高齢化と人口減少で地方都市の衰退が喧伝(けんでん)されるなか、瀬戸内海に面した人口280万人の広島県が活気づいている。かつては「カープ・宮島・もみじまんじゅう」が知られた程度だったが、今やサッカーJ1優勝のサンフレッチェ広島、カー・オブ・ザ・イヤー受賞のマツダ、お好み焼きに欠かせないオタフクソースなど、認知度抜群の企業や商品が旬な話題を全国に振りまいている。「大いなる田舎」広島躍進の戦略は何か。
広島県に本社を置く企業でここ数年もっとも元気なのは、自動車メーカーのマツダ(府中町)だろう。10月の東京モーターショーで、伝統のロータリーエンジンを搭載するコンセプトカーを発表して世界を沸かせたかと思えば、12月にはコンパクトスポーツカーの新型ロードスターが、昨年のデミオに続いて2年連続の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。
マツダは広島の基盤産業の筆頭だ。原子爆弾が投下された焼け跡で戦後の歴史をスタートさせた。「壊滅的な打撃を被りながら驚異的な復興を遂げた広島のように、ゼロから立ち直る屈強な精神とチャレンジの姿勢」を企業ポリシーに掲げ、広島県人の精神的なよりどころになっている。そのチャレンジ精神が今、次々と花開いているのだ。
◇広島カープは観客動員で新記録
大リーグから復帰した黒田博樹投手や、これから大リーグに挑戦する前田健太投手で話題を集めた広島カープも、クライマックスシリーズ(CS)進出こそ逃したものの、球団史上初めて主催試合の観客動員が200万人を突破した。2014年の流行語大賞トップ10に入った「カープ女子」効果が衰えないまま、さらに熱さを増しているのだ。
日本プロ野球機構が公表した今季のセ・リーグ入場者数をみると、東京ヤクルト、横浜DeNAが主催する対広島戦は、1試合平均の観客動員がそれぞれ2万9351人、2万7184人に達した。この数字は、この2チームが巨人などセ4球団と対戦した試合の動員を上回っている。
応援歌に合わせ、カープファンが立ったり座ったりしながら声援を送る「スクワット応援」が、相手チームの応援を圧倒する光景も珍しくなくなった。今年5月には球団が新幹線を貸し切りにして、関東や関西のカープファン1300人を広島に招待するイベントも開いた。在京チーム主催の試合で左翼外野席を埋める広島ファンに応えたサービスだ。
今月14日、東京・銀座の広島県アンテナショップで開催された大瀬良大地投手のトークイベントも、定員60人のところ約900人が応募する熱狂ぶりだった。赤いユニホーム姿の「カープ女子」が銀座に集結し、大瀬良投手は「関東のファンの熱さに驚いた」と目を丸くしていた。
◇「オタフクソース」も焼け跡から復活し、全国へ
具材を重ねて焼く「広島お好み焼き」のソースを製造・販売する「オタフクソース」(広島市西区)も原爆の被害を受け、その後再出発した企業だ。市内のお好み焼き店と一緒に商品の改良を重ね、地元の味として親しまれたが、商品管理の限界から、長く広島県とその周辺でしか販売されていなかった。
1980年代半ば、東京都内に小さな駐在所を置き、百貨店やスーパーの催事場で販促活動を続けて全国に販路を広げた。今では約600億円とされる国内ソース市場で約140億円を売り上げ、全国のスーパーカバー率を9割に伸ばすまでに成長した
同社はソースの普及と並んで、お好み焼き店の開業を積極的サポートしている。2012年には東京都江東区に研修センターと一般向けの教室を設け、親子のほか開業希望者には「広島お好み焼きの理論と実践」という3日間の研修を実施している。その研修センターは全国に5カ所。大学祭などのお好み焼き模擬店を企画する大学生にも調理法を指導するなど、「広島お好み焼きの伝道師」としての活動に力を入れている。
◇野球もお好み焼きも人間も熱い広島
生粋の広島人である広域営業部課長の新本顕三さん(45)は、東京進出の足がかりを探していた90年代のことを今も思い出すという。
「広島お好み焼きの文化がない東京でどうソースを売ればいいのかさっぱりわかりませんでした。東にブルドックソース、西にイカリソースの壁があり、電話をして『オタフク』の社名を名乗って噴き出されたこともありました」
当時の社長は「1億円をCMに使うくらいなら、1億円分のソースを食べてもらおう」と部下にハッパをかけた。小さな試食会を重ね、地道に知名度を上げていった結果、今やお好み焼きソースのトップブランドになった。
「東京進出の時、広島出身の人たちにものすごく応援してもらいました。県人の郷土愛はハンパなく強い。広島お好み焼きがここまで広がったのは、広島の人たちの熱い思いがあったからです」
◇特定分野で強みを発揮する戦略が成功
広島には他にも有名な企業がたくさんある。紳士服チェーンの青山商事(福山市)、100円ショップのダイソーを展開する大創産業(東広島市)、乳製品のチチヤス(廿日市市)、競技用ボールのモルテン(広島市西区)、ミカサ(同安佐北区)、本社を東京に移したスナック菓子のカルビー、殺虫剤のフマキラー--などだ。
地域経済に詳しい広島大学地域経済システム研究センターの伊藤敏安教授は「広島の企業は、もともと進取の気性と創意工夫の伝統がある。単純に東京に追随せず、主流ではない分野に挑み、規模は小さくても特定分野で強みを発揮しながら、高いシェアを誇る企業が多い」と分析する。
大きくはないが特徴があり、特定分野で熱く愛される--地方創生のかけ声のなか、偉大な田舎になるために地方が目指すべき、大切な戦略ではないか。【経済プレミア編集部・亀井和真】
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