ピグマリオン効果とは、学校や職場で指導者から「君は伸びるよ」と応援されると実際に成果が出るという効果。この効果は絶大なので、ビジネスや恋愛に活かさない手はありません!
心理スキルを日常生活に使うべく日々研鑽を重ねる「心理誘導研究所」。
今日も博士と助手の元に、一通のお便りが届いたようだ……
illustration MiyaZoe
懺悔:その結果をコントロールしたのは私です
From もつ鍋大好き(45際 / 男性 / 会社員)
懺悔します。
人事部の課長に昇進してはじめての春、大学で心理学を学んでいた私は、悪戯心というと自己弁護になりそうですが、そのときの私の心情ではちょっとした出来心で、ある実験をやってしまいました。
うちの会社では、入って3年目の若手希望者に「20年後の会社を救うプロジェクト」という課題でプレゼンをさせます。例年10名前後の参加者がいるのですが、その年に挑戦してきたのはわずか2名。理由は簡単で、うち一人がその期トップのA君だったからです。
A君は一流大を出ていますし、営業成績もプレゼン能力も断トツ一位でしたから「彼が出るなら彼で決まり」というムードになっていたのです。そこに名乗りを上げたのが、その期では卒業大学も営業成績も下から数えた方が早いB君。「無謀なことを」と会社のほとんどが思ったと思います。
私はそのプレゼンの担当でしたので、大学時代に習ったピグマリオン効果とゴーレム効果を試してみたくなり、実際に試してしまったのです。
具体的には、B君は「君のプレゼン力は素晴らしい」「本当は力があることを知っている」などと褒めまくってやる気にさせ、A君は「同期で1位といっても全体では中間以下だ。調子に乗るな」「卒業大学など会社に入ってしまえばなんの役にも立たない。鼻にかけるな」などと言って押さえつけました。
結果、プレゼンはB君の圧倒的な勝利。
そこからB君は営業成績もグンと伸び、優秀な社員に育ちました。負けたA君には気の毒なことをしましたが、幸いにも天狗の鼻を折られて素直になり、いちだんと成績を伸ばしてくれたので、ホッとしています。
人をコントロールする一番簡単な方法
ピグマリオン効果は、1960年代にアメリカの教育心理学者ローゼンタールにより提唱された説で「教師期待効果」とも呼ばれます。
ピグマリオン効果とは、学校でも、職場でも、塾やスポーツクラブなどでも、指導者から「君はこんないいところがある。だから伸びるよ」と応援されると実際に成果が出るという効果。ひと言でいえば「期待を込めれば人は伸びる」という効果のことです。
*逆に、教師や指導者が期待しないことによって成果が下がることは、ゴーレム効果と呼ばれています。
人は心理的に言葉の裏を探ってしまう癖があります。
敏感にその人の言葉に隠れた心を察知してしまうわけです。
「君はできる!」と期待をかけられ続けると、「そうかな〜」と思いながらも何だかできる気になっていくのを体験したことはありませんか?
逆に「君は出来ない!」と思って接してこられて、モチベーションが下ってしまった体験された方もいると思います。
まさに心理学の真髄といいますか、人が環境で左右される生き物、心理で左右される生き物であることがよくわかります。
これは見方を変えれば、褒め続けたり、けなし続けたりすることで、人を簡単にコントロールできてしまうということです。ピグマリオン効果やゴーレム効果を使われるときは、どうぞ気をつけてください。
昔はこんな非人道的な実験が許されていました
サンフランシスコの小学校で、ハーバード式突発性学習能力予測テストと名づけた普通の知能テストを行ない、学級担任には、今後数ヶ月の間に成績が伸びてくる学習者を割り出すための検査であると説明した。
しかし、実際のところ検査には何の意味もなく、実験施行者は、検査の結果と関係なく無作為に選ばれた児童の名簿を学級担任に見せて、この名簿に記載されている児童が、今後数ヶ月の間に成績が伸びる子供達だと伝えた。
その後、学級担任は、子供達の成績が向上するという期待を込めて、その子供達を見ていたが、確かに成績が向上していった。 成績が向上した原因としては、学級担任が子供達に対して、期待のこもった眼差しを向けたこと。さらに、子供達も期待されていることを意識するため、成績が向上していったと主張されている。
(引用:Rosenthal, R. & Jacobson, L.:”Pygmalion in the classroom”,Holt, Rinehart & Winston 1968)
もともとは、ローゼンタールが行ったネズミを用いた実験で、「このネズミは利口なネズミの系統」と学生に伝えたネズミと、「このネズミは動きが鈍いネズミの系統」と学生に伝えたネズミとの間で、迷路による実験結果の差を調べたところ、「利口なネズミ」と伝えられていたネズミの方が結果が良かったという実験に由来します。
このことからローゼンタールは、期待をこめて他者に対応することによって、期待をこめられた他者の能力が向上すると仮説をたて、学校における実験を行うに至りました。
「ピグマリオン効果」gooヘルスケア
教育と子育てと職場と恋愛におけるピグマリオン効果
使い方でわかりやすいのは、やはり教育現場。
予備校などでは、ピグマリオン効果を上手に使っているところがあります。
日々勉強する教室に張り紙で「絶対合格」とか、「為せば成る」的なことを書いて貼ってあると、それを毎回見て勉強しているわけですから、「自分はできるんだ」という刷り込みを脳に行うことができるのです。
とはいえピグマリオン効果は、子育てやスポーツ、恋愛など、人と人が絡む場所であればどんなところでも力を発揮します。
たとえば、子育て。 自分の子供に「あんたはダメな子だ」と言いながら育てると、ネガティブで何事にもやる気がないひねくれた性格の子になりがちです。態度もそのような冷たい態度だと、精神的な虐待を受けて育っているのと同じと言えましょう。
逆に「あなたはいい子!」「すごいね!一人でできたね!」と年がら年中ではダメですが、タイミングにおいて褒めるときには褒めていると「お母さんの喜ぶ顔を見たいからもっと頑張ろう」とする前向きな子、一生懸命やる子に育ちます。
<注>期待が過度になるとプレッシャーで逆効果になることもありますので、その子の性格やタイミングを見て行うことが必要です。
会社での人間関係でも、上司から「お前はどうせダメだ」と言われ続け、まったく期待されなければ、部下は努力する気になりません。また上司が年がら年中このような態度でいると、部下は完全にやる気をなくし、ミスも多くなることでしょう。
出来る上司は、部下の性格を見ながら子育てをするのと同じで、適度に飴と鞭を使い分けて期待を盛り上げることも必要なのです。
自分で自分にピグマリオン効果を与えるには?
