途中でもう気力が萎えてしまうんですね。これは意図的にトレーニングをしないといけないので、試験問題を長文化します。いまは5択ですが、選択肢を20、30出して、そして複数解答を可にする。当然、深い思考と表現を問うような方向になるはずです。

英語で問われる「読む、書く、聞く、話す」


【三宅】英語に話を進めたいのですが、現在の高校の学習指導要領でも、リーディング・ライティング・リスニング・スピーキングの、いわゆる4技能を教えるということが謳われていますし、総合的に英語力を育成することが重要であるという認識はあるのです。

14年9月に出されました「英語教育の在り方に関する有識者会議」の報告を見ましても、4技能の総合的なコミュニケーション能力が適切に評価されるように促すというふうにあります。従来のセンター試験では先ほどからの話にもありますように、リーディングが中心で、リスニングは少しだけありました。スピーキングに関しては、何となく、われわれがずうっと見ておりまして、会話が得意な子は試験でも好成績を残す。

現在も会話形式の出題もありまして、以前よりも随分変わってきていると思います。ただ、あくまでもそれは会話力を間接的に問うものであって、スピーキングのテストではありませんので、そこに大きな隔たりがある。もう今回の大学入試改革では実際にしゃべるテストが入ってきます。しゃべれないと合格できないと理解でよろしいのでしょうか。

【鈴木】まさにそのとおりです。4つのリテラシー、読む、書く、聞く、話すと、これを満遍なく取り入れて、評価していくということですね。

【三宅】それからライティングに関してですが、これも単なるわれわれの若いころの入試の英作文ではなくて、ある程度まとまった文章を書くことが要求されることになると考えていいですか。

【鈴木】それぞれの大学が、どの程度のものを要求してくるのか。そのことと相まって「大学入学希望者学力評価テスト」をどう活用するかでしょう。このテストで十分だという大学もありますし、それでは不十分だから、独自に個別試験でプラスアルファを課すというところと、両方出てくると思いますね。

【三宅】その際、英検とかTOEFL、TOEICといった民間の英語力判定試験を導入することはありえますか。

【鈴木】こうした社会的プラットフォームについては、最大限活用をしていこうということです。例えば、TOEFLは相当ハイレベルで、英単語数でいっても1万とか1万5000語が必要ですから、これは高校学習指導要領が想定しているものとは相当違うわけですね。そうするとこれは難関校中の難関校が使うということになるでしょう。平均的な高校生であれば、別の民間試験というように、うまく使い分けていくということになると思いますね。

【三宅】次に小学校英語ですけれども、小学校の英語活動が3年生に引き下げられる。5年生からは教科になるということです。その目的は何でしょうか。

【鈴木】文科省では11年度から「小学校外国語活動」に取り組んできました。5、6学年で年間35時間、音声を中心に英語に慣れ親しみ、コミュニケーション能力の素地を養おうというものです。これは、やって良かったと思っています。それなら導入を3、4学年からに引き下げようということですね。

英語を学ぶことで国語力は損なわれない


【三宅】教科となると、その授業内容に父兄の皆さんは非常に興味を持たれると思いますが、これからの議論ということですか?

【鈴木】そうです。ただ、これまでの経験で、アルファベットの文字や単語に親しむということは大事だと分かりました。それから日本語と英語の音声の違いや、それぞれの特徴への気づきも大切だろうと言われています。それと、日本語と英語の構文の違いですね。文法ということですけど、そういうことをむしろ5、6年生から気づかせたほうが有効でしょう。

とはいえ、あまり型にはめるのではなくて、普通に行われている読み、書き、聞く、話すというものを英語に置き換えるということだと思います。実際、われわれは現行学習指導要領でも、言語活動という考え方を最も重要だととらえています。

【三宅】日常としての言語活動ですね。

【鈴木】英語だけでなく、すべての教科で言語活動を入れていかなければいけないと考えています。とりわけ、国語教育はとても大事です。すべての教科のベースに国語教育があると思います。もちろん、英語をやることによって国語力が損なわれることはありません(笑)。

