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 北朝鮮の核実験に対抗し、韓国軍が軍事宣伝放送を始めた8日午後、軍事境界線に近い韓国北部、京畿道漣川(キョンギドヨンチョン)郡に入った。軍事宣伝放送の再開で北朝鮮が武力挑発をする恐れがあり、住民らは不安と緊張に包まれていた。軍事境界線まで約5キロ。「こんな状況はいやだ」。近くに住む初老の男性は語気を強めた。

 ソウルから車で約2時間、漣川郡にある展望台に向かった。山あいの道路沿いには迷彩色の軍の施設もある。耳を澄ましても放送は聞こえない。人通りはほとんどないが、軍用車両が時折行き交う。

 「この先は入れません。撮影もダメです」。道の途中で兵士に止められた。展望台からは北朝鮮を見渡すことができ、ふだんは観光客も展望台に入ることができる。ただ、軍事境界線に近いため、民間人統制地域に指定されている。8日から出入りが規制されていた。

 昨年8月に韓国軍が軍事宣伝放送を行った際に、北朝鮮軍は漣川郡に向かって砲撃した。

 「母親が農作業をしていたときに爆音を聞いたと言っていました」。展望台の近くに住む朴大熙(パクテヒ)さん(26)は話した。いまはテレビのニュースで動向をチェックしているという。「北韓(北朝鮮)は核実験をした。放送を再開した韓国政府は正しい」

 展望台に向かう途中に漣川郡の事務所がある。ロビーに「非常時国民行動要領」と題したパンフレットが置かれていた。核兵器などの攻撃を受けた際の対応が説明されていた。

 敷地内の駐車場の隅に、2014年10月に北朝鮮から発射された高射機関銃の銃弾が着弾したことを説明する看板があった。「いま私たちは終戦ではなく、休戦中だ」。こう看板には記されていた。