他人から期待されることで成果が上がるのがピグマリオン効果ですが、自分が作り出した環境や行動からピグマリオン効果を起こすことも可能です。
人間は環境に左右される動物ですから!
たとえば、いつもキチンと机の上を整理整頓していると、気持ちよく仕事ができるのでやる気も出ますし、そういう人は期待もされやすいのでそれに応えようと努力もするもの。周りの人に気を使ったり、毎日を気持ちよく過ごそうしている人にも同じことが言えます。
つまり、整理整頓することや人に親切にしてあげるなど、環境や行動からピグマリオン効果を高め、日常生活をよい方向に変えていくことができるというわけです。
逆に、汚い部屋に住んでいることに慣れてしまうと、「別に汚くても誰にも相手にされないし、いいや」といった開き直りのゴーレム効果が働き、他人のことなどどうでもいい、という非常に自分勝手な考えに陥りがちなので気をつけてください。
会社の中でも、いつも遅刻をしていたりいい加減な仕事をしていると、自分が自分に期待しなくなり「どうせ周りも期待しちゃいないし、一生懸命やったら損だ」と、ひねくれたバイアスがかかってしまいます。これもゴーレム効果の恐ろしいところと言えましょう。
恋愛においても同じです。
「自分はどうせダメだ」「きっと今度も無理だ」と思い続けていると実る恋も実らなくなってしまいます。逆に「絶対うまくいく!」と思いながらやると押しが強く、期待通りにもぎ取ることもできるでしょう。
もちろん時と場合によりますので100%とは言えませんが、ネガティブな時より確率が上がることはピグマリオン効果とゴーレム効果が立証しています。
とにかく!
人からの信頼や期待はすぐには変えられません。
まずは自分のまわりの環境や行動を自らチェンジして、自分が変わることから始めましょう。
(以下、永遠に続く)
ピグマリオン効果のまとめ
* 人は心理的に言葉の裏を探ってしまう癖があり、敏感にその人の言葉に隠れた心を察知する。
* 環境で人は左右される生き物、心理で左右される生き物である。これをうまく使ったのがピグマリオン効果である。
* その言葉と態度で「自分たちのことをどう見ているのか」ということを敏感に感じ、その態度と言葉がやる気も変えさせることができる。
* 環境や行動からピグマリオン効果を高めてよい方向に日常生活から変えていくことができる。
* 人からの期待度に加えて、自分の良い方向へのマインドコントロールをするのはこの効果をうまく生かすこと。
付録:岸★正龍の「見たことのない景色」
小学校低学年の頃の僕は身体が弱く、体育も参加できないことが多い、典型的な運動デキナイ君でした。
一番嫌な校内行事は、だから運動会。とくにかけっこが大嫌い。だってビリが決定して、それも断トツのビリなので、やりたくなくて仕方ありませんでした(タイムを考慮して組分けを作る今と違って、僕の頃は普通に背の順で組分けされていたので余計ビリが目立ったのです)。
一年のときも二年のときも三年のときも断トツでビリ。ずっとみんなの背中を見つつ「かけっこなんて嫌いだ」「こんなことしたくない」と思い走ってました。
四年になって少し体力がついて運動が出来るようになったとき、担任の山田先生が「岸君は本当は走るのが早いんだよ。いままでは身体の動かし方がわからなかっただけ。腕を大きく振って、身体を前へ前へと進めてごらん。きっと早く走れるよ」と繰り返し言ってくれたのです。
はじめは「早く走れるはずなんてない」と思っていた僕でしたが、何度も何度もそれを聞くうちに「早く走れるかも」と思い始め、走る練習が楽しくなり、放課後に一人残って練習までしちゃいました。
そしてその年の運動会。
なんと一着を取ることができたのです!!!
自分の前を誰も走っていないあの光景は、本当に本当に爽快でした。
僕にそんな歓びと感動を与えてくださった山田先生、ありがとうございました!