【三宅】そこで、小学校教員の英語研修ですが、大学入試が変わると教育現場も大きく変わってくると思われます。中学校・高校の英語の先生方にとっても、指導方法、評価方法が新しいものに対応していかないといけません。今後、文部科学省として小学校あるいは中学校・高校の先生方への研修は、これからどのように取り組まれるのでしょうか。

【鈴木】これはたぶん一番重要なことだと思います。特に小学校では新しいことでありますから、5年生、6年生を担当する場合は、しっかりと今の小学校の先生に勉強してもらうということも必要だと思っています。短期の研修もありますし、現在は、1~2年間、教育現場から離れて、教職大学院で学ぶという制度もありますから、そういうところにまさに修士号取得まで視野に入れて、自らの指導力を磨き直してもらうということも重要になってくるでしょう。

【三宅】教員研修にも民間のノウハウは活用できると思います。

【鈴木】日本内外のありとあらゆるリソースを検討していく。もはや、悠長なことを言っている時間はないので、もう使えるものは全部使うということになると思います。

【三宅】当社も専門のチームつくりました。われわれ英会話学校は、外国人教師が日常会話を教えているというように認識されがちです。しかし、日本人教師もたくさんいて、英語は英語で教えるということはやってきましたので、これからの学校教育の現場でも、いろいろお役に立てるところはあると確信しています。

本日はありがとうございました。[三宅義和・イーオン社長 構成=岡村繁雄 撮影=澁谷高晴]

20代で「起業vsサラリーマン」1億貯金への道

01.16 12:00PRESIDENT Online

普通のサラリーマンががんばって貯金をしても、1億円は難しい。リタイアまでに本気で1億円を目指すなら、若いうちからの大胆な人生設計が必要だ。そこで、お金のプロである、本田健さん(経営コンサルティング)と藤川太さん(ファイナンシャルプランナー)のお2人に金持ち老後への道案内をしてもらった。

本田さんがガイド【起業家コース】才能を活かしてお金も幸せも手に入れる!


▼1億円貯めたければ1億円使うべし


1億円を貯めるために、20代のうちから生活費を削って貯金するべきでしょうか。私は、そうは思いません。20代は稼ぐ力を伸ばすために自己投資をする時期。節約して貯金をするのは逆効果です。

1億円を貯めたければ、まず1億円を使うべきです。20代のうちに1億円使うのは困難ですが、ある程度の期間をかけて1億円を自分や社会のために使うのです。大雑把に言うと、それが3億円になって返ってきて、1億円は税金、1億円は投資分、残りの1億円が手元に残ります。

将来、起業するために若いときから磨いておかねばならないスキルは2つ。マーケティングやセールスのスキルと、人間関係のスキルです。

とくに重要なのは人間関係です。20代のうちに人望と人気をどれだけ高められるか。のちに起業したときに大きく影響してきます。ちなみに相手に会って感動して「この人のために何かしてあげたい」というのが「人望」で、会っていないのに「あの人のために何かやりたい」というのが「人気」です。両方大切ですが、より大きな影響力を持つという意味では、「人気」を高める努力が重要です。

では、どうやって人望と人気を手に入れるのか。それには、すでに人望と人気のある人にメンターになってもらい、徹底的に学ぶことが1番でしょう。自己投資も、そうしたメンターと出会い、接点を増やすことに使ったほうがいいと思います。

藤川さんがガイド【サラリーマンコース】不動産投資で1億円を目指せ!


▼投資の基本を押さえることから始めよ


20代は投資の準備期間です。準備をぬかりなく行うためには、まず投資の基本を押さえておく必要があります。運用で狙える利益は大きく3つに分けられます。1つは預貯金などの金利。2つ目は、経済成長の果実をとること。そして3つ目が、需要と供給の歪みを狙うことです。1つ目と2つ目は誰でも利益を得られますが、その分効果も小さい。大きく資産形成したいなら、3つ目の需要と供給の歪みを狙うことが重要です。

需要と供給の歪みとは、一方的に需要だけが高まって値上がりしたり、供給が過剰で買い手がつかず極端に値下がりした状況を言います。高いときと低いときの差が激しく、額も大きいのが不動産です。私が最初に買った不動産は6700万円でしたが、9年後に7700万円で売れました。うまく歪みをつかんで売買を何度か繰り返し、件数も増やしていけば、1億円の資産形成も夢ではありません。

