新日本監査法人の懲戒処分の内容を一番簡単に解説します
どうも千日です。平成27年12月22日に金融庁が新日本監査法人へ懲戒処分を課しました。その懲戒処分の内容と責任、どんな虚偽証明だったかについて、最も簡潔に説明したいと思います。
金融庁の懲戒処分の内容
- 3か月間の新規業務締結の停止処分
- 業務改善命令
- 課徴金21億円
3か月の間、新規の業務締結が出来ません。たった3ヶ月かと思うでしょうが、これは彼らにとってかなり痛いです。例えば、公的機関や自治体の業務などでこの時期に行われる入札には一切参加できません。
2年とか3年単位の業務もあります。この時期に締結できなかったことで、入ったはずのその間の収入が無くなるわけです。
また、処分を受けて一定期間が経過しない監査法人はそもそもエントリーできないという案件もあります。
監査法人による自主的な処分
およそすべての重役と、東芝の監査に関わった管理職(部長クラス)が処分の対象となっています。新日本監査法人の理事長は、平成28年1月31日付けで退任することが明らかにされました。そのほかでは以下のような対応を取りました。
- 品質管理担当の常務理事は解任
- 全理事の報酬減額
- 監査を直接担当した業務執行社員の社員脱退(退職)
- 監査意見の審査を担当した社員の報酬減額
- 東芝の次年度監査契約の辞退
理事長というのは、いわば社長です。社長の退任ということです。
品質管理担当の常務理事というのは、監査法人が監査報告書(財務諸表が適正だというお墨付き)を提出前段階で、事務所内でその監査がしっかりされたかを審査する部署の長です。
社員というと、一般的にはヒラの従業員のように聞こえますが、監査法人という組織の社員は株主兼取締役、いわゆる重役達です。
どんな虚偽証明があったのか、その責任の度合いは?
虚偽証明とは、嘘の証明ということです。具体的には重大な虚偽のある財務諸表を重大な虚偽の虚偽の無いものとして証明したということです。
監査法人の監査証明というものは、重大な虚偽が無いことを証明するものなので、重大でない虚偽についてまで証明するものではありません。新日本監査法人は、重大な虚偽を見逃したということで責任を問われているわけです。
その重大な虚偽というものを、確認していきましょう。
平成27年11月7日付けの東芝の役員責任調査委員会の調査報告書東芝:不適切会計問題への対応についてによると、過去7年間の過年度決算修正額(利益水増し額)は以下の通りです。
- PC事業における部品取引 578億円
- 半導体事業における在庫の評価 371億円
- インフラ関連案件 479億円
- 映像事業における経費計上 61億円
合計1,489億円ですね。報道ではいろんな金額が出てますが、千日のブログではこの金額をベースにお話しして行きます。
上記の4つの虚偽のうち、金融庁が監査法人に責任アリとした重大な虚偽は1.から3.までです。
4.映像事業における経費計上61億円だって庶民感覚的にはもちろん大きな金額なんです。しかし東芝という超巨大企業の規模から見ると、重大な虚偽とまでは言えないという判断なのでしょう。
1.PC事業における部品取引578億円の虚偽とは
パソコンの製造を外部に委託するにあたって海外子会社から仕入れた部品を外部委託業者に利益を乗せて販売し、その差額を利益として計上していた、というものです。
販売したんだからイイじゃん?
