1人の若者がダークサイドに堕ちる
達也は帰宅途中の電車の中でお腹に痛みを感じた。
過敏性腸炎のある達也にとってはいつものことだった。
「しかたない、まだ余裕があるが万が一のために次の駅で降りるか。」そんな風にいつものように途中下車し、駅の公衆トイレに向かった。
達也は自宅の最寄り駅から会社の最寄駅までのすべての駅の公衆トイレの位置は正確に記憶している。
現在位置から直近の公衆トイレに向かう事など造作もない。
iPodTouchでお気に入りの音楽を聴きながら公衆トイレに向かった。
到着すると生憎すべての個室は利用中でしかもおじさんが1人並んでいた。
「ま、想定内だな、余裕。」とおじさんの後ろに達也は並んだ。
すると突然、達也は「トントン」と肩を叩かれた。
振り向くとそこには1人の若者が立っており何かを言っている。
達也はヘッドフォンを外して首を傾けると「す、すいません、もう限界なんです。順番、か、代わってもらえませんか?」とその若者は言っている。
「あぁ、まだまだ素人だな。限界が来る前にトイレに来ないなんて」と思いながら「どうぞ」と順番を代わってやった。
若者はぺこりと頭をさげて達也の前に並び、その前に立っていたおじさんに「すみません、もう限界なんです。順番、か、かかかか代わってもらえませんか?」と言っていた。
するとおじさんは急に険しい顔になり「こちらも限界じゃ。ちょっと我慢せい。」と若者の申し出を拒否した。
「あぁ、どっちも限界か・・・かわいそうに」と達也が思った瞬間、若者が「あぁぁぁぁぁ」と声にならない叫びをあげた・・・。
微妙な沈黙がしばらく続いたあと、おじさんは察したのか「にいちゃん・・・先行くか?」と若者に問いかけたが、若者は「もう・・・だ、大丈夫です。」と消えそうな声で答えた。
達也は「うん、まだ余裕はある。俺は次の駅でゆっくりしよう。」と自分に言いながら、その場所を後にした。
また1人の若者がダークサイドに堕ちた瞬間だった。
まとめ
物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。