ただ、不動産投資は最初にある程度のまとまったお金が必要です。みんなが投げ売った瞬間に買いたいと思っても、頭金がなければ購入できないし、収入が低いと銀行も融資してくれません。タイミングを逃さないためには、20代のうちに最低限の財力をつけること。

必要な財力は、目安として年収600万円、資金1000万円でしょうか。この2つをクリアすると、不動産投資が現実のものになってきます。[村上 敬=文]

ビッグデータで判明!「科学的に正しい勉強法」の法則5

01.16 12:00PRESIDENT Online

「ビジネス界では当たり前に行われている数字で科学的に分析することが、日本の教育に関してはこれまでほとんどされてこなかったんです」と話すのは中室牧子さん(慶應義塾大学准教授)だ。教育を経済学で読み解く『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・21)を今夏に上梓した気鋭の経済学者だ。

「教育のIT化が急速に進む今、子供の学習時間や学習頻度などさまざまなデータが集まるようになりました。データを分析することで、従来の“思いこみ”とは違う効果的な学習方法が見えてきます」

デジタル教材の普及で、これまでわかっていなかった子供たちがいつ、どれだけ勉強したかという“学習の過程”がこれからますますわかるようになる。

独自のタブレット端末を使った小学生向けの算数の家庭学習サービスを提供するRISU Japan(以下、リス)の加藤エルテス聡志さんも「蓄積した学習者のデータを分析することで、一人一人に合わせた、効果的な“テーラーメード”の教育ができます」と語る。加藤さんは、コンサルティング会社で数々のデータを分析してきた経験を生かし、2014年にリスを立ち上げた。

教育界もいよいよこれからビッグデータ時代。1日のうち、いつ勉強すればいいのか、効果的な親の関わりとは? 科学的に正しい勉強法を具体的に紹介する。

法則1:一夜漬けは効かない


中室さん、加藤さんともに口をそろえるのが、「算数は一気にまとめて勉強するのではなく、コツコツ勉強したほうが成績が上がる」ということだ。「海外の調査で、同じ分量の数学の宿題を、一方のグループは『2カ月後にまとめて提出』、もう一方のグループは『2カ月の間、毎週末ごとに提出』とした場合で比べると、後者が圧倒的に成績がよかったのです」(中室さん)

加藤さんも次のように言う。

「リスで勉強している子供たちを、学習の頻度が『毎日』や『2日に1回』の高頻度グループと『3日に1回』や『7日に1回』などの低頻度のグループに分けると、1週間の合計勉強時間は同じでも、学習の進み具合が前者のほうが1.5倍速いのです」

「2日に1回以上勉強する子」と「3日に1回以下しか勉強しない子」の学習進度を比較


1回の勉強時間が長くても短くても学習の進み具合に差はなかったとか。つまり1回の時間は短くていいから頻繁に勉強するという学習スタイルが効果的だということがわかる。

ならば、コツコツ型の勉強をする女子のほうが成績はよくなりそうだ。しかし、理数系教科では中学になると女子は男子より成績が悪くなることが多くの調査で明らかになっていると中室さんは言う。それには男女の勉強方法の意外な事実が隠されていた。

「日本の高校生400人が冬休みにインターネット教材『すらら』に取り組んだ学習ログを一橋大学の萱場豊講師らが解析したところ、男子よりも女子のほうが、トータルの学習時間は長かったのです。これは予想通りともいえる結果でした。注目すべきはその“学習過程”。男子は少しずつコツコツと学習を進める傾向があり、女子は特に数学を最後にまとめて勉強する“一夜漬け”傾向があることがわかったのです」(中室さん)

一般的には女子のほうがコツコツ勉強する、男子は一夜漬け傾向があると思われがちだったが、データからは逆の結果が得られたのだ。一夜漬け傾向がある女子は勉強量の割に数学の成績は振るわなかったというわけだ。

「女子に対しては『コツコツ勉強することが大切だよ』と声をかければ、“一夜漬け”が修正され、算数の成績が伸びるかもしれません」(中室さん)

