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 京都、とりわけ「洛中」の人ならではの気質を皮肉を込めてつづった「京都ぎらい」(朝日新書)の売れ行きが好調だ。物議を醸しそうなタイトルに込めた思いは何なのか。京都出身の著者、井上章一・国際日本文化研究センター副所長(60)に聞いた。

 「京都にはいやなところがある」

 同書は冒頭からそう宣言する。その理由として井上さんが指摘するのは、洛中の「中華思想」だ。

 「洛中」は上京区、中京区、下京区といった京都市の中心部を指す。「洛外」である嵯峨(右京区)出身の井上さんは、一部の洛中の人たちに田舎者扱いされてきたという。洛中出身の著名な仏文学者とのやりとり、宇治市出身のプロレスラーの凱旋(がいせん)興行でのエピソードで、洛中人への嫌悪感をにじませる。

 「洛中には『関東へ下る』という言葉を使う人が今でもいる。(いまだに)こういう言葉遣いをするのは、みっともないと思うんです」

 専門は建築史。本書は言わば「余技」だが、9月の発売開始以来、既に8刷7万部に達した。「私と同じような仕打ちに遭った人にはウケるかもしれないと思っていたが、まさかここまで売れるとは」

 中身は「京都ぎらい」に終始しているわけではない。洛中のお寺や花街などについて独自の考察を深める一方、南朝とゆかりが深い嵯峨の歴史をたどる。洛中の「いけず」を非難しつつ、自分の故郷のことは誇らしく思っているのではと勘ぐると、こんな答えが返ってきた。

 「洛中の人と接しなければ、こんなに嵯峨のことを考えず、その魅力に気づかなかった。こんな意識の持ち主になったことを、うれしがっているように見えるかもしれません」

 洛中のある書店では、本書の売り場に「本当は好きなくせに」と記されたポップが置かれたという。「嫌悪」だけではなく、洛中の意識に対する淡い「親近感」がにじんでいる点がヒットの秘密かもしれない。

 人々の価値観は時代の流れとともに移ろうものだが、井上さんは「洛中のこうした意識は今後も残る」とみる。

 「洛中に移り住んだ知り合いの外国人は、この本を読んで『○○(洛外のある地区)が京都ではないなんて、当たり前ですよ』と言っていた。京都にあこがれて移り住み、そうした意識を持つようになる人が増えるかもしれません」

 本体760円。(村瀬信也)