塩ビ管スピーカー『RSS-01』製作者インタビュー
NUDE CABLEの開発者、池田佳則氏が製作するスピーカー『RSS-01』。これまでのスピーカーの概念を覆す構造の、モニタースピーカー開発の原点とは。そして池田氏が、音楽に携わる人々へ伝えたい想いとは。ASIAN KUNG-FU GENERATIONやゆずなどの大物アーティストを輩出しているスタジオジャストのオーナーであり、また自身もドラマーとしてZildjianのエンドーサー契約を結んでいる田中雅織氏をインタビュアーに迎え『RSS-01』の魅力に迫ります。
低価格で忠実に音を再現できるスピーカーを作れないか
田中雅織(以下田中)
まず初めに、このスピーカー『RSS-01』を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
池田佳則(以下池田)
もともとスタジオを経営していたので若手アーティストたちと話す機会が多く、その中で、彼らが自分たちの演奏を客観的に聴けていないのでは?と気づいたんです。自分たちが演奏した音をスピーカーやヘッドホンに左右されてしまった音で聴いていると、なかなか演奏の上達にもつながらないと思います。
田中
とはいえ本格的にモニタリングをしようと思ったらそれなりの値段のスピーカーが必要ですよね。
池田
はい。それでずっと、価格を抑えられて、かつ忠実に音を再現できるスピーカーを作れないかと考えていたんです。そしたらちょうどテレビで塩ビ管を使ってスピーカーをつくる番組が放送されていて、「これだ!」と思いました。スピーカーの箱を塩ビ管という非常に安価な素材で作れるなら、価格は抑えられると。でも音はどうだろうかと思い、さっそく材料を集めてスピーカーを自作したところ、結構それなりにいい音が出て驚きました。
田中
アーティストがきちんとした楽曲を製作しようと思ったら、普通どのくらいの価格帯のスピーカーが必要でしょうか。
池田
そのアーティストがどのくらいのクオリティを求めているかにもよると思いますが、自分が演奏した音を正確に把握できるスピーカーという意味でいうと、僕の知る限りではペアで15万円くらいするスピーカーなら、満足のいく解像度が得られると思っています。だから若手アーティストのためにと思って作り始めた塩ビ管スピーカーも、できればその値段のスピーカーと同等のクオリティを出したいと思ったんです。
田中
ドラムでもアクリルを使用しているモデルなどもあるので、素材としては問題ないように思うのですが、それでもそのままで15万円のスピーカーと同等の音が出せるのかってなかなか信じがたいですよね。
池田
そうですね。なので発想の転換が必要でした。いろんな人に相談したりしながらずっと考えていたのですが、ある日自分でギターを弾いているときにひらめいたんです。「ギターって弦だけでなくギター全体で音を出してる。スピーカーももしかしたら筐体まで振動させることで、これまでにない音が出せるようになるかもしれない」と。
さっそく塩ビ管スピーカーの構造を大幅に変更して、スピーカーそのものが音を発するように改造しました。そしたら、普通このサイズのスピーカーではなかなか出すのが難しい低音や、曲を演奏している臨場感などが表現できるくらい鮮明な音が出るようになり、スピーカーとしてのクオリティが一気に上がりました。
田中
でもその発想ってなかなかでませんよね。だってオーディオ業界などでは特に筐体が振動するスピーカーなんてスピーカーじゃないみたいな風潮というか、そもそも筐体は振動しないものっていう固定概念みたいなものがありますよね。
池田
僕はずっと自分で楽器を演奏しているので、物事を考えるときの原点が楽器なんです。どうしたら楽器の音が良く鳴るか、良く聴こえるようになるのか、そんなことをずっと考えてきたので、このスピーカーを作るときもやっぱり楽器本来の音が聴こえるようになるにはどうしたらいいか、という想いがあったんですね。
だから自分の理想に近づけるためなら、固定概念なんて気にしません。楽器や演奏そのものの音が出るなら、自分にとってはそれが最高のモニタースピーカーなんです。
田中
NUDE CABLEもそうだと思いますが、「ありのままの音」とか、「楽器そのものの音」というのが池田さんにとっての大きなテーマのように感じますね。
池田
楽器を演奏する人は、自分が演奏する音を自分できちんと把握していなければいけないと思います。でないと、例えば楽器が調子悪くなって本来の音が出せなくなってしまっているのにそれに気づけないとか、本当は自分の演奏がつたないのに楽器のせいにしてしまうとか、そういったことにつながるのではないかと思います。
音楽を聴く人にとって、イコライザーの1目盛りの違いなどを気にされる方は少ないと思いますが、音楽を作る側の人間はその1目盛りの違いを確実に認識できなければいけません。あの楽器の音が近いとか遠いとか、目盛りを1つ動かしたその些細な音の違いを表現できるスピーカーがあれば、製作作業のクオリティは確実にレベルアップするんです。
田中
演奏する側としては、演奏時に表現したいと思っていたことが、録音されたものをスピーカーを通して聴いたときに表現されていないとやっぱりもどかしい気持ちになりますからね。それはDTMなどPCをつかって製作する音楽も一緒で、何か音楽ソフトを使って出す音もハイハットの音の細かな違いとか、バスドラムの響き方のわずかな違いなど、さすがにパソコンのスピーカーではそこまで表現できませんし、せっかくいい音楽を作るならいい環境で製作したいものですね。
池田
そうですね。RSS-01は決して安いスピーカーではないと思いますが、いい音楽は作りたいけどモニタースピーカーに何十万もかけられないよ、という方々に使ってもらえたらうれしいですね。インターネットの普及で音楽を手軽に楽しめるようになりましたが、この先も、より身近に、より良い音楽が溢れることを願っています。
池田佳則 (いけだよしのり)
The NUDE CABLE 代表 / プロデューサー / ギターサウンド・テクニシャン
20代に幾多のブルース、ファンクバンドでギタリストとして活動後、2006年にワイルドフラワー・スタジオを設立。
2015年5月に同スタジオを売却。同時期にギター、ベースサウンドテクニシャンとしても活動を始める。
また「楽器整体」という独自技術を考案。卓越した楽器セットアップ技術により、「耳の付いた手を持つ男」と称される。
2009年にNUDE CABLEを開発。
現在も、音響技術業務と同時にアーティストの育成、プロデュース、レコーディング、演奏指導などを行い、活動の幅を広げている。
田中雅織 (たなかまさおり)
株式会社ジャストサウンドエンジニアリング代表取締役 / スタジオジャストオーナー / ジルジャンアーティスト
10代からレコーディングドラマーとしてスタジオワークを開始。その後ドラム講師としての活動も始める。
また自身のバンドでも全国ツアーを行う。
2010年からスタジオジャストのオーナーとなる。
2012年からシンバルの老舗メーカーであるZildjian社と契約を交わし、ジルジャンアーティストとなる。
その後も多くの作品にドラマーとして参加しながら、ドラマーの育成も続けている。
2014年には自身のバンドでフィリピン、マニラでのライブを成功させ、いまも精力的に活動を続けている。
撮影協力
STUDIO JUST
9帖から24帖までの幅広い大きさのスタジオを完備
楽器レッスン、メンテナンス、保管などのサービスも充実
住所: 神奈川県横浜市金沢区能見台通34-10・能見台アイビル3F
電話: 045-730-1500
URL: http://www.studio-just.com/