→少しでもいいから2日に1回は勉強しよう



法則2:早期教育の効果は限定的


算数や数学は子供によって好き嫌いが分かれる教科だ。「苦手意識を持ってしまわないように」と、就学前から算数の早期教育に期待をする向きもあるだろう。

しかし、中室さんはこれを否定する。その根拠となっているのが、1960年代からシカゴ大学のヘックマン教授らによって開始され、現在も続いている「ペリー幼稚園プログラム」の調査である。このプログラムは、低所得のアフリカ系米国人の3~4歳の子供たちに質の高い就学前教育を提供することを目的にしており、就学前に読み書き計算などの学習をさせるものだ。

「ペリー幼稚園の子供たちは、ほかの子供たちに比べ、4~5歳ごろまでは学力レベル(IQ)がかなり高いものの、小学校入学前の6歳ではその差が小さくなり、8歳では差がなくなります。つまり、就学前の学力を上げても、効果は持続するわけではないのです」(中室さん)

だが一方で、ペリー幼稚園プログラムを受けた子供たちは、学歴、就職、年収などの面で、長期的にプラスの影響も受けているという。

「就学前教育で効果が持続したのは、『忍耐力』『興味・関心』『社会性』などといった性格的な特徴です。ここから見えてくるのは学習する中で忍耐力や好奇心などが培われ、その能力は大人になるまで持ち続けられること。そして読み書き計算の学力自体は効果があまりないということです」(中室さん)

忍耐力や好奇心などは大人になって社会的に活躍するのに重要な能力だ。早期の算数教育の目的は、子供が将来成功する力を付けるため、と割り切ってやるといいだろう。

→早期教育は学力よりも忍耐力に効果的



法則3:母親以外も褒める


勉強や宿題のことは母親に任せきり、パパは休日にスポーツの習い事に付き合う程度と役割分担をしている家庭は少なくないだろう。だが、「両親とも子供の教育に関心を持ったほうが、子供の成績が上がる」と加藤さんはいう。

「リスでは、保護者に子供の学習進度をメールで連絡しています。このメールを父親のみ、母親のみなど1人で受け取っている場合に比べ、両親など複数で受け取っている家庭の子供は、3カ月で1.7倍も勉強の進み具合が速くなることがわかりました」(加藤さん)

勉強の報告メールの登録メールアドレス数と学習進度を比較


メールは「お子さんは九九が終わり、こんなことができるようになりました。こんな言葉で褒めてください」などと、学習の進み具合、褒めてほしいツボを親に伝えるもの。すると親は、最も効果的なタイミングで子供を褒められるというわけだ。ここから読み取れるのは褒められる人数が多いことで、子供の成績が伸びるということ。

おじいちゃん、おばあちゃんや兄弟などにもメールの内容を伝えるなどして褒めてもらえば、効果はさらに高まるかもしれない。

→お父さんやじじばばからも褒められたら成績アップ



法則4:結果でなくプロセスにご褒美


「子供の学力を上げるには、言葉だけでなく目に見えるご褒美も有効」と言うのは中室さんだ。ただし「90点をとったから」などと成績を目標にするのではなく、「どれくらい学習したか」でご褒美をやるのがポイントだと付け加える。

「アメリカで3万人の子供が参加した大規模調査では、『成績が上がった』ことなどアウトプットにご褒美を与えたグループよりも『本を読む、宿題を終える』などインプットにご褒美を与えたグループのほうが、学力が上がったのです。子供は90点をとるための“方法”を知りません。だから成績を目標にしても成果は上がりにくいと考えられます。また、テストは問題の難易度など運にも左右されます。だから『宿題をきちんとやる』『塾を休まない』など、自分が努力すれば必ず達成できることにご褒美を結びつけるといいのだと考えられます」(中室さん)

では、ご褒美としては何がいいのかというと、中室さんによれば「小学生ならお金よりトロフィーやメダルのような“名誉”に働きかけるもののほうが、効果が高い」という調査があるとのこと。キラキラしたシールをプレゼントするという方法でもいいのかもしれない。

「中高生になれば、お金をご褒美にするのもいいと思います。貯蓄や家計簿など金融教育とセットにする形です」(中室さん)