いいえ、ダメです。
外部委託業者で作ったパソコンは、一般ユーザーに販売するために外部委託業者から東芝が購入するという一連の流れになっています。
PCが売れるまでは収益は実現しない。
下図のようになります。
出来上がったパソコンを仕入れるところまで進んでいれば、部品に乗せた利益はパソコンの仕入に乗ってきますからプラスマイナスゼロです。
しかし、パソコンを仕入れる前段階の部品供給でそのまま放っておくと、部品に乗せた利益が残ってしまうんです。
下図のようになります。
上図の20円の利益を内部利益と言います。内部利益は部品供給という内部活動を帳簿で管理するための実務です。これ自体は粉飾ではありません。
問題なのは次です。
財務諸表を作成する際にはこの内部利益は消去するのが適正な処理です。が、東芝は故意にこれをせず、利益を計上していたわけです。
これはダメです。粉飾です。
これは会計の専門家ならば、一目見れば分かった類の粉飾です。
2.半導体事業における在庫の評価371億円の虚偽とは
東芝の半導体事業では標準原価計算という方式の製品原価の計算を行っていました。
標準原価計算というのは、ある製品を一個作るのに必要なコストをあらかじめ標準原価として設定して、最終的にかかった実際のコストとの差額を製造原価と製品に振り分けて決算を行う方式です。
例えば、
- 1個作るのに100円かかるという標準原価を設定しました。
- 1年間で10個作りました。そのうち8個が1,000円で売れて2個が売れ残っています。
- ということは@100円×10個で1,000円のコストがかかる計算ですね。
- 実際にかかったコストは900円でした。
- ということは100円安くできたわけです(これを有利差異といいます)。
- 平均して一個10円安く出来たことになります。
原価差額は、最終的に差額は売れた製品と在庫の製品にまんべんなく割り振って計算するんですが、わざと売れた製品だけに割り振ると、売れた製品だけが安く製造できたことになります。
正しい処理
- 売上1,000円
- 原価 720円(@100×8個−80円)原価差額を均等に割り振る
- 利益 280円
- ちなみに在庫は180円(@100×2個−20円)均等に割り振る
利益を水増し
- 売上1,000円
- 原価 700円(@100×8個−100円)売れた製品にだけ有利差異を割り振る
- 利益 300円
- ちなみに在庫は200円(@100×2個−0円)割り振らない
ちょっとややこしいです。しかしこの操作によって20円の利益が水増しされていますね。この方法で371億円の架空の利益を計上してた訳です。
これも会計の専門家であれば、一目見れば分かった類の粉飾です。
3.インフラ関連案件479億円の虚偽とは工事進行基準の見積り
ETC設備の更新工事事案で、見積工事原価総額の内訳などについて、詳細な説明や資料の提出を受けておらず、東芝の見積もりの合理性や不確実性についてその検討過程を評価していないなど、当然行うべき特別な検討を要するリスクに対応した十分な監査手続きが行われていなかった。
と金融庁は言っています。太字にした部分というのをかみ砕いて言いますと、このようになります。
金融庁『見積工事原価総額みたいな、不正がありそうな所は十分気を付けないといけないのに、ちゃんとやってなかったよねキミィ』
監査法人『ゴメンなさいm(__)m』
工事進行基準の見積工事原価総額というものは、その工事の見積の総コストです。会計士は会計の専門家であっても、工事については素人です。
会社のスペシャリストが出した見積りが妥当かなんて、素人の会計士がいくら頑張ったところで、組織ぐるみでシラを切られてしまったら、まず分かりません。
詳しくは千日の過去記事にあります。
このように、工事原価の見積もりってとてもグレーなんですよ。金融庁は手続きが甘いなんて言ってますが、それは酷です。
それが分かるちょっとしたクイズを出します。
……………
Q 阪神高速8号京都線のETC更新工事(14ヶ所48ゲート)の工事総額として、最も近いのはどれか?
- 1億円
- 2億円
- 3億円
この過去記事では、担当者が赤字工事を認めているのに、詰めが甘かったという場面を想定していますが、それは千日の完全な創造(想像)です。
相手が完全に隠すつもりで来ていたら、まずその時点では分からないでしょう。ただし、工事の実際原価はいずれ確定する事で明るみになります。
いずれにしても、
会計の専門家であっても、見積原価総額についてはどうしても限界がある。
と言えます。
この点において金融庁の指摘は厳し過ぎるというか、基本的な監査の限界という事では?と思います。
まとめ
簡潔に説明しますと言った割には、込み入った話になってしまったかもしれません。『監査法人の監査はザルだな』的な話を書けばウケるんでしょうが。
個人ブログとしては、そこは自由なので敢えて最後の締めとしては、新日本監査法人を弁護してみました。金融庁も、ちょっと変な事言ってるんです。
長くなりましたが、マイベストエントリーは『ブログに何を書くか?どう書くか?』インターネットを通じて自分の意見を公開したいという人には是非読んでほしい記事です。
半年近く前の記事ですが、今でも読み返すと心拍数が上がります。この記事で送りたかった私のエールが東芝の社員に届いたと信じています。
今週のお題「マイベストエントリー」
以上、千日のブログでした。
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