→ご褒美は「いい成績をとったら」より「宿題を毎日きちんとしたら」



法則5:朝型がいい


「早起きは三文の徳」――、果たしてこれは、算数の学習においてもあてはまることなのだろうか。つまり、朝に勉強するのがいいのか、夜に勉強するのがいいのか、算数の勉強に効率的な時間帯はあるのかという問題である。

「リスで学ぶ子供たちを朝型の子供、夜型の子供、朝も夜も勉強する子供の3パターンに分けて成績を比べてみました。すると朝のみ勉強する子供が最も学習の進み具合が速かったのです。朝も夜も勉強する子供は、朝のみ勉強する子供より少しだけ進み具合は遅くなりますが、ほぼ同じくらい。しかし、夜のみ勉強する子供はなんとその半分以下の進み具合でした」(加藤さん)

勉強時間の違いによる勉強の進み具合を比較


算数は朝に勉強をしたほうがいいということか。この結果からいえば、朝も夜も勉強する子供には、「朝しっかりと勉強するなら、夜はもう勉強せずにゲームをやっていいよ」と言いたくなるが――。

「夜型の子供が朝型に変えると学力が上がり、学習進度が速くなるかというところまでは検証が進んでいないんです」と加藤さんは付け加える。朝勉強している子が別の要因で、算数の成績がいいのかもしれないというわけである。しかし、朝勉強するだけで算数の勉強が進むとしたらありがたい! 夜勉強しているご家庭は、朝勉強を試してみてはどうだろうか。

→朝に勉強している子のほうが成績がよい


[小澤啓司=文]

「朝ラン」で走って走って心配事解消、頭スッキリ出社

01.16 12:00PRESIDENT Online

始業前の1時間は自分の頭の整理タイム


「早朝にランニングするようになってから、余計なことを考えなくなりましたね。走ると頭がスッキリして、上手に切り替えができるようになったんです。おかげで始業前の1時間を効率的に使えるようになりました」

TOTOパブリック商品企画部企画主幹兼パブリック商品企画第一グループリーダーの島田崇康氏は、日に焼けた顔でこう語る。早朝5時に起床し、5時半から自宅の周辺をランニング。シャワーを浴びて8時前に出社する朝型生活を2年ほど前から続けている。海外や地方出張のときも欠かさず走り、走行距離は1カ月に平均200~250キロにも及ぶという。

出社後の1時間は「自分ひとりの時間」にあてている。まだ誰もいない時間に、その日の仕事の確認や会議の資料づくり、そのほか日々考えていることを書き出して、心静かにアイデアを練るのだ。

「限られた1時間の中で、その日できるアウトプットをしようと心がけています。いきなり100点を狙わず、30点レベルでもいいから、毎日思いついたことをノートに書きとめたり、エクセルにまとめておいたりします。いわば『自分の頭の整理タイム』ですね。始業前にこうしておくことで、始業後はトップスピードで仕事に入れるようになったんです」

島田氏が朝ランを始めたのは同僚から社内の駅伝大会のメンバーに誘われたことがきっかけだった。実はもともと早起きは得意。朝ランをする前から8時には出社していたというが、今とは時間の使い方が大きく違っていたと振り返る。

「ダラダラと過ごしてしまい、メリハリをつくれなかった」。朝早く出社しても、結局夜10時過ぎまで会社に残り、がんばりすぎて疲れ果ててしまうこともあった。

「当時は営業だったのですが、すべてに全力投球しなければいけないという気持ちで取り組んでいました。でも、その結果、逆に部下に仕事を任せられなくて自分ですべて抱え込むなど、がんじがらめになっていたような気がします」

しかし、走って体力を使うようになってからは、体が疲れるので夜も7時くらいで切り上げる。限られた時間の中で最大限の成果を出そうと考えたら、自分はポイントだけ押さえて、ほかは自然と部下に任せられるようになった。

「時間の使い方がうまくなり、仕事の指示の出し方もスムーズになったような気がします」

走りながら集めた情報を商品に生かす


午前中はだいたい1時間刻み、午後は2時間刻みでミーティングが続く。合間に部下から「ちょっと10分!」と飛び込みの相談や来客応対などで、終業時間までは自分のデスクに座る暇もないほどだ。


始業後の島田氏は、朝9時から夕方5時ごろまで1日5~6件の社内ミーティングや会議が入り、スケジュールはびっしり埋まってしまう。合間に部下から飛び込みの相談もあるので、上司として常に部下とのコミュニケーションを図る体制を取っていなくてはいけない。プレーヤーでもある課長という立場で、日中はそうした折衝に忙殺され、フリータイムはほとんど持つことができない。こうした状況も、頭を整理する自分時間を確保する必要性を感じるようになったきっかけだった。

島田氏が所属するパブリック商品企画部は病院やホテル、駅など、公共で使用するトイレやバスルームを企画するのが業務。発想力と広範囲な情報収集力が求められるだけに、業務時間以外も常にアンテナを張っておかなくてはならない。島田氏は街を走りながら公衆トイレやコンビニに立ち寄って観察したり、異業種の友人のフェイスブックを見て仕事に応用できることがないかをチェックしたりしている。そうした情報を朝時間にまとめて整理する習慣がついた。

昨年は「朝時間のこまめな積み重ね」が実を結び、病院向けのトイレ・シャワーユニット「オクタゴン」の商品化に漕ぎ着けた。これからも朝ランを継続し、新たな商品企画を練る「自分時間」をより充実させていくつもりだ。

●島田さんの1日


5:00 起床
5:30 家の周りをランニング
6:00 シャワー、食事
6:45 家を出発
7:50 出社して1時間は「自分の頭の整理」タイム
8:50 始業。トップスピードで仕事できる状態に
9:00 1時間刻みでミーティングの連続
12:00 昼食。朝ランをしているので、かなりがっつり食べる
13:00 2時間刻みでミーティングの連続
19:00 退社
20:00 帰宅
23:00 就寝
[中島 恵=文 澁谷高晴=撮影]

思いのままに人を動かし、異性を「口説き落とす」会話術

01.16 12:00PRESIDENT Online

思いのままに人を動かす会話術


会話には自分の思いを相手に伝え、人を動かす力がある。一方で、自分の思惑を隠しながら人を動かす技もある。人間心理のメカニズムを利用することで、思いのままに人を動かすことも不可能ではないのだ。

本音を隠して互いの腹の内に渦巻く思惑を探り合うと言えば、男女の会話が挙げられる。意中の相手を食事に誘う、嫌な思いをさせずにさらりと断る、見知らぬ異性とひとときの会話を楽しむ……すべて大人の会話力を以ってすれば実現できる。

「例えば『前提暗示法』を使えば、その気のない女性とディナーを楽しむことができます。人は自分の選択であれば不本意な結果も受け入れるという心理を逆手にとって、最初から食事をしないという選択肢を潰してしまうのです」(心理学者・立正大学特任講師 内藤誼人さん)

逆に、誘ってきた相手を喜ばせつつ、食事には行かずに済むテクニックもある。

「それには『イエス・バット法』がいいでしょう。食事に誘われたら二つ返事で快諾します。でも次の瞬間、先約を思い出して行けないことにするのです。最初に示された反応が強く印象に残ることを利用した大人のお断りの仕方です」(内藤さん)

これらのテクニックは、もちろんビジネスの場面でも活用できる。「前提暗示法」で商談を成立させ、「イエス・バット法」でやっかいな仕事を遠ざけるなど楽勝。飛び込み営業で販売ルートを広げたり、バーターを持ち掛けて交渉を有利に導くなど。

ただし、付け焼き刃ではすぐに見破られる。試行錯誤と日々の訓練が必要だ。さっそく今日から、めざせ会話の達人!

▼気になる異性を食事に誘う⇒「前提暗示法」でノ-の選択肢を与えない


自分:◯◯さん、もし男性と食事に行くならイタリア料理とアジア料理どっちに行く?
女性:うーん、アジア料理かな?
自分:よく食べに行くの? アジア料理ならどの国の料理が好き?
女性:友達とよく行きますよ。タイ料理とか大好き!
自分:暑い季節に辛い料理、いいよね?
女性:ですね!
自分:実は麻布に美味しくて雰囲気のいいタイ料理のお店があるんだ。
女性:へー、そうなんですか?
自分:来週行くとしたら、前半と後半どっちが行きやすい?
女性:あの、今週から来週にかけ立て込んでて……。
自分:じゃあ後半なら大丈夫だね。金曜日に予約しておくよ!

【NGワード】今度の金曜、時間ある?
【POINT】人は自分が選択したうえでの結果なら、たとえそれが期待通りでなくても受け入れる傾向がある。この場合も「食事に行かない?」と聞いていれば断わられたかもしれないが、「イタリア料理かアジア料理か」「週の前半か後半か」を自分で選んでしまったので「行かなきゃ……」という気持ちになっている。

▼相手に恨まれずに誘いを断る⇒「イエス・バット法」で断った印象を残さない


上司:今度、2人きりで飲みに行こうよ。
自分:いいですね! 行きましょう!!
上司:じゃあ今週の金曜はどう?
自分:今週の金曜ですね! って、あああ!
上司:ど、どうした?
自分:実は金曜日は地元の友達が5年ぶりにこちらにきて会うんです。
上司:それじゃあダメじゃないか。
自分:すみません、お店も予約して今から変えられないと思うし……。
上司:いいよいいよ、そこまでしなくても。
自分:残念です。あの、今度は私のほうからお誘いさせてもらえませんか?
上司:本当かい? じゃあ待ってるよ。

【NGワード】2人きりは……ごめんなさい
【POINT】誘ったり頼んだりした場合、人の印象に強く残るのは最初の反応部分。したがって、どんな誘いもまずは愛想よく「いいですよ」と答えよう。そうすれば結果はどうあれ相手にネガティブなイメージを残さずに済む。この場合も相手は「たまたま日程が合わなかっただけ」としか思っていないはずだ。

▼見ず知らずの異性に話しかける⇒モノに対して関心を向け警戒させない


自分:すいません、そのカクテル珍しいですね。きれいな色だなあ。
美女:そ、そうですか?
自分:はい、見たことありません。このお店のオリジナルかなあ?
美女:さあ、どうでしょう?
自分:カクテルの名前はわかりますか?
美女:えっと「エル・プレジデント」だったかな。私も詳しくなくて。
自分:味はどうですか?強いお酒ですか?
美女:美味しいですよ。ラムベースでちょっと強めです。
自分:そうですか、私も注文してみます。ありがとうございます。
美女:いえいえ。
自分:ところで、このカクテルは……(会話は続く)

【NGワード】僕とお話ししませんか?
【POINT】見知らぬ異性に話しかけ、会話まで持ち込むのはかなりハードルの高いミッションだ。大抵は気味悪がられて終わるだろう。だが、相手のモノに興味を向けて質問を投げれば、あら不思議。よほどのことでもないかぎり拒否する理由も見つからず、なんとなく答えているうちに自然と会話になっている。

▼パートナーに生活態度の改善を促す⇒バーターで交渉に持ち込む


自分:僕に「こうしてほしい」ところってない?
妻:急にどうしたの?
自分:実はキミにお願いしたいことがあるんだけど、聞き入れてくれたら僕も1つ条件をのむよ。
妻:私にお願いしたいことっていうのはなに?
自分:部屋が散らかってるのが気になるから、週3回は掃除してほしい。代わりに僕も何かするから。
妻:じゃあ、食器洗いとゴミ出しお願いできるかしら?
自分:こちらは週3回のお願いなのに、僕は毎日やらなきゃいけないのは釣り合わないよ。
妻:それならゴミ出しだけでいいわ。
自分:よし、交渉成立だ!

【NGワード】掃除くらいしろよ/こっちは仕事で疲れてるんだ
【POINT】相手に何かをさせたい場合、一方的な要求であれば突っぱねられるのがオチ。そこでこちらから交換条件を提示して、交渉に持ち込む。上の会話でも「お願いを聞いてくれたら僕も条件をのむよ」とバーターを持ち掛けられた瞬間、相手は「では何を要求しよう」と考えて、交渉のテーブルについている。
[渡辺一朗=編